空気を読まなかった北の勇者たちの美しさ。

1週間前の週末、シーズンの勢いそのままにカープが地元で2連勝を飾った時は、このままの流れで終わってしまうのではないか、という感もあった今年の日本シリーズだが、第3戦からは一転してホームのファイターズが3連勝。

お互い長いシーズンの間に、多くのドラマを生み出してきた好チームだけあって、久しぶりに訪れた好勝負、という様相を呈していたのだが、再び広島で迎えた第6戦、8回表2死から始まったファイターズの波状攻撃&カープ・ジャクソン投手の独り相撲で、あっけなく勝負はついた。

シリーズが始まる前のムードから、個人的には2003年の阪神福岡ダイエーのシリーズに似てるな、と思っていたし、両チームがそれぞれのホームゲームでスイープを続けた展開も、まさにそんな雰囲気を裏書きしていた。

あの時は、甲子園で苦しみながらも3連勝したタイガースが、最後は福岡ドームで力尽きる・・・という展開だったわけで、今回も、北海道で苦杯をなめ続けたカープが最後は2連勝で・・・という可能性が一番高いと思っていたし、少なくとも第7戦にもつれ込んで、(どっちが勝つにしても)黒田対大谷、という新旧エース対決がクライマックスになるんじゃないか、と勝手に想像していたのだけど、シーズン中から必死のパッチの全員野球で勝ち進んできたファイターズの選手たちは、そんな素人好みの筋書きに決して付き合ってはくれなかったのである。


自分自身、ちょうど余裕のない時期だったこともあって、第1戦から第5戦までリアルタイムな映像を見る機会はほとんどなく、専ら速報とダイジェスト映像を眺めるのみだったのだが、栗山監督が毎試合送り出すラインナップや、繰り出す継投策を見ただけで、“いろいろ考えているなぁ”と感心させられることが多かったし、岡大海選手、西川遥輝選手、バース投手、メンドーサ投手といった脇役陣も、その日その日の指揮官の打つ手に良く応えた活躍をしていた。

日本シリーズ、という短期決戦の舞台で、シリーズに特化した臨機応変な戦術を取るのが良いのか、それともシーズンどおりの戦い方を貫くのが良いのか、長い間、ああだこうだといろんなことが言われていて、その都度、最終的に結果を出した方の戦術が評価される、という歴史が繰り返されていたのだが、今年のシリーズほど「静」と「動」のコントラストがくっきりと描き出され、明暗を分けたシリーズ、というのもなかなか珍しいように思われる*1

今日の最終戦でも、8回表、同点で2死満塁、打席に不動の4番・中田翔選手が入る、という場面で、ネクストバッターズボックスに大谷翔平選手を入れ、“赤一色”だったはずのマツダスタジアムの空気を一変させた栗山監督の策士ぶりが際立つ一方で*2カープベンチはシリーズで再三背信投球を続けていたジャクソン投手と事実上“心中”することしかできなかった。

栗山監督とて、シリーズだから特別のことをした、というわけではなく、シーズン中から必死で繰り出していた様々な策をそのままセ・リーグのチームにも応用しただけなのかもしれないが、ベンチワークという点ではやはり日ハム側に一日の長があった、というほかない。

結果的に、黒田投手の「真の最終登板(&胴上げ)」はただの幻に終わってしまったし、大谷選手の投げて打って、を再びマツダスタジアムで見る夢もかなわなかったのだけれど、ここで勝つことを徹底的に追求するチームだったからこそ、11.5ゲーム差をひっくり返してリーグ優勝できたわけで、レベルの高いリーグ(昨年までの10年間でパ・リーグのチームは7回優勝している)で磨き上げられたその精神が、敵方に立て直すいとまを与えない怒涛の4連勝につながったのか、と思わずにはいられない。


いずれにしても、今は心から、北海道日本ハムファイターズの10年ぶりの優勝を祝うこととしたい。

*1:日本ハムが毎試合のようにオーダー、継投のオプションを変えてきていたのに対し、カープは愚直なまでに同じ打順、同じ継投策にこだわった(変わったのは負傷を抱えた新井選手の起用法くらい)。

*2:結果的に中田選手が押し出しで勝ち越し、さらに、大谷選手を代打に出さずにそのまま打席に立ったバース投手がタイムリーを打った時点で、次のレアード選手の満塁ホームランを待たずに勝負はついた。

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