2016年10月20日のメモ

日本を振り回すIOC会長のしたたかさ

18日に来日したIOCのバッハ会長。
IOCの視点でみれば一種の“反乱”とも言える東京都の会場計画見直しの動きを鎮圧すべく、実に周到な動きと言動でうぶな日本関係者を翻弄しているように見える。

何と言っても強烈だったのが、会長の日本到着のタイミングでリーク情報として流された「ボート会場を韓国に」という攪乱球で、(会長自身のアイデアかどうかは知らないが)日本人が一番嫌がる球をここで投げてくる、というのが、交渉に長けた欧州の組織らしい対応だな、と妙に感心させられた。

最終的には“復興五輪”のコンセプトに沿うようなリップサービスまでして颯爽と引き揚げていった*1このドイツの弁護士の姿を見て、日本がグローバルな競争で苦戦する理由も、改めて良く分かった気がしたのである。

世界相手にどんなにエエカッコしても、最終的に“レガシー”のツケを背負うのは東京都民であり、日本国民なのだから、日本の政治家も、組織委員会関係者も、「開催返上」の切り札をチラつかせながらタフな交渉を乗り切るくらいのことはしてほしい、と思ってしまうのであるが、それは所詮ないものねだりなのだろうか。

19日に、日本人(渡辺守成・日本体操協会専務理事)が国際体操連盟会長に大差で選出され、そのままIOC委員を目指すのでは?という報道もなされているところではあるが、競技団体としての立場でも、誘致国・参加国の立場でも、「2020」&「ポスト2020」を見据えて魅魍魎渦巻く利権の殿堂で互角に渡り合える日本人が一人でも多く出てきてくれることを、願ってやまない。

23条照会をめぐる最高裁差し戻し判決の謎。

下級審レベルの判断はちょくちょく判例雑誌で見かけることもあって、個人的に興味があった弁護士法23条の2第2項に基づく照会(23条照会)への回答義務の問題について、最高裁が判決を下した、というニュースが小さく掲載されていた。

「裁判に必要な住所照会の回答を拒んだ日本郵便に対し、愛知県弁護士会が損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(木内道祥裁判長)は18日、『正当な理由がない限り回答すべきだが、拒否しても弁護士会への不法行為にはあたらない』として賠償責任を否定する初判断を示した。日本郵便に賠償を命じた二審・名古屋高裁判決を破棄した。」(日本経済新聞2016年10月19日付朝刊・第38面)

これだけ読むと、23条照会に対する回答義務が全面的に否定されてしまったのか? と勘違いしてしまいそうだが、判決文(最三小判平成28年10月18日(H27(受)第1036号))*2を良く読むと、かなり様相は異なっている。

23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。」(2〜3頁)

要は、弁護士会は、制度の適正な運用のために照会権限を付与されているに過ぎないのだから、違法な報告拒絶であったとしても「不法行為に基づく損害賠償」を受けられる立場にない、と言っているに過ぎず、予備的請求として原告が求めている「報告義務確認請求」については、差戻審で認容される余地が残されている*3

したがって、不法行為に基づく(弁護士会への)賠償義務は否定されたが、回答義務の存在まで否定されたわけではない」というのがこの最高裁判決の正しい読み方、ということになる。

ちなみに、行政機関でも私人でも、相手方がしてほしいことをしない時に、名目的な損害賠償請求を立ててそれを認容してもらうことで、事実上相手方の履行を促す、というのは良くとられる方法だし、23条照会回答拒否が問題とされた一連の訴訟も、概ねそういった“手段”として行われたものであったことは間違いない*4

だが、最高裁は、少なくとも23条照会に関しては、そのような「本筋ではない攻め方」で「弁護士会が」回答義務の履行を求めることに消極的な姿勢を示した*5

これまで、回答拒否に対する損害賠償請求については、照会申出を行った個々の弁護士に対する不法行為が認められるのか、それとも弁護士会に対する不法行為が認められるのか、という論点があり、下級審レベルでは後者のみが認められる、という判断が定着していた、という経緯もあるし、そのような判断に則って弁護士会が23条照会の実効性を高めるためのアクションを取ってきた、という実態もあるだけに、今回の判決が出たことにより、一時的に混乱が生じる可能性はある*6

もちろん、名古屋高裁が原審判決時と同じ理屈であっさりと予備的請求を認めれば、実務上の支障はそんなに大きなものにはならないと思うのだけれど。

生前退位」めぐる有識者初会合

7月の報道に端を発し、大きな議論を巻き起こしている天皇の「生前退位」問題。
既に今上天皇が82歳を迎え、そんなに時間的猶予もない、ということで、10月17日に有識者会議が立ち上げられ、年明けの論点整理公表に向けて議論が始められることになった。

座長が86歳の今井敬・経団連名誉会長で、御厨貴・東大名誉教授、清家篤・慶応大塾長、山内昌之・東大名誉教授、といった政治学、経済学、歴史学の重鎮が名を連ね、メディア枠(?)で元NHKキャスターの宮崎緑・千葉商科大教授のお名前もある。そして、法学系からも行政法の小幡純子・上智法科大学院教授がメンバー入り。

憲法学者や皇室周りの研究者をあえてメンバーから外したことで、“外野”からの声は、今後日増しに強くなっていくことだろう。

特に「一代限りの特例法を軸に検討」という政府筋の肚が公然と報道される中で、「皇室典範の抜本改正」を主張する論者のトーンは上がってくるだろうし、18日付の日経朝刊にも、

「象徴というものを真剣に深く考えるのか、一時的な間に合わせの結論を出すのか。」(日本経済新聞2016年10月18日付朝刊・第3面)

という井上亮編集委員の長いコラムが掲載されていたり、木村草太・首都大東京教授の

天皇生前退位を一代限りの特例法で認めた場合、・・・憲法違反と指摘される可能性がある」(同上)
皇室典範本体を改正し、今後の天皇にも当てはまる一般的なルールをつくる必要がある。」

といった識者コメントが掲載されていたりする*7

本来ならご本人の意思を尊重して進めれば良いシンプルな話であるにもかかわらず、「天皇」が憲法上明確に位置づけられてしまっているがゆえに、制度論から論じなければいけない、という不自由さをもどかしく眺めている人も多いだろうけど、タイ国のような事態になる前に、現状最善の解が導き出されることを願うのみである。

バブルではない本物のニッポン観光消費を。

観光庁が発表した7-9月の訪日外国人旅行消費額が前年同月比2.9%減、と、東日本大震災の年以来4年9ヵ月ぶりの減少に転じた、というニュースが流れた*8

2011年当時とは異なり、訪日客の数自体は堅調に伸びている最中での「マイナス」で、既に百貨店業界などもかなりの減収に苦しんでいる状況だけに、危機感を抱く向きもあるようだが、冷静に考えるとこれまでの外国人(というか中国人)の高額消費ブームが異常だっただけで、慌てるような話ではない、と自分は思っている。

日本の場合、訪日外国人の話に限らず“バブル”的消費現象を待ち望み、飛び乗ろうとする傾向が殊更強いように思うのだけど、バブルはいつか弾けるし、弾ける前のスケールが大きければ大きいほど、その後の落ち込みも激しくなる。そう考えると、この辺で一度クッションができたのは、むしろ光明ともいえるわけで。

一度っきりの“爆買い”に未来を委ねるより、「次に来たとき」に「行きたい」「食べたい」「買いたい」というものを、日本を訪れた人たちに少しでも多く魅せつづけることが大事。
そして、このニッポンには、まだまだそれだけのポテンシャルがある。

広島・黒田投手引退表明

CSシリーズで難敵・DeNAを退け、いよいよ日本シリーズ目前、というタイミング(10月18日)で、広島の黒田博樹投手が記者会見し、現役引退を表明したというニュース。

今年も10勝を挙げ、41歳にして7年連続2桁勝利を挙げる活躍の途上、という状況だっただけに、なぜ今シーズンなのか、それも、シリーズ直前、というこのタイミングなのか*9、という声はいろいろ出てくるだろうが、これが男・黒田なりの美学、というものなのだろう。

個人的には、ボロボロになるまでやり続ける選手、BCリーグや米国の独立リーグに行ってまで現役に固執する選手の方が好きで、こういう惜しまれての引退、という状況はあまり好きではないのだけど、その決断ができるのは選手本人だけ。外野がとやかく言う話ではないのである。

2016-2017フィギュアグランプリシリーズ開幕。

秋も深まってくるとこの季節、ということで毎年楽しみにしているフィギュアスケートのGPシリーズだが、今年はとうとう日経紙まで開幕前に特集を組む、というフィーバー(?)ぶりである*10

前回の五輪が終わってから3度目のシーズン、ということで、来年の五輪シーズンを前に世代交代がどれだけ進むのか、特に宇野昌磨選手が王者・羽生結弦選手にどこまで迫れるのか、とか、樋口新葉選手がシニアの舞台でどの程度の格付けを得られるかとか、浅田真央選手が次のシーズンに向けてのモチベーションを保てるような演技ができるのか等々、ハラハラしながら眺める機会も増えるだろうな、と。

大阪杯来年度G1格上げ決定

JRAが来年度の開催日程を発表し、「中距離路線の充実を図るため」大阪杯をG1に格上げすることにした、とのこと。

確かに、国際的なレーティング相場が「2000m」前後の距離での実績に照準を合わせて作られているにもかかわらず、日本で古馬が走れる中距離G1といえば、秋の天皇賞くらいしかなかったのは事実で、特に春先は、無理に距離を伸ばして天皇賞・春に行くか、距離を縮めて安田記念に行くか、くらいしか選択肢がなく、結果として有力馬がドバイ、香港、英国といった海外路線に流出していたことは否めない。

既に海外のレースでも国内で馬券が買える環境が整備され、現地でのレース映像もリアルタイムで入手しやすくなっている今、「国内」のレース体系を整えることにどれだけ力を注ぐべきか、と言えば微妙なところはあるし、ましてや、伝統のステップレースだった「大阪杯」がG1になることには少々複雑な感情もあるのだけれど・・・*11

なお、個人的には、つい最近始まった、と思っていたヴィクトリアマイルの新設が「11年前」だった、という事実*12に軽く衝撃を受けていたりもするところである。

*1:それを安倍首相との会談、というタイミングでぶち上げるのがまた巧妙だし、五輪エスタブリッシュにとってはどうでもいい「野球」の試合の東北開催、というアイデアを差し出すあたりも、なかなか嫌らしい。

*2:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/198/086198_hanrei.pdf

*3:岡部喜代子裁判官の補足意見での説示、「23条照会に対する報告義務の趣旨からすれば上記報告義務に対して郵便法上の守秘義務が常に優先すると解すべき根拠はない。各照会事項について,照会を求める側の利益と秘密を守られる側の利益を比較衡量して報告拒絶が正当であるか否かを判断するべきである。」(4頁)などを見ると、どちらかと言えば報告(回答)義務の存在自体は肯定される可能性の方が高いようにも思われる。

*4:最高裁判決の原審で認容された損害賠償額も僅か1万円に過ぎない。

*5:この点については、木内道祥裁判官が補足意見で明確に述べている。「原審が,照会が実効性を持つ利益の侵害により無形損害が生ずることを認めるのは,23条照会に対する報告義務に実効性を持たせるためであると解される。しかし,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補塡して,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,義務に実効性を持たせることを目的とするものではない。義務に実効性を持たせるために金銭給付を命ずるというのは,強制執行の方法としての間接強制の範疇に属するものであり,損害賠償制度とは異質なものである。そうすると,弁護士会が23条照会に対する報告を受けられなかったこと自体をもって,不法行為における法律上保護される利益の侵害ということはできないのである。」(5頁)

*6:最高裁判決は何も言及していないが、弁護士会ではなく、個々の弁護士が損害賠償請求をしたらどうなるのか、という議論も再度湧き上がってくるような気がする。

*7:一方で、園部逸夫・元最高裁判事の「特例法での対応しかない」というコメントも掲載されているのだが。

*8:日本経済新聞2016年10月20日付朝刊・第5面。

*9:「大相撲の世界だと「引退」を口に出した瞬間に土俵に上がることは許されないんだぞ」という薀蓄を語る人も必ず出てくる(笑)。

*10:日本経済新聞2016年10月18日付朝刊・第37面。

*11:これで東西金杯AJCC、京都祈念あたりをステップに大阪杯を目指すローテーションが出来上がるのだろうが、始動が早まった分、年末早々と休養に入ってしまう馬も増えるような気がして、その分有馬記念が寂しくなるのだとすると、ちょっと残念な気もする。

*12:今回のG1新設はそれ以来、となる。

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