素晴らしき日曜日に、微かに見えた幻。

去年の秋、エイシンヒカリ、という個性的な逃げ馬が一躍脚光を浴び始め、今年に入ってからも破竹の勢いで重賞を連勝した時、そして、武豊騎手が秋の天皇賞という大舞台(しかもレースの日付まで同じ)でその馬の手綱を取ることが決まった時、自分は、17年前の幻にようやく再会できるのではないか、という錯覚に陥った。

3歳時(旧4歳時)には負けることも多かった“幻”の馬とは異なり、ヒカリの戦績はここまで9戦8勝。

逃げ馬は不利だ、とか、天皇賞はそんなに甘くない、とか、戦前に散々言われても、これまで同様に逃げ切って盾を勝ち取るようなことになれば、多くのファンにとっての1998年11月1日のトラウマは、美しい記憶で塗り替えられる・・・はずだった。


あの日のようなきれいな単騎逃げにならなかったのは、馬自身のスピード能力のせいか*1、それとも、エイシンヒカリがまだ単騎逃げを許されるほどのオーラをまとっていなかったからなのか、馬に乗っていない自分にはわからないのだけど、さほど速いペースでもない展開*2にもかかわらず、クラレントに競りかけられて頭を押さえられ、直線に入っても伸びきれずにズルズル後退していったエイシンヒカリの姿は、かのサイレンススズカとは比べようもなかった・・・。


京都大賞典組は勝てない」というもう一つのジンクスを破り、年度代表馬に一歩近づいたラブリーデイの強さは圧巻だったし、人気と実績を素直に信じて優勝馬の馬券を買ったファンにとっては、今日は馬名のとおりの「素晴らしい一日」になったことだろう*3

そして、稀代の逃げ馬への微かな期待が裏切られた今、一オールドファンとしても、馬券を外した悔しさより、“記憶の中の幻がそのまま上書きされずに残った”ことを、この素晴らしき日に、素直に喜ぶべきなのかもしれないな、と思っている*4

*1:サイレンススズカの時は、10秒台のラップを刻んでいたはずだが、今回のレースではせいぜい12秒前後のペースでしかない。

*2:1000mの通過は1分を超えている。

*3:なお、オーナーの金子真人氏がわずか20年ほどの間に、旧八大競走全制覇、という偉業を成し遂げたことも、この日のトピックとして語り継がれるべきことだと思う。単に強い馬、稼ぐ馬を走らせていた、というだけではなく、血統面も含めて日本の競馬界の礎となる馬(クロフネキングカメハメハ等)を“発掘して育てた”という面で、金子氏の競馬界への貢献度は極めて高い。馬主が無理使いさせたせいで才能が開花する前につぶれた馬も、世の中にはごまんといるのだから・・・。

*4:いつか、自分が生きている間に、「異次元のスピードで逃げる馬が、後続に影をも踏ませないまま東京の2000mをゴールまで駆け抜ける」という瞬間に巡り合えたら、という思いはあるのだけれど、今日はその日ではなかった、ということで。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html