桜花賞をハナ差で制したジュエラーが骨折で戦線を離脱し、そのレースで大本命に挙げられていたメジャーエンブレムはマイル路線に転進。
依然として大混戦が続いている牡馬陣とは異なり、3歳牝馬のクラシック戦線は、「3強」の中で唯一残ったシンハライト1人勝ち、の様相を呈していた。
唯一の相手と言えば、桜花賞トライアルからオークストライアルに直行、という、いかにも藤沢和雄厩舎らしい路線を歩んできたチェッキーノくらいだったが、この馬の父はキングカメハメハで、母系を眺めても府中2400mの舞台では父・ディープインパクト×母父シングスピール(バリバリのクラシック血統)のシンハライトと比べると分が悪い*1。さらに、3番人気以降の馬となると、オッズが軒並み10倍を超えてしまったことからも明らかなように、頂点に立つには明らかに力不足という雰囲気で、常識人なら、「シンハライトがどれだけ強い勝ち方をするか」ということにしか関心はいかなかったはずである。
ところが・・・
そうシンプルは話が進まないのが競馬の面白いところで、ゲートが開いてからの、緩い、澱みなき流れの中で長い縦列が形成されそのまま直線まで来てしまったことで、中団から後ろに付けていたシンハライトは一気に苦境に立たされた。
そして、本来のお手馬が出走できなくてもただでは終わらない、とばかりに、名手・ミルコ・デムーロ騎手がビッシュを操って、直線でスマートに抜け出した時、シンハライトは後方で馬群に包まれ、立ちはだかる“馬の壁”を前に、どんなに頑張ってもたぶん届かない・・・と目を覆いたくなるような絶望的な状況の中にいた。
結論から言えば、直線の最後の最後、その場にいたら思わずゴール板の位置を確認してしまうようなところから爆発的な脚を繰り出したシンハライトが、同じようなポジションから外に出して追い込んだチェッキーノをクビ差で交わして堂々のタイトルを手に入れたのだが*2、池添騎手が半ば確信犯的にデンコウアンジュの進路を強引に潰しに行かなければ、全く違う結果になっていた可能性はあるわけで*3、まさに薄氷の勝利、というべき結果だった。
最後まで見る者をハラハラさせながらも、ギリギリのところで“強さ”を印象づけたこの馬の凄さを改めて称えるべきなのか、それとも、本命馬をこれだけ不利なポジションに追い込みながら、結局誰も抑え込めなかった*4、というところに世代のレベルを感じるべきなのか、今の時点で結論を出すことはできないのだけれど、彼女と池添騎手がここで見せた意地が、秋になって一段とレベルアップした戦いを支えるものに昇華してくれることを、今は期待している。