30歳の選択。

今年もやってきた世界陸上@ロンドン。
もはや夏の風物詩、というか、季語のようになってしまった織田裕二の適当なコメントは聞き流すだけなのだが、夜型人間にはちょうど良い時差のおかげで、由版週末は各競技を堪能することができた。

陸上競技、というスポーツを見慣れてくると、テレビ局がガンガン宣伝をかけてくる100メートルとか*1、マラソン*2、といった競技よりも、限られた時間の中に激しい駆け引きの要素が詰め込まれている800mとか1500mといった競技の方にどうしても興味をそそられてしまうことになるのだが、それでも、今大会は、一つの時代の転換点になるような気がして、(いつもだったら見ないで寝てしまう)100Mやマラソンにも、ちょっと目を向けてみた。

100メートルの方は、言うまでもなく、ウサイン・ボルト選手が今大会で引退する、と大々的に宣言していたことが大きい。
もちろん、激しい国内の選考会を勝ち抜いて駒を進めてきた日本の3選手が揃って準決勝に進出した、というニュースも多少は気になっていたのだが、それでも自分の興味の第一は、ボルト選手が出るレースにあった。

結論から言えば、準決勝で同走の選手に先着を許したうえに、決勝でもスタートの反応が悪く追い込み空しく3着に食い込むところまで・・・ということになってしまったのだが、予選、準決勝のときまでは「大丈夫か?」と思いたくなるような走りだったことを考えると、ちゃんとメダルを持って帰るだけ立派。

日本勢3人組、中でも国内選考会から予選まで絶好調で、最も期待を寄せられていたサニブラウン選手が、スタートで足が動かず、あわや転倒、という絶望的なふらつきで決勝進出の機会を逸したシーンなどと見比べると、明らかに役者が違った*3

そして、あれだけ目の肥えたロンドンの観衆*4が、勝者をブーイングで迎え、敗者に熱いコールを送った、というところに、彼がこの何年もの間、陸上競技の世界に与え続けてきたインパクトが見事に象徴されていたと言えるだろう。

一方、マラソンの方は、ボルト選手と“同学年”の川内優輝選手が、これまた「代表引退」宣言をしてレースに臨み、その一方で“過去最高の出来”といった報道が入ってきていたことから、ここは・・・ということで、これも珍しく最初から最後まで見た。

これまた、結論から言うと、目標としていた「入賞」には届かず(9位)、ということで、本人にとっても、本気で応援していた人々にとっても到底満足できる結果ではなかったのだろう、と思う。
ただ、日本人選手としては女子も含めて最上位の結果、しかも、途中で給水失敗するわ、転倒するわ、といったハプニング続きの中で、終盤必死の追い上げであわや入賞、というところまで食い込んだ姿に、個人的にはちょっと感じ入ったところもあったのは確か。

“市民ランナーの星”という立場から、“日本代表”の看板を背負える立場にまで「出世」した時、川内選手は明らかに悩み、苦しんでいたように見えた。それは、4年前の世界陸上後のコメントにも如実に現れていたし*5、過去2度挑戦した世界陸上では満足のいくような結果を残せず、2度の五輪挑戦も実らず、という結果となっている。

それでも、なかなか往年の勢いを取り戻せずにいる日本のマラソン界に一石を投じつづけ、最後の最後に「日本勢トップ」という意地を見せたのは「立派」の一言なわけで、アスリートの魂ここにあり・・・。

今回「引退」を宣言した選手たちが、このまま本当に大きな国際大会の第一線から姿を消してしまうのか、それとも1年のブランクを経て、再来年の世界陸上で復活、あるいは、五輪シーズンに合わせて復帰、というプロセスを辿るのか、その辺の進退を決することができるのは本人だけ、という鉄則があるだけに、門外漢としては何とも予測しようがないのだけど、この先どういうことになろうとも、今大会での両選手のパフォーマンスは、心に刻んでおきたいものだ、と思った次第である。

*1:あっという間に決着がついてしまう上に、駆け引き以前に能力の絶対値が全てを決してしまうようなところがあって、この競技だけはどうにも好きにはなれない。

*2:長いからどうしてもずっと見続ける、ということにはなりにくい。また、近年日本勢がパッとしないこともあるが、どんな大会もレース展開が基本的にワンパターンになってきていて、これまた熱心な観戦者の興味をそぐ。

*3:タイム的に言えば、サニブラウン選手のレベルなら十分決勝進出の可能性があったわけだが、ここは場数の違いと、置いている目標の違いに起因していたのかなあ、と思わざるを得なかった。

*4:競技に必要な“間”を抑えた応援を心得ていて、特に短距離種目のスタート前に訪れる図ったような静寂の生み出し方は見事の一言。最近大きな大会が東アジアやラテン系の国で行われていたからなおさら、というところはあるのだが・・・。投擲系の種目でも跳躍系の種目でも、あれだけきちんと応援してもらえれば、選手は盛り上がるだろうな、と思う。

*5:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130818/1377125844

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