宝塚記念で潰えかけた夢と伝説が、超不良馬場の天皇賞で再びよみがえり、「年内残り2レース」の掛け声の下、日本代表としてジャパンカップに歩みを進めたキタサンブラック。
レース前のインタビュー映像等を見る限り、関係者にざわついた雰囲気は感じられなかったし、まだ秋2戦目、という余裕あるローテーションの下で、このレースも単勝1番人気に応えて、問題なく突破できる・・・はずだった。
ゲートが開いてからも、ペースが大きく乱れることはなく、気持ちよくスタートを切ったキタサンブラックが淡々と隊列を先導する。
そして、直後を追走した馬たちが力なく後退する中、いつものように直線を普通に走ってくれば、そこで勝負が決まるところだったのだが・・・。
人気のもう一角、レイデオロが中団から抜け出して追い込んで来たところまでは想定どおり。
しかし、そこに目を向けようとした瞬間、好位追走組で唯一食い下がっていたシュヴァルグランが、キタサンブラックを上回る脚色であることに気づく。
そして、体一つ抜け出したシュヴァルグランが、ゴールを駆け抜けた次の瞬間、レイデオロもまた王者キタサンブラックをクビの差で交わしていった。
結果だけ見れば、単勝5番人気、これまでG1勝ちのなかった馬による「下剋上」、しかも1番人気は連にも絡めない3着敗退。
だが、「波乱」のレースで良く見られるようなアナウンサーの悲鳴じみた叫び声は画面からは聞こえてこなかったし、テレビ画面を通してみる限り、府中の空気もそこまでどよめいてはいないように見えた*1。
何だかんだ言っても「3着」という馬券圏内の順位に留まったことが人々を冷静にさせたのか、それとも、皆、応援しつつもキタサンブラックがそこまで強い馬だと、心の底からは信じていなかったのか・・・。
キタサンブラック陣営からは、レース後に「落鉄」の事実が公表されているし、キタサンブラックより距離適性がある、と言われていたサトノクラウン以下、天皇賞(秋)上位組が軒並み惨敗していることから*2、「前走の反動」を指摘する声もおそらく出てくることになるだろうが、そういう事情がなくても「最初からこの結果になったんじゃないか」と思ってしまうようなあまりに自然なレース展開だったために、自分自身も何となく、今日起きたことの意味を整理できずにいる*3。
これが、最後に予定調和的に差される「逃げ馬」の宿命、と言ってしまえばそれまで。
ただ、血統も、脚質も、3歳前半の戦績も、「一流」であることを微塵も感じさせなかったようなところからここまで来た馬だけに、こうなったら、最後のレースこそは、得意な形で堂々と勝たせてあげたいな、と思わずにはいられない。
そして、“人気が落ちたからこそ”の幸福を、信じた者だけが味わえる、という結末を、今は心待ちにしている。