JASRACによる放送局向けの包括許諾契約に独禁法違反、との判断が下ったのは今年の4月のこと。
今年の秋には、JASRACの独占に風穴を開けるべくエイベックスが動き出した、というニュースも報じられていた*1。
そして、その続報ともいうべき記事が、この年末に再び登場した。
「エイベックス・グループ・ホールディングスが音楽業界に変革を仕掛ける。17日、系列著作権管理会社2社を2016年2月に統合すると発表した。」(日本経済新聞2015年12月18日付朝刊・第15面)
新たに登場する新会社の名前は「NexTone(ネクストーン)」。
記事の中で紹介されている、
「公平で透明で柔軟な著作権管理」
という新会社の理想はまさに“JASRACに対するアンチテーゼ”であり、音楽業界のみならず、著作権にかかわる全ての人々にとって、この会社が打ち出す「著作権管理」の形が、この先の注目の的になることだろう。
とはいえ、JASRACの管理楽曲数300万曲超に対し、新会社の管理楽曲数は約9万曲。
使用料徴収額も、JASRACの約1100億円に対して、新会社は約20億円、と、圧倒的な差を付けられた状態での船出となる。
記事の中でも、エイベックスがリリースしている楽曲ですら、作詞家、作曲家の合意を取り付ける手続に時間を要しており、スムーズにJASRACから新会社への移行を進められない、という状況がある上に、演奏権絡みのエンフォースメントについては、当面自力ではできない、といったことが書かれており、「風穴」を開けるのは容易ではない、ということが伝わってくる。
これまで、このブログで何度も書かせていただいた通り、ユーザーにしてみれば、許諾窓口が複数になる、というのはあまり歓迎すべき話ではない。
もちろん、「著作権管理」という業務の性質上、使いたい楽曲を新会社が管理しているのであれば、そちらの方に許諾の申請をせざるを得ないのだが、その際の条件がJASRACと大差なく、手間だけ余分にかかる、ということになると、ユーザー側に“新会社管理楽曲忌避”という現象が起きても不思議ではない、ということになる*2。
また、楽曲を信託する側にとっても、“適正な徴収&配分”がなされるかどうか、という点は重大な関心事になるはずで、新会社に楽曲を移し替えたが、思うように利用料が分配されてこない、ということになれば、力のある作詞家、作曲家ほど、新会社への信託を躊躇するようになってしまうだろう*3。
いずれも、最終的にはエイベックスそのものの命運にかかわってくる話だけに、この話題に触れるたび、「思い切ったことをするものだなぁ」と自分は感心してしまうのであるが、最初の思いきりの良さ、だけが評価されて終わってしまう試みは世の中にいくらでもある。
何年か経った後に、「やっぱりJASRACは偉大だった」という結論しか残らないのか、それとも、新会社が新たな音楽の柔軟な利用スキーム構築に寄与し、著作権管理の歴史を変えるのか。
できることなら、エイベックスの思い切った英断が裏目に出ることなく、後者の展開になってくれることを期待して、もうしばらく見守っていくことにしたい。