2016年8月19日のメモ

ニュースとしての価値がより大きな出来事がいくつも起きているのに、それが十分に世の中に伝えられないまま、小さなことの方に報道のリソースが割かれていたりするのを見ると、とても残念な気持ちになる。
吉田選手のニュース一色で塗りつぶされてしまった五輪報道などはまさにその典型*1

何かあるたびに、マス向けメディアに安直な報道をさせないためには、受け手側が日頃からバイアスのかかっていない良質な情報に接し続ける必要がある、ということを痛感するのだが、そこまで辿り着くのにあとどれくらいの日々が必要なのか、まだまだ想像もつかない状況だな、としみじみ思う。

噛み合わない社説

日経紙が、「賢い規制で新技術の普及促進を」というタイトルで、“いつものような”社説を書いている*2
有料会員限定で掲載された本年6月の解説記事*3に最近はやりのライドシェアやドローンの話などをくっ付けた記事になっているのだが、全体的に“うまく行かなかったのは「制度」に問題があったから。うまく行ったのは「制度」が良かったから”という論調で、全く説得力がない。

動画投稿サイトに関していえば、

「明暗を分けたのは技術力ではなく、著作権法などに違反した投稿をめぐる日米のルールの違いだ」

と断定しているが、日本の事業者のサービスでも生き残っているものはちゃんとあるわけで、「事業者がどこまでリスクを取るか」*4という話が、なぜか「日本政府の能力と覚悟」という大上段の話にすり替えられてしまっている、という印象を受ける*5

日米の社会風土の違い、特に法律が正面から規律していない新しい物事を間隙を縫ってやることに対する社会的評価の違いが、日本の事業者が常に“後手”を踏む遠因になっていることを否定するつもりはないが、何でもかんでも「政府」に頼るのは本末転倒だし、新しいことを世の中に受け入れさせるための“社会的合意”を阻む元凶が一貫性のないメディアの論調にある、ということも看過されるべきではない。記者自身、こんな社説を書く前に、やるべきことはあるはずなのである。

今取り上げるべきは「4つの金メダル」であって「1つの銀」ではない。

これまでも、日本の五輪での金メダル獲得の歴史に大きく貢献してきた女子レスリングが、階級の増えたリオでも大きな実績を残した。
特に圧巻だったのは、18日に3階級連続(48キロ級・登坂絵莉選手、58キロ級・伊調馨選手、69キロ級・土性沙羅選手)で、決勝戦での大逆転勝利を飾ったことで、普通なら「無念の銀メダル」という見出しが頭をよぎる残り時間秒単位のタイミングで、勝利を決定づけるポイントを挙げた勝負強さに、彼女たちの日々の鍛練のすさまじさの証を見た気がした。

これまでならもっと盤石な勝ち方ができていた伊調選手がギリギリのところまで追いつめられてしまった、というところに、長く第一人者としてのポジションを維持することの難しさは如実に感じられたし、翌日、日本選手団主将の吉田沙保里選手が女子53キロ級の決勝戦で敗れるに至って*6、何となく女子レスリング全体に“時代の終わり”のような雰囲気が出てきてしまっているのだが、同じ日に圧倒的な強さで伝統の女子63キロ級*7を制した川井梨紗子選手や*8、これまでなかなか五輪で頂点に届かなかった重量級で金メダルを獲った土性選手の存在などは、先々の楽しみを増やしてくれる*9

女子レスリングが五輪の正式競技として定着し、各国の選手層も厚くなっている中、今回栄光を手にした選手たちが、4年後どこまで存在感を示せるのかは分からない。ただ、少なくとも今は、「1つの銀」が「4つの金」を上回って語られるようなことはあってはならないと思う。

積み重ねてきた戦略の果実

吉田選手の「銀」の煽りを食ったような感じにはなっているが、バドミントンの女子ダブルスで、とうとう高橋礼華松友美佐紀組が金メダルに辿り着いた。

本来であれば、男子シングルスの桃田選手、女子シングルスの奥原・山口選手といった世界トップレベルの選手たちが揃って金メダルラッシュ、となっても不思議ではなかったのだが、男子はいろいろあって出場すらままならず、女子は準々決勝での不運な“同士討ち”の末、奥原選手が伏兵のインド選手に足元を掬われて万事休す(それでも日本勢初の銅メダルだから見事な結果ではあるのだが・・・)。
最後に残された砦としてかかるプレッシャーには相当のものがあっただろうが*10デンマークペア相手に最初のセットを落としてからの壮絶な巻き返しで歴史に残る戦いを演出し、最後は頂点に立つことになった。

メディア露出先行気味だった“オグ・シオ”(小椋久美子潮田玲子ペア)の時代に、「五輪でそのうちメダル取れるんじゃないか」くらいなことを言ったら鼻で笑われたものだが、ここまでの躍進は、全てあの時代から始まっている。

「朴柱奉監督を招請して以降の10年以上にわたる強化策が結実した」と一言でまとめてしまうのは簡単だが、その間にも、実業団の名門だった三洋電機が休部に追い込まれたり、今年に入ってからの賭博騒動等、見えるところ、見えないところで山も谷もあったはずで、それでも結果だけ見れば一貫して右肩上がりの成長を遂げてきた、というのは、実に見事なことだと思う*11

あとは、卓球同様、“ラリーがお金になる”競技、かつ4年後の有望種目だけに、もっと気軽に試合を見られるようになることを願ってやまない*12

*1:五輪のネタだけを見ても、まだまだ他に気になるところはたくさんあるのだが・・・。

*2:日本経済新聞2016年8月19日付朝刊・第2面。

*3:内容としては、著作権法プロバイダ責任制限法の規制の影響で、日本企業の動画投稿サイトが米国発のYou Tubeに敗れた、というもの。読める方は限られているかもしれないが、一応リンクはhttp://www.nikkei.com/article/DGXMZO03519520T10C16A6000000/である。

*4:動画サイトに関しては、リスクを取る、というよりは“リスクに目をつむる”という表現の方が正しいかもしれないが・・・。

*5:そもそも、記事は「ユーチューブが2007年に日本語対応サービスを始めたのとほぼ同時期に、NTTグループと日本のヤフーも同様のサービスを開始した」(強調筆者)から「ルール以外の競争条件は同じだったはず」という前提で書かれているように読めるのだが、You Tubeのネット界でのブランド力は日本語対応サービスが登場する前から圧倒的だったわけで、仮に日米のルールに違いがなかったとしても、同じ方向性で勝負しようとしていた限り、日本勢早期撤退、という結論が変わることはなかっただろう。

*6:吉田選手に関しては、“主将のジンクス”以前に去年くらいからピークアウトしかかっている雰囲気はあったので、逆にこの大舞台で決勝戦まですんなり勝ち上がっていった精神力の方が称えられるべきではないかと思う。アテネ井上康生選手の二の舞になっても不思議ではなかっただけに。

*7:元々は伊調馨選手の階級で、川井選手の本来の階級ではない。

*8:せっかくの金メダルが霞んでしまった状況は、昔、野村忠宏選手が金メダルを取っているのに、「田村亮子選手敗れる」のニュースに1面を食われてしまった時のことを何となく思い起こさせる。

*9:吉田選手の階級も、国内に多くの有望選手を抱える階級だけに、彼女の今後の去就にかかわらず、4年後もまだまだ期待はできる。

*10:しかも彼女たちは今年のアジア選手権の決勝で福万・与猶組をガチ対決で下し、日本人2組目の五輪出場を結果的に阻んでしまった、という経緯もある。

*11:外国人コーチを招請して一気に世界トップレベルに引き上げた、という点では、フェンシングとも共通するところが多いが、こちらの方が順調に息長く続いているのはやはり基本的な選手層の厚みの違いに起因するのだろう、と思う。元々バドミントンは誰でも入っていける非常に身近な競技なので、そこで世界への道筋が開ければ、良いサイクルも定着させやすいのかもしれない。

*12:マレーシアとかインドに行ってテレビを付けると、大概バドミントンの試合がスポーツチャンネルで流れていて、全然知らない選手の試合でも見ていると思いのほか面白い。日本もここまで来ているのだから、地上波でとは言わないまでも、もう少し多くの人に届けられる環境を整えてほしいな、と。