去年の春に問題が表沙汰となり、夏くらいにもちょっと話題になっていた*1三菱重工と日立製作所の合弁会社(三菱日立パワーシステムズ(MHPS))の損失負担をめぐるトラブル。
その後、事態は当事者の話し合いで解決に進むどころか、ますます泥沼にはまっているようにも思える記事が日経紙の朝刊に出ていた。
「日立製作所は8日、南アフリカの火力発電所建設で発生した損失負担を巡り、三菱重工業から約7634億円の請求を受けたと発表した。両社で負担割合を巡って協議中の案件だ。三菱重は昨年3月に約3790億円の支払いを日立に求めたが、条件が変わったとして請求額をこれまでの約2倍にした。日立は見解が異なるとし、支払いを拒否する構えだ。」(日本経済新聞2017年2月9日付朝刊・第13面)
新会社発足前に日立が南アフリカで受注したプロジェクトで、大幅なコスト増が発生し、「出資比率に応じて双方が負担すべき」と主張する日立と、「日立が全額負担すべき」とする三菱重工との間で紛争が勃発した、というのがこれまでのあらすじ。そして、受注時期や新会社の設立時期を考慮すれば、こんなの設立の時点でうすうす分かっていた話なのだろうから、DDのプロセスを経て、両株主間の契約で何らかの手当てはされているだろうに何で・・・?というのが、前回取り上げた際の自分のコメントだった*2。
それが、半年経って、倍率2倍でドン!という話になろうとは・・・。
いくらトラブルは付き物のインフラ案件とはいえ、最初の受注額が約5700億円のプロジェクトで「損失」が「約7634億円」という数字に膨らむこと自体、かなり異様な事態だと言えるし、水面下の交渉の時点であればともかく、正式な請求をした後に一年もたたずに「条件が変わった」として金額を引き上げる、というのは、幾多の交渉現場に立ち会ってきた者としてはちょっと違和感がある。
前回(三菱重工の開示を契機とした2016年5月9日のプレスリリース)に続き、今回も堂々とニュースリリースを出して、「契約に基づく法的根拠に欠けるため請求に応じられません」と言い切った日立*3に対し、昨年5月の決算プレスでのコメント(http://www.mhi.co.jp/finance/library/result/pdf/h28_05/kessan_tansin.pdf、添付資料16頁)以降、同じコメントの繰り返しに留まっているメジャー出資側の三菱重工*4。そして、両社のHP上には、当該子会社の“明るいニュース”にとどまらず、両社の更なる事業統合のニュースまで載っている*5、という不思議な状況に、何ともコメントし難い気分になってしまうのだが、少なくともこれまでのIRの姿勢だけを見ていると、「三菱重工側の言い分に利があるのでは?」と感じた当初の推論がどうしても揺らいできてしまう*6。
往年のザ・重工のファン(?)としては、
「三菱重が異例ともいえる増額請求に乗り出した背景には、同社の苦しい台所事情も透ける。5度目の納期延期を表明したジェット旅客機「MRJ」の開発コスト増など、新たな損失が後を絶たない。米国の原子力発電事業では現地の電力会社から7000億円超の損害賠償を請求されており、財務悪化への懸念が広がっている。」(同上、強調筆者)
と、昨年夏のコラムと同じようなネタをくっ付けて読者に余計な連想をさせてしまう日経紙*7をそろそろ黙らせるような、毅然とした、かつオープンな姿勢を三菱重工には見せてもらいたいなぁ・・・と思わずにはいられないのだが、はてさて・・・。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20160813/1471109804の一つ目のネタ参照。
*2:三菱重工側の決算プレスには、「南ア資産譲渡に係る契約においては、分割効力発生日より前の事象に起因する偶発債務及び同日時点において既に発生済みの請求権につき日立及び HPA が責任を持ち、分割効力発生日以降の事業遂行につき MHPS 及び MHPSアフリカが責任を持つことを前提に、分割効力発生日時点に遡ったプロジェクト工程と収支見積の精緻化を行い、それに基づき最終譲渡価格を決定し、暫定価格との差額を調整する旨が合意されております。平成 28年3月期の決算日時点において、日立との間で南ア資産譲渡の譲渡価格に関する調整は完了しておりませんが、南ア PJ は分割効力発生日時点において既に損失が見込まれたプロジェクトであり、MHPS アフリカは、契約に基づき算定される譲渡価格調整金等を日立または HPA から受領する権利を有しております。」という説明が書かれており、これだけ読めば、そんなに解釈の相違が生じるようにも思えないのだが・・・。
*3:今回のプレスリリースは、http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/02/0208.html
*4:2月2日に第3四半期の決算プレスを行っているにもかかわらず、その時点では記載内容も請求額も変わっていない。http://www.mhi.co.jp/finance/library/result/pdf/h29_02/kessan_tansin.pdf添付資料3頁。
*5:https://www.mhi.co.jp/news/story/160804.html
*6:そう感じ始めると、日経紙に掲載されている「当社には請求権があるとの認識を持っている。誠意を持って協議を継続する」という三菱重工のコメントも、何となく不安げなもののように見えてしまう。
*7:しかも今回は、日立への請求額と微妙に符合する数字まで出して、妄想を膨らませてくれる・・・(笑)。