遂に始まった“刺客”の連載。

書店の法律書コーナーから、ここ数か月すっかり足が遠のいてしまっていたこともあって、なかなか手に取る機会がなかった「Business Law Journal」誌。

Business Law Journal(ビジネスロー・ジャーナル) 2016年 06 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロー・ジャーナル) 2016年 06 月号 [雑誌]

久しぶりに買って読んでみたら、「特集 これからの取締役会運営」の事務局担当者の座談会*1など、この雑誌の魅力はいまだ(辛うじて?)生きている、と思わせてくれる記事もあることが分かり、ちょっと嬉しくなったのだが、ここで取り上げたいのはそこではない。

自分が一番注目していたのは、既にSNS等でもいろいろと話題になっている、“ronnor氏のブックレビューの連載化”であり、わざわざ書店に足を伸ばしたのも、その記念すべき第1回の記事を読むためであった。

「企業法務系ブロガーによる辛口法律書レビュー」(124頁以下)というタイトルで始まったこの連載。
著者の「企業法務系ブロガー」ことronnor氏の、豊富な知識と情報量に裏打ちされたコメントの鋭さと、厳しさに震えながらも思わずクスッと笑ってしまうような洒落たウィットの素晴らしさは、過去2年の年末の書評記事によってもはやBLJ読者には周知の事実であり、今さらここで紹介するまでもなかろう*2

その上で、個人的な興味は、これまで「一年を振り返る」というコンセプトの下、その年に刊行された書籍を網羅的に紹介する、というronnor氏の記事のコンセプトが、連載化によってどのように変わるのか、ということにあった。

蓋を開けてみれば、「3カ月に1回の頻度」での連載、かつ「法務パーソンが私費であっても買うべきもの」を取りあげる、というコンセプトで、初回は「2015年11月〜2016年2月」に発行された書籍の中から10冊を取りあげる、という形になっている。
そして、記事の中では、このコンセプトに従い、絶対に外せない定番書か、何かしら“独自の工夫”が凝らされている書籍を対象に取り上げる書籍を選んだのだろう、確かに、書評を読んだだけで一度手に取ってみたい、という衝動に駆られてしまうものは多かった*3

もちろん、その一方で、持ち味の厳しいコメントは健在で、特に、長年版を重ねて定評のある某基本書を「マストバイ」としながら、改訂を重ね過ぎたゆえの“薮”の問題点をそれ以上の行数を割いて指摘しているくだり(124頁)や、個人情報保護法の一問一答に関して「出版社のウェブサイトから資料をダウンロード可能としたうえで、本文だけを150頁、1500円で売ってもらえないかと思った次第である。」(128頁)*4などは、よくぞ言ってくれた、という感がある。

ということで、連載の初回は、ほぼ期待通り、という仕上がりになっていたと思うし、僅か6ページ、しかも牛島先生のコラムのさらに後ろ、という地味なポジションながら、「約2000円」という雑誌の価格の半分くらいの価値はある、というのが自分の見立てである*5
最初は地味なスタートでも、じわじわと人気が出てそのうち巻頭カラーページの常連になる、というのは、かつての少年コミック誌の世界でもよくあったことで、ronnor氏の連載が、巻頭の“OPINION”の真後ろに華やかなカラー記事として登場する日も、そう遠くはないはずだ*6

なお、今回の記事に唯一、注文を付けるとしたら、

「タイトル・テーマは非常に良いのに、記述の踏込みが浅く実務に使えなかったり、内容が誤りに満ちていたりする書籍が多かった」(124頁)

というコメントを残されていながら、

「このレビューでは、そのような書籍名を出すつもりはない」(同上)

とスルーされてしまっていることだろうか。

純粋な大人の事情なのか、それとも、ヘタに出してしまってモノ好きな人の購買意欲をそそっては逆効果、という深謀遠慮に基づくものなのか自分には知る由もないが、書籍代を必要経費で落とす、という芸当ができない法務パーソンにとって、「買ってはいけない書籍」の情報を得ることは、「買うべき書籍」の情報を得ることと同じくらい大事なことだけに、次回からは、せめて「ronnor氏があえてスルーした書籍はどれか?」ということが分かるような「四半期に読んだ本一覧表」を添付していただけるとあり難いな、と思った次第である*7

いずれにしても、連載の第2回、3か月後が待ち遠しい。

*1:「クロストーク 取締役会事務局担当者の試行錯誤」Business Law Journal99号41頁(2016年)。どうしても諸々のコードや解釈指針をなぞっただけの建前論的な論稿になってしまいがちな「実務家」(弁護士、コンサル等)の論稿とは異なり、本当の意味で実務に携わっている方々ならではの興味深いネタや考え方が満載で、「これぞBLJ」という印象を強く受ける良企画ではないかと思う。(たぶんないだろうが)機会があれば、またどこかで言及できれば、と思っている。

*2:過去2年の書評記事へのコメントについては、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20151223/1452394861http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20141227/1420003996参照のこと。

*3:もっとも、個人的には、『企業法務のための・・・』が取り上げられているのはちょっと意外な気がする。おそらく「法務パーソンとしてどのように訴訟をマネジメントすればいいのだろうか」という疑問に答えようとしている、というコンセプトを評価されたのだろうが、実際に読んでみれば分かる通り、本の中身はこのコンセプトを十分に満たしているものとはお世辞にも言い難いし、ronnor氏が指摘しているマニアックな箇所以外にも、根本的なミスや誤解を招きやすい記載が多い書籍でもある(自分はAmazonのブックレビューでも指摘されている“2頁目のミス”にげんなりして買うのをやめたクチである)。ここ数年、ユーザー側の視点にも配慮した良質な訴訟本が多数出ている今、あえてこの本を肯定的に取り上げる必要性はなかったのでは・・・?と思わずにはいられない。

*4:自分もこれが理由で、現時点での購入を見送ったクチである。

*5:ronnor氏のお言葉を借りるなら、「このコラムだけを電子書籍化して999円で売ってもらえないか」とでも言うべきか。

*6:そうなった時に、年末の書評特集(特に座談会)がどうなるか、というのは、個人的には気になっているのだが、それは8か月後のお楽しみ、ということになるだろうか。

*7:そうすれば“ボツ本”が何となく透けて見えるだけでなく、『ドイツ団体法論』のようなronnor氏のディープな世界の一端にも多くの読者が触れることができ、一石二鳥である。

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