歓喜の瞬間の後に訪れた、決して愉快ではない手のひら返し。

サッカーロシアW杯最終予選、グループでの「2」枠をめぐる最終攻防は、苦戦必至と言われたホームのオーストラリア戦で、浅野拓磨選手、井手口陽介選手というリオ五輪組が大抜擢に応える活躍を見せ、2−0、という堂々の完勝で、あっさりと終止符を打つことになった。

浅野選手の先制ゴールは見逃してしまったのだが、後で見たら、自慢のスピードを生かして相手ディフェンスの裏を取る絵に描いたような戦術的ゴールだったし*1、とどめを刺した井手口選手のゴールは、各大陸を見回しても、今回の予選のスーパーゴール集に入れてよいような美しいものだった。

負けてしまえば、次の予選最終戦に向けたチームのポジションが厳しくなるだけでなく、自らの首も飛びかねない、という状況で、調子の上がらない&負傷が癒えない本田選手と香川選手をあっさり先発メンバーから外し、中盤に守備的な選手を3人並べる(その代わりに乾選手、浅野選手をウィングポジションでフル活用する)という、いつになく思い切った采配をしたことが見事なまでにハマった試合だったから、ハリルホジッチ監督にしてみれば、実に会心の試合だったことだろう。

元々、あまり好意的に迎えられていたようには見えなかったハリルホジッチ監督への“雑音”は、最終予選が立ち上がった昨年秋くらいから一気に湧きあがり、難敵UAEをアウェーで下し、オーストラリア、サウジアラビアの両ライバルに対して優位に立った終盤になっても、鳴りやむことがなかった。

そして、極め付けが、オーストラリア戦の直前に吹き出した「引き分けでも解任」報道、である。

もしかしたら、厳格な監督のチームマネジメントに対して選手から漏れだしていた感想を、メディアが拾っただけ、なのかもしれないが、大事な2試合を控えた場面で「解任」の可能性を見出しにすること自体がいかがなものかと思ったし、戦術に対する批判も、どことなく的を射ていないものが多かった気がする*2

確かに、ハリルホジッチ監督が、世界で10本の指に入る名将か?と問われれば、これまでの実績からしても、戦術の洗練度からしても、さすがにそれは言い過ぎ、と答えざるを得ないのだが、チームに足りないものを補おうとする姿勢、そして、現実を直視し目の前の相手に勝ち切るための手を尽くそうとする姿勢は、過去W杯で結果を出せなかったジーコ監督やザッケローニ監督と比べれば遥かに高く評価できるわけで*3、これまでのバッシングに対しては、いろいろと思うところはある。

オーストラリア戦の結果が出た後は、「W杯出場」という結果だけで大騒ぎする一般素人メディアの嬌声ばかりが響いているし、つい数日前まで厳しいコメントを寄せていた評論家の一部が、逆側に手のひらを返して褒め称える、といった残念な姿もどうしても目にしてしまうわけだが、そういった極端なことばかりやっているから、いつまでたっても目の肥えたサポーターが育たないのだ・・・と、代表チームが勝っても負けても、スポーツ面の片隅の小さな記事(当時は、スコアにちょっと毛が生えたような結果しか報じられなかった)にしかならなかった時代からサッカーを見てきた者としては、ため息をつかざるを得ない状況・・・。

今回の予選の結果だけ見れば、自分から「辞める」と言って母国に引き上げでもしない限り、このまま本戦でもハリルホジッチ監督が指揮をとることになるのだろうけど*4、個人的にはメディアに対して鉄のカーテンを引いてでも、監督がやろうとしているサッカーをとことん追求してほしいものだ、と思わずにはいられない。そして、それが、これまで破れなかった「ベスト8」の壁を破るための、最短の道だと自分は信じている。

*1:あそこにピンポイントで合わせた長友選手もさすが。

*2:昨年秋のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20161011/1476622829)でも書いた通り、ハリルホジッチ監督が目指しているものは、ブラジルで敗れ去った日本代表に最も欠けていたもので、今の方向性でチームが進化しない限り、アジアでは勝てても世界には通用しない。にもかかわらず、「得点につながらないパス回し」だけは美しかった時代のチームを懐かしむような評論家が多いように見受けられるのが、ちょっと気になるところだった。

*3:ジーコ監督の時は、最終予選のときからハラハラさせられたし、生半可な運とグループのレベルの低さで一抜けしてしまったがゆえに、本大会では見るに堪えない結果となってしまった。

*4:そして、母国で内戦の銃弾を潜り抜けてきた現監督が、メディアのバッシングを苦にして辞めるようなことは決してない、と信じているけど。

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