2012年、国内では過去最大級の営業秘密侵害訴訟が提起された、ということで一躍注目を集めた新日鉄対ポスコの事件が、長い歳月を経てとうとう決着を見た、ということが、日経紙の1面で大々的に報じられた。
「新日鉄住金は30日、韓国鉄鋼大手ポスコなどを相手取り高級鋼板の製造技術を不正取得したとして損害賠償などを求めた訴訟で、ポスコから300億円の支払いを受け、和解したと発表した。」(日本経済新聞2015年10月1日付朝刊・第1面、強調筆者以下同じ。)
思えば、この事件と、その後発覚した東芝のフラッシュメモリ事件が、「日本企業の技術が新興国企業に盗まれる」という危機感を立法関係者筋にアピールし、不正競争防止法を大幅な改正に向かわせる原動力となった、といっても過言ではないだろう。
そして、記事によれば、今回の和解では、韓国ポスコ側から高額の和解金が支払われるだけでなく、今後のライセンス契約締結や、ポスコ製品の販売地域の限定にも同意できた、ということのようだから、「日本企業が実質的に全面勝利した事例」として、当局やメディア等の“啓発”活動にも、この事例が長らく使われることになることだろう。
元々、別件訴訟で「新日鉄の技術を使った」ということを、被告側関係者が認めたことがこの紛争の発端となっていたはずだから、事実関係としては“不正使用”が認められる可能性が高い事例で、こういう形で順当に決着が付いたのは悪い話ではないと自分も思う。
ただ、3年前に、このニュースが出てきてからしばらくの間、当ブログでチクリチクリとコメントしていたように、「今回は日本企業が被害者」だったからといって、この先も未来永劫日本企業が「被害者」の立場であり続けられる(言いかえれば、日本の会社の技術が、周辺国や現在の新興国に狙われるようなレベルのものであり続けられる)とは限らない。
歴史をちょっと遡れば、「営業秘密」というフレーズが「外国企業に技術を奪われた」と主張する場面よりも、「外国企業から技術を奪われた、と主張される」場面で登場する方が遥かに多かった時代に辿り着けるはずだし、それゆえ、今の日本と同様に、「技術を盗む側」と思われていた国が一気に逆の立場になる可能性にも、十分留意する必要がある。
そう考えると、今回の新日鉄(住金)とポスコの事件が後々どういう評価を受けることになるのか、今の時点では「何とも言えない」以上のことは言いようがない。
この先数十年、この国が「(潜在的な)技術流出国」というポジションを保ち続けることができれば、新日鉄・ポスコ事件は、この国が本格的な営業秘密保護に舵を切る大きな一歩だったとして肯定的な評価を受け続けることになるだろうし、逆に日本のポジションが変わってしまったら、立法政策をミスリードした事例、として、批判を受けることも考えられるだろう。
そういった力関係やバランス、というものは、いつどう変わるか分からないだけに、今年の不正競争防止法改正の過程で目指された方向性に拘泥することなく、その時々の状況を踏まえて柔軟に対応できるようにしておくのがよいのではないかな、と自分は思うわけだが、さてどうなるか・・・。
提訴から約3年半、という時間の重みを感じながら、そんなことを考えてしまった次第である。
<過去のエントリー>
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120430/1335888934
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120522/1338139931
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121026/1351413817