先月の会見での第一報公表以来、「他山の石」事象として注目を集めてきた株式会社神戸製鋼所の「品質」問題だが、先週金曜日(10日)に「当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止策に関する報告書」と題する社内調査の報告書が世に出された。
http://www.kobelco.co.jp/releases/files/20171110report.pdf
全部で28ページ、と、この種の報告書としては比較的コンパクトなつくりながら、そこに書かれている「原因分析」には、どんな企業でも“ハッ”とするようなエッセンスが随所に盛り込まれていて、短期間で、しかも社内調査でまとめ上げた報告書としては秀逸な出来、というのが、これを読んだ時の自分の率直な感想だった。
例えば、「(1)収益評価に偏った経営と閉鎖的な組織風土」という項目の中では、
「権限の委譲を推進する一方で、経営自らが責任をもって工場の困りごとを解決する姿勢を見せなかったため、組織の規律は各組織の「自己統制力」に依存する状況となった。本社経営部門による事業部門への統制が、収益評価に偏っていたことから、経営として工場において収益が上がっている限りは、品質管理について不適切な行為が行われているような状況にあるか否か等、工場での生産活動に伴い生じる諸問題を把握しようという姿勢が不十分であった。この経営管理構造が、「工場で起きている問題」について現場が声を上げられない、声を上げても仕方ないという閉鎖的な組織風土を生んだ主要因と認識する。」(12頁、強調筆者、以下同じ。)
と、大きな企業にありがちな「本社と現場の乖離」が端的に描かれているし、「(3)不適切行為を招く不十分な品質管理手続き」という項目では、
(イ)厳しすぎる社内規格
「真岡製造所等、一部の工場では、顧客規格よりさらに厳しい社内規格を設けていた。これは、そもそもより厳しい社内規格を設ければ、事前に工場の工程能力の不足に気づき、それを是正すれば顧客への不良品の流出を防げるとの考えで導入されたものである。しかし、本来出荷基準は顧客規格合格判定であるべきところを、社内規格を満たしていないと出荷できないといった仕組みとしていた。さらには顧客規格の厳格化が進み、一部の製品においては、社内規格はそもそも守れない規格として常態化していたこともあり、社内規格を満たさない場合において、工場の生産能力の見直しや顧客規格の緩和申し入れ等、正規の手続きを行うことなく、改ざんが行われるようになったと考えられる。」(13〜14頁)
と、「遵守できないルール」を設けることの悪弊が端的に述べられている。
そのほかにも、
「当社の担当者は、より付加価値の高い製品を目指す事業方針の下で顧客との共同開発や受注活動、顧客から受けるクレームの処理を行う中で、顧客が実際に求めている性能についての知識を深めていく。そのような中で、担当者の中には製品が顧客仕様に適合するか否かではなく、顧客からのクレームを受けるかどうかが重要であるという考えに変質していった者もいた。」(14頁)
という生々しい話もあれば、
「不適切行為が長期に渡り放置されると、日常の会議等の中で議論されることもなくなった。」(14頁)
といった、どこにでもありそうな“怖い話”もある。
いずれにしても、社内コンプライアンス教育の材料に使える格好のネタを仕入れることができた、という点で、実に素晴らしい報告書だった。
それが、である。
極めて残念なことに今朝の日経新聞朝刊の社説には、以下のような的外れなコメントが並べ立てられている。
「問題の原因を具体的に分析できておらず、品質管理を立て直すには不十分な内容だ。」
「徹底した原因究明がなければ、いくら再発防止策が出されても説得力はない。」
「明らかにしてほしいのは、改ざんの個々のケースについての具体的な経緯だ。どのような立場の社員が何人かかわり、何がきっかけだったのか。こうした実態が社内報告書は解明できていない。原因がはっきりしないなら効果的な対策は立てられない。」
(日本経済新聞2017年11月14日付朝刊・第2面)
この社説を読んだ時に自分は思った。
「この記者は本当に『報告書』を読んだのか? そして、企業におけるコンプライアンスのあり方について、本当に理解しているのか?」
と。
確かに、今後、実際に品質偽装に関与した関係者を特定して処分する必要等もあることを考えると、報告書に書かれている事実関係ではいかにも心もとないし、時間が足りなかったことに加え、報告書で書かれているような「自主点検の過程で(の)妨害行為」*1が、詳細な事実の解明を困難にしたところもあるのだろう。
しかし、上記社説の中でも書かれているように、本件は「不正が数十年続いていた」とされる事案なのだから、詳細な調査を行うとしても、歴史を遡って担当者を特定し「やり始めた経緯」を調べるよりも、「やめられずに続けてしまった理由」をきっちり分析する方が、効率的かつ有益なのは間違いないわけで、既に↑でご紹介した「原因分析」のエッセンスにも、その辺は反映されている。
また、あまりに事細かに個別の具体的事実を追いかけすぎて報告書を作成してしまったために、他の会社の関係者から見たら、「他山の石」ならぬ「他の山の出来事」としか受けとめられなくなってしまうような不祥事事案もあるわけで、限られた時間の中で一般に公表するものを作る以上、ある種の割り切りで事案を抽象化することも「教訓の社会全体での共有」という観点からは重要なことだと思われる*2。
今後、松井巌・元福岡高検検事長を委員長として設置された外部調査委員会によって調査が行われ、年明けには報告書がまとめられることになると思われるが、掘り下げるのであれば、一つひとつの事業所、工場における品質検査数値改ざんのプロセスよりも、「それを行い続け、是正することを拒み続けた関係者の心理」に徹底して光を当ててほしい、というのが、部外の者としての思いである。