“名勝負”になり損ねた好カード。

ここ数年、決勝戦で名勝負を目撃することが多かった全国高校サッカー選手権

昨年の決勝*1にしても、一昨年の決勝*2にしても、さらにその前の年*3にしても、さらに遡った2012年の決勝*4にしても、一進一退の攻防を経て同点のまま延長戦に突入し、そこでまたドラマを演出する・・・、という見事な戦いぶり。

優秀な指導者が全国に散らばって、どの地域から出てきても戦力的には遜色ないチーム作りができるようになったこと、そして、そんなふうに力が拮抗した状況で、一発勝負のトーナメント戦で「負けない」戦いができるチームが勝ち上がり、決勝でぶつかっていること、が、4年連続の延長戦決着、という結果につながったのではないかと推察しているが、特に直近の3回は、最初に聞いた時は“地味だなぁ”と思った対戦が、終わってみれば・・・という嬉しいサプライズに満ちていた。

翻って今年の決勝は、“赤い彗星”時代の黄金期を彷彿させる東福岡と、地元・東京代表の国学院久我山が対戦する、という華やかなカード。

東福岡は、98年、99年の連覇以来、選手権の優勝から遠ざかってこそいるものの、夏のインターハイでは2連覇を達成しており、優勝の最有力候補に挙げられていたチーム。
一方の国学院久我山は、決勝進出は今回が初めてとはいえ、長年、華麗に繋ぐパスサッカーを志向し続けてきた面白いチームで、首都圏のファンには知名度が高かったし、今大会でも派手な勝ち上がりを見せていたから*5、準決勝の結果を聞いた時に、はるばる埼玉まで試合を見に行こうか、と思ったくらい、興奮した。

そもそも、自分は、「東福岡」という名前を聞いただけで、本山選手を中心とした“完全無敗”の最強チームを思い浮かべ、“雪の決勝”の映像がリアルに蘇ってくる世代だ。

市立船橋の連覇の夢を打ち砕き*6、黄金期を迎えていた帝京高校を1度ならず2度までも決勝の舞台で一敗地にまみれさせた。
関東勢のチームのファンにとっては、いわば“最強のヒール”だったチームが、17年の時を超えて、再び決勝の舞台で東京代表のチームとあいまみえる、ということに、一種のドラマ性を感じたことも否定しない*7

いずれにしても、最近では珍しいくらいにワクワクしながら迎えたのが、今年の決勝だったのだ。

それなのに・・・


前半立ち上がりの両チームの攻防を見る限り、今回の対戦が「好カード」だったことは間違いないと思う。

特に、キックオフ直後の国学院久我山の選手たちは、自分たちのテクニックを惜しみなく披露して、繋ぐサッカーで東福岡ゴールに迫ろうとする意思を見せていた。
とりわけ目についたのは、前線の渋谷選手の巧みなドリブルや、名倉選手のトラップ、パスのテクニック、そして、DFの野村選手のボールを奪ってからの絶妙な組み立て、といったところで、決してアスリートとしての体格に恵まれているわけではないが、ボールを持つと次に何をしてくれるのか・・・と観衆を期待させてくれる雰囲気を持った選手たちだった。

残念だったのは、東福岡のサイド攻撃のあまりの鋭さゆえ、久我山の両翼が封じられ、攻撃のパターンが、事実上、名倉−渋谷という中央突破一本に絞られるような形になってしまったこと。そして、時間が経てばたつほどに、東福岡の選手たちの鍛え抜かれたフィジカルと、高校生とは思えないような攻守の切り替えの速さが、久我山の才人たちの活躍の場を奪い、一方的な試合展開になっていった。

前半36分に、ゴール前で完全にフリーになった三宅選手に思い切りの良いシュート*8を打たれて先制された時点で、その後の厳しい展開は覚悟していたのだが、後半開始早々のトリックFK*9での2点目、餅山選手の冷静なヒールキックでの3点目、と、得点が積み重なるにつれ、際立つ残酷なコントラスト・・・。

もし、東福岡の対戦相手が、攻め手はシンプルでもゴール前をしっかり固めるタイプのチームや、豊富な運動量でタフに走り回るチームであれば、こんなに点差が開くことはなかっただろうし、これまでの決勝戦のように、ロースコアの展開に持ち込んで、終了間際にまさかの・・・という展開もあり得たかもしれない。

だが、そういう“魔物”を引き出すには、国学院久我山の戦い方はあまりに正攻法過ぎたし、東福岡の個々の選手たちのレベルは高かった。

終わってみれば5−0。

これまでの大会でも、決勝戦で大差が付いた試合を何度か見てきた*10が、今回の決勝は、どちらかと言えば、高校生同士の試合の記憶よりも、スペインがイタリアを完膚なきまでに叩きのめした前回のユーロ決勝の記憶を思い起こさせる。
伝統のカテナチオスタイルではなく、パス主体の華麗なサッカーで久々の復活を遂げつつあったイタリアが、同じスタイルで世界の頂点に君臨していたスペインに正面から挑んで散った試合。

好カードではあったが、名勝負にはならなかった、というべきか、「好カード」だったからこそ、名勝負にもつれ込ませるバランスが働かなかった、というべきなのかは分からないが、この日の試合に関して言えば、点差だけ見て“凡戦”と決めつけるのは早計ではないかと思っている。

幸いなことに、国学院久我山の攻撃陣の核となる選手はいずれも2年生だし、GKの平田選手(1年)をはじめ、守備陣にもまだ来年がある選手は多い。

激しいマークと体を張った守備*11の前に、自由にボールを持てる機会はほとんどなく、最後は、気力も尽き果てた感があった名倉選手や、他の才能あふれる選手たちが、今回の悔しさをバネに奮起すれば、国学院久我山はさらに一回り大きなチームになって、1年後、この舞台に戻ってくることだろう。

もちろん、東福岡も、インターハイ得点王で、今大会でも抜群のセンスを見せていた藤川選手が2年生だし、チームの層の厚さを考えれば、来年も再び決勝の舞台まで戻って来られるだけの陣容は揃うはず。

今の高校サッカー界は、どのチームが勝ちあがっても不思議ではない、という“戦国期”の真っただ中にあるだけに、同じ学校同士が、2度続けて決勝で戦った90年代のような事態が再び訪れる可能性は決して高くないだろうが、この90分を見届けた者として、再び両校が合いまみえる機会が来ることを強く念じながら、1年後を待つことにしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20150112/1421172522

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140113/1389631980

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130119/1358662468

*4:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120109/1326134480

*5:楽勝ムードから後半ロスタイムで同点に追いつかれた明秀日立戦だけはヒヤッとしたが、後の試合は、勝つべくして勝った、という試合だったように思う。

*6:余談だが、今大会でも東福岡対市立船橋、というカードは事実上の決勝戦のような試合だった。0−0でPK戦、そして市船が負ける、という20年前の再現のような形になってしまったのは残念だったが、どこかで10倍にして返してくれると信じている。

*7:同じ「東京代表」といっても、(当時の)帝京と国学院久我山は全く違うタイプのチームだし、日テレのアナウンサーが散々煽るのを聞いているうちに、ちょっと興醒めしてしまったところはあるが。

*8:GKも良く反応はしていたのだが、脇を抜かれる、という気の毒な形での失点になってしまった。

*9:味方の壁を敵陣方向に動かしながらFKを放つ、という奇策で、最初見た時は何じゃこりゃ、と思ったが、冷静に見返すと、あの弾道でゴールの隅に突き刺した中村選手を誉めるしかない、というゴールであった。

*10:特に、市立船橋が初優勝したときのお祭り騒ぎは、今でも思い出す(その時の対戦相手も東京代表の帝京高校)。

*11:後半、国学院久我山がパス回しから数少ないチャンスを掴んでも、次の瞬間に前線から戻った東福岡の選手たちが「赤い壁」を築いて、パス、シュートコースがことごとく封じられる、というパターンが多かった。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html