いくら地元開催とはいえ、クラブW杯の準決勝で鹿島アントラーズが南米王者のアトレティコ・ナシオナルを破ってしまったときは、あまりに空気読まな過ぎだろう、と思ったものだった。
“トヨタカップ”と銘打たれていた時代から、欧州王者と南米王者のガチンコ対決を楽しめる、というのがこの大会の存在意義だと思っていたし、欧州と南米のリーグ間の格差が白日の下に晒されるような時代になっても、過去10年のうち8回は南米王者が意地で勝ち上がって決勝に進出していた*1。
開催国のチームが番狂わせで決勝まで行ってしまったケースとしては、2013年にモロッコのラジャ・カサブランカ、というチームが豪州、中米、南米と立て続けに倒してバイエルン・ミュンヘンと戦ったというのがあるようだが、決勝では0-2で完敗している。
そもそも、欧州王者が順当に優勝したところで記憶にはほとんど残らず、南米のチームが“ジャイアント・キリング”を演じて初めて印象に残る大会になる、という状況がもう十数年続いているのだから、そこでアントラーズ如きが決勝に進出してしまったら、ファンのささやかな楽しみがなくなってしまうではないか・・・というのが、水曜日の時点での率直な感想であった。
それがどうだ。
前半終了間際の同点ゴール、そして、後半早々、落ち着かないレアル・マドリッド守備陣の隙を突いて決めた逆転ゴール。
柴崎岳選手の驚異の左脚が2点を叩き出し、「2-1」というスコアが実況画面に刻まれた瞬間、テレビ画面を通じてしかその場に立ち会えなかったことを、自分はただただ悔やむしかなかった。
PKであっさり同点に追いつかれてからは、“惜しい”シーンこそあったものの、試合の流れを再び取り戻せるような強烈なインパクトあるシーンを目にすることはもはやできなかったし、そもそも激しいリーグ戦やCLの谷間で極東の島国まで足を運ばされた欧州王者の選手たちが、1−2になるまで、どこまでギアを入れて戦っていたのか? という懐疑的な見方が出てくることも当然理解はできる。そして、2−2のまま90分を終え、真価が試される延長戦に入ってからは、(試合の流れとは全く関係なく)ボールが足元に入りさえすれば一撃で仕留められる、というC・ロナウド選手の強さだけが目立つことになってしまった。
柴崎選手や、相手の強力な攻撃陣をことごとく止めつづけた昌子選手のように、ベストな状態で戦えれば欧州大陸でも互角に渡り合える一部の日本人選手の水準の高さを示せた試合だった一方で、どんなにチームとしてのまとまりが良くても超越した「個」の力の前では最後は無力、ということを見せつけられた試合でもあった。
だが、後半が始まってから2−2に追いつかれるまでの15分くらいの間、「まさか」の可能性を微かにでも信じたくなるような光景を目撃できたことは、Jリーグを長年見続けてきたものとしては至上の幸福だったというほかない。
ここで善戦できたからといって、来年のACLで鹿島が順当に勝ち上がられるか、と言えば全く話は別だし、開催地が再びUAEに移る次年度以降、日本のクラブチームがこの大会に出場できる機会がいつ来るのかさえ、冷静に考えれば見通しが立たない状況だと思っているのだけれど、それでも、今夜の15分間の奇跡がその先の何かにつながることを、今は願ってやまないのである。
*1:ただし優勝できたのは2006年と2012年だけ。