“あと一つ”を阻んだ因縁。

一応「G1」とはいえ、例年なら、「有馬記念の前の週の地味なレース」という位置付けで通り過ぎるだけだった朝日杯フューチュリティステークス
だが、今年は「中央平地全G1レース完全制覇」という記録がかかる武豊騎手の騎乗に大きな注目が集まり、いつになく緊張感のある状況となった。

「22」も存在するレースの全てに勝てる騎手がこの世に現れるのは、それこそ百年に一人、というレベルの話だから、注目されるのは分かるにしても、武豊騎手自身は、マイルCSサダムパテックで制した2012年に、既に“リーチ”をかけていたわけで、朝日杯FSにも、その年以降毎年騎乗していたわけだから*1、なぜ今年だけ? という突っ込みはあってしかるべきだと思うのだが、6年ぶりに3ケタの勝ち星に乗せた今シーズンの武豊騎手の充実ぶりや、新馬デイリー杯2歳Sと、圧倒的な強さで連勝を重ねた騎乗馬エアスピネルの強さが、期待を最大レベルに膨らませたのだろう。

実際、武豊騎手が操るエアスピネルのレースぶりは、この日も完璧に近かった。

単勝1.5倍、という圧倒的人気を裏切らない落ち着きぶりで、速めの逃げを打つ先行馬を中団前めで追走。
4コーナーを内過ぎず、外過ぎずの絶妙なコース取りで回って、直線に入ってから堂々の抜け出し。
これぞ武豊、という鉄板王道のレースぶりだった。

いつもの年なら(少なくとも中山競馬場でレースが行われていた2年前までなら)決してこのレースには出なかったであろう、“王道のクラシック血統”リオンディーズが2戦目で思い切ってこのレースに挑み、しかも、鞍上に名手M・デムーロ騎手を擁していたことが、最後の悲劇につながってしまったのだが*2、それでも3着の馬とは実に4馬身差。

エアスピネルがそのままゴール板まで先頭で走り抜けていても誰も文句を言わなかっただろうし、それが実現していれば、実に美しい絵になっただろうから、何とも残念なことだと思う。

翌年のクラシックを見据えた芝2000mのレースが東に行き、“関東ローカル”の雰囲気が強かったマイル戦が西に来た、という番組編成のアヤ、と言えばそれまでなのだが*3、既に40歳代も半ばを超えた武豊騎手にとって、この千載一遇のチャンスを逃したことが来年以降どう響くのか。

思えば遡ること10年前、牡馬のお手馬・ディープインパクトと並んで、牝馬でもクラシック3冠全てで優勝候補に名を挙げられていたのが、スピネルの母・エアメサイアであった。
そしてそのメサイアを上がり33秒3の脚で差し切り、オークス2着に甘んじさせたのが、リオンディーズの母・シーザリオ

武豊騎手は、エアメサイアの全レースに騎乗し、その後、秋華賞のタイトルと、ヴィクトリアマイル2着、という堂々の実績を残したが、あの年取れなかった桜花賞オークスのタイトルは、その後10年かけてもまだ奪い返せていない。

メサイアの血統にマイル色が強いことを考えると、今後、エアスピネルリオンディーズに直接挑む、という対決が見られるシーンはそう多くないような気もするのだが*4、一度きりの対決でも“因縁”というのは恐ろしいわけで、息子に遺伝した悲劇の遺伝子が、不世出の名騎手の「22」個目&最後のG1タイトルを阻んだ・・・、と後々言われてしまうのは何とも忍びないだけに、来年、さらっと何事もなかったように武豊騎手が最後の一冠を手にするシーンを見届けられることを、今は願うのみである*5

*1:2012年にはティーハーフ、2014年にはアクティブミノルに騎乗して掲示板に乗せているし、2013年にはベルカントで3番人気に支持されていた。

*2:馬にとっては短い距離、ということを十分承知した上で、道中思い切って最後方待機の戦略を取り、最後のコーナーでも大外を回してから上がり33秒3で一気に交わし去る、という芸当は、並の騎手にできる業ではない。この日に関しては、相手が悪かった、と言わざるを得ない。

*3:武豊騎手がこのタイトルを最後まで残してしまったのも、自分のお手馬のうちクラシックを狙えるような素材の2歳馬が、ことごとく朝日杯ではなくラジオNIKKEI(たんぱ)の方に出ていた、というのが大きい。

*4:また、仮に、スピネルがクラシック路線に進んだとしても、武豊騎手はもう一頭のクラシック候補・ドレッドノータスの方を選ぶような気がする。

*5:ダンスインザダークでダービーを逃した時に、“永遠に縁がないんじゃないか”と囁かれても、2年後、何の躊躇いもなく壁を越えた。そんなシーンを何度も目撃しているだけに、武豊は最後までそういう騎手だ、と、今は信じたい。