2016年8月10日のメモ

大会前に誰も予想しなかったようなところで、日本人メダリストが誕生していろんな秘話が出てくる、というのが五輪の面白いところではあるのだけれど、まさかカヌーでそんなことが起きるとは・・・。

4年後の会場をめぐって一悶着あった競技だけに(というかまだ収まっていない?)、このメダルが選手本人と国内での競技への見方にどういう影響を与えるのか、というのはちょっと興味があるところ。

「弁護士の年収低下」という記事の読み方

2015年の「弁護士の平均年収調査」が「(登録)1年目は568万円で、10年の778万円よりも27%減った。登録5年目は1412万円で、同じく754万円(35%)下がった。」という結果になった、という記事が掲載されており*1、背景要因として、過払金返還請求業務が一巡した、とか、“弁護士余り”とかいったことが挙げられている。

「回収率37%」のアンケートにどれだけの信頼がおけるのか、という問題はあるにしても*2、全体的な傾向として「低下」の方向にあるのは、まぁそうだろうな、と思う*3

もっとも、ひとえに「収入」といっても、“個人事業主”としてのそれと、“給与生活者”としてのそれとでは全く異なるわけで、2000万円の収入で1500万円の経費を負担している人と、600万円の収入で経費負担はほとんどなし、という人を比較して、「後者の方が収入が低いから云々」という話をしてもあまり意味はない*4

弁護士の働き方も、コスト構造も変わってきている中、この統計数値の変化が何を物語るのか、ということについては、もう少し多角的な分析が必要なのではないかと思う。
(なお、この記事が取り上げているのは「司法修習終了者等の経済的な状況に関する調査」*5の結果だと思われるのだが、実際の調査では「所得」ベースの数値も集計されているし、平均値だけでなく中央値ベースでの分析も行われている。)

光と影と。

前回大会での鬱屈を振り払うようなメダルラッシュが続いている柔道。

中盤に突入してからも、世界選手権2連覇中で、金メダルに一番近いといわれていた大野将平選手(男子73キロ級)が前評判通りの圧倒的な強さを見せつけたし、松本薫選手(女子57キロ級)、永瀬貴規選手(男子81キロ級)も銅メダルをもぎ取った。

ほとんどの選手は決勝に辿り着く前に敗退しているから、“お家芸”としてはまだまだなのかもしれないが、「銅メダル」ということは、最後の試合は勝って終わっている、ということで、出場選手間の実力が拮抗する中で、決して美しくなくても最後は執念で勝ち切る、ということに徹していることが、上げ潮ムードにつながっているのではないかと推察する。

で、そんな中、大野選手の戦いぶりを振り返る記事を見て、すっかり忘れていた話を思い出した。

「天理大での部内暴力による謹慎という足踏みもあったが」(日本経済新聞2016年8月10日付朝刊・第32面)

こういう時はとかく美談一色に塗り固められる傾向がある中で、日経紙の記者も良く書いたものだと思うが*6、そういう蹉跌も含めてアスリートの今、が出来上がっているのだから、伝えられるべきことはやはりしっかり伝えられるべきだと思う*7

「心を揺さぶる逆転劇」を改めて振り返る。

12年ぶりに金メダルに輝いた男子体操団体。
前日のエントリーは、まだ余韻冷めやらぬ中で書いたものだったのだが、改めて一日経った後の朝刊でスコア等を振り返ってみると、白井健三選手の貢献度の絶大さはもちろん*8、土壇場で覚醒した田中祐典選手の貢献度の大きさも際立っている*9

で、付けられた見出しは「東京世代 躍動」。

今大会でも、内村航平選手の存在感は(良い意味でも悪い意味でも)圧倒的なものがあるし、今回の金メダルが“世代交代”にすんなりつながるかどうかは、まだまだ未知数のところが多いと思うが、年齢的に近い世代の選手たちがフラットに競い合っていたアテネ五輪の時とはちょっと違うメンバー構成で新しい歴史を作れた、というのもまた事実だけに、ここからの4年間が楽しみである*10

なお、女子体操の団体も、あと一歩の4位。
優勝した米国以外は紙一重の差、という状況の中、途中まで銅メダルも狙える展開だったようだから、もったいないと言えばもったいないのだけれど、ダイジェスト映像で印象に残ったのは、生き生きとした選手たちの感情表現で、徹底したストイックさが前面に出ていたアテネ以前のチームとも、田中理恵選手に引っ張られていたロンドンのチームとも違う、新世代の雰囲気が感じられた。

そして5年前、地元開催の世界体操で救世主となった15歳の少女が、今やチームのキャプテンとして、堂々と受け答えをしている姿を見て感慨深い思いになったのは、自分だけではあるまい。

「手ぶらで帰すわけにはいかない」精神が承継された瞬間

出だしで萩野選手が堂々の金メダリストに輝いたものの、その後、今一つ波に乗り切れていなかった競泳陣も、この日は男子200バタで瀬戸選手の陰に隠れていた坂井聖人選手が銀メダル、そして、男子800mリレーで52年ぶり(!)の銅メダル、と再び勢いを取り戻したようである。

特に今や32歳となり、個人種目では五輪の舞台に立てなかった松田丈志選手が、萩野選手をはじめとする若手チームメンバーに「手ぶらで帰すわけにはいかない」返しをもらった、というエピソードは、道徳の教科書に乗りそうなくらいの良い話である*11

てっきり前回の五輪で引退したと思っていたフェルプス選手(31歳)が復活していて、いつものように金メダルを量産しているのを見てしまうと、勝手に年齢だけ見て限界、と決めつけてもいけないんだよなぁ・・・と思ったりもするのだけれど。

*1:日本経済新聞2016年8月10日付朝刊・第38面。

*2:特に、「平均年収」の数字の絶対値は参考程度に見ておくべきだろう。

*3:周りを見回しても、漏れ聞く限りでの勤務弁護士の給与収入はびっくりするぐらい低い(稼いでいる人間ほどそういう話はしないから、自分から給料の話をする人の給料が安いのは、当たり前と言えば当たり前だが(笑))し、大手事務所の人々の数字ですら、聞いて驚くほどではない(ここは自分の金銭感覚が最近マヒしているせいかもしれないが・・・)。

*4:もちろん、個人事業主の「経費」にもいろんなカラクリがあるから(笑)、後者の方が前者より裕福、と単純にいうこともできないのだが。

*5:5年前の実施結果は、http://www.moj.go.jp/content/000076867.pdf

*6:そもそも、「謹慎」という一言で片づけられるほどの軽い話ではなかったはずなので、これでもオブラートに包まれているといえばその通りなのだが・・・。

*7:そして、同じ年に起きた女子柔道の監督問題に始まる不祥事発覚続きで、全柔連が存亡の危機に立たされていた時期があった、ということも、今大会の総括とともに振り返られるべきことのように思えてならない。

*8:出場したのは2種目だけだが、跳馬で15.633点、床で16.133点だから、2位以下のチームとの得点差はここだけで稼げたといっても過言ではない。

*9:つり輪、平行棒、鉄棒の3種目ですべて3人の演技者中トップのスコア(鉄棒は内村選手と同スコア)を叩き出している、というのが凄い。

*10:なお、コラムを書いているアテネ五輪時の主将、米田功氏が「この日の戦いぶりはアテネ五輪以降の団体戦では一番の内容だったのではないか。内村が『アテネを超えたい』と言い続けてきたと聞いたが、あの大会が語り継がれてきたのは人の心を揺さぶる戦いができたからだと思う。」(日本経済新聞2016年8月10日付朝刊・第33面)と、今大会の偉業を称賛しつつも、アテネで自分たちが成し遂げたことへのプライドをしっかりと滲ませているのが印象的である。

*11:これで最後、英国の泳者に競り勝って2位のポジションを死守できていたら、もっとハッピーな展開だったと思うのだが、それは言うまい。