正月のスポーツ中継を眺めながら眺めた論文。

毎年のことだが、この時期は、様々なスポーツイベントが目白押しである。
元旦にニューイヤー駅伝とサッカーの天皇杯、2日、3日に箱根駅伝を見て、そこからしばらくは高校サッカーラグビー、そして最近定着した春高バレーが続き、「成人の日」までには大体ピークを迎えて大団円・・・という感じで。

今年は、成人の日が早いタイミングで巡ってきたせいか、高校サッカーラグビー、バレーボールの決勝が全て同じ日、ということになってしまい、しかも、競馬開催日にもかち当たる、ということになってしまったため、TVチャンネルの高速切り替え技術を駆使する羽目になったのであるが、まぁそれでも、サッカーの試合だけはきちんと見られたのが何よりだった*1

で、そんな中、タイミング良く(?)昨年末に届いた『ジュリスト』1月号に目を通すことができた。

単に表紙に色が付いた、というのみならず、巻頭から新連載で「債権法改正と実務上の課題」という待ちに待った企画*2が始まる等、相当読み応えのある新年号だったのだが、毎年この時期恒例の「知財」の特集が「スポーツビジネスと知的財産」というテーマになっているのがまた興味を引く*3

そして、その特集の中でも、特に、池村聡弁護士が書かれた「プロスポーツと放映権」という論稿*4は、ひときわ光を放っていた。

この論稿は、

「スポーツビジネスにおいて重要な取引対象となっている『放映権』と呼ばれる権利を巡る法的問題について、我が国のプロスポーツビジネスを念頭に、若干の検討を行うもの」(前掲42頁)

であり、「放映権」の法的性質、根拠から丁寧に解説を加えているのだが、池村弁護士は、まず法的根拠を解説するくだりで、通説とされている「施設管理権説」(会場の施設管理権に法的根拠を求める見解)をバッサリ切って、「主催者説」(費用、リスクを負担してスポーツを主催(実施)すること自体に法的根拠を求める見解)を支持する姿勢を明確にしている。

そして、その帰結として、第三者による無許諾撮影に関しては、以下のような形で権利行使が可能、としているのである。

「主催者説によれば、一般不法行為民法709条)が成立すると解することにより、こうした行為が損害賠償請求の対象となるとの構成が可能である。知的財産権侵害が成立しない場合における一般不法行為の成否に関しては、諸説あるところであるが、これを限定的に考える見解によっても、一定の違法性の強い行為に対しては、不法行為の成立を認める。」
「スポーツイベントの主催者は、多額の会場費や賞金その他の各種運営費を負担し、大きなリスクを取ってそのスポーツを実施するとともに、放映権取引によって収益を上げているところ、かかる利益は既存の知的財産権とは異なる法的利益である。そして、主催者に無断でスポーツを撮影し、広く配信等することは、その態様によっては主催者の利益を侵害する違法性の強い行為であると評価され、不法行為の成立を構成するものと理解される」(46〜47頁)

北朝鮮映画事件の最高裁判決を引きつつ、「特段の事情」に該当しうる、と断言するこの強気さには心底ほれぼれするし、実際、あの判決に風穴を開けられるとしたら、高額の対価が動く「スポーツ放映権」くらいだろうな、というのは、自分も思うところ。

もちろん、自分が全面的にこの意見に賛同しているか、といえばそうではなく、「主催者説」&「一般不法行為」の構成だと、池村弁護士が問題にしているような「高画質な無断撮影映像を多くの者がアクセスするサイトで配信する行為」に対して差止請求権が行使できないではないか、という突っ込みがあるし、そもそも、そういった無断配信によって放映権の取引額に影響が生じるような事態にでもならない限り、因果関係のある損害を観念できないのではないか*5、という疑問も抱いている。

スポーツ中継の実態を踏まえれば「主催者説」の方が馴染むのは間違いないとしても、エンフォースメントまで考えると、主催者(施設管理者)側が約款で一方的に「無断撮影/無断配信禁止」といった契約条件を付すことができ、それに基づく行為差止めや約定額の賠償請求まで(やろうと思えば)やることが可能な「施設管理権説」の方が遥かに使い勝手が良いはずで、

「試合会場に立ち入ることなく施設外から行われる(施設管理権を侵害することなく行われる)撮影等」(前掲46頁)

を警戒するがゆえに、法律構成まで変えてしまうのは、いささか気が早いようにも思えてならない*6

ただ、こういう刺激的な論稿を読んだ後にスポーツ中継を見ると、また一段と味わいが増すわけで、主催者ロゴの入った映像に直接・間接(あまり大きな声ではいえないが・・・)に触れる機会が多い五輪、W杯イヤーとなればなおさら、なので、ここは感謝の意を込めてご紹介させていただいた次第である。

*1:ゴールポストまで味方に付けた流経大柏の堅守に惚れ込んで熱を入れて見ていたのだが、それを最後の最後で打ち破った前橋育英の執念には、心の底からこうべを垂れるしかない。

*2:第1回は、中井康之弁護士が道垣内弘人教授、能見善久教授と対談する、という始まりになっているのだが、なかなかディープなところまで突っ込まれている良い対談になっているので、次回以降に益々期待が高まるところである。

*3:唯一気になるのは、執筆者が特定の法律事務所に偏っているように感じられたところだが、そこはご愛嬌、ということで。

*4:池村聡「プロスポーツと放映権」ジュリスト1514号42頁(2018年)

*5:要は、その無断配信サイトが相当長期間定着し、テレビ中継やインターネット配信の視聴率が下がった→結果的に放映料も低下した、ということにならない限り、訴えたところで制裁としての実効性のあるような賠償支払義務は負わせられないのでは?ということ。

*6:池村弁護士は「ドローン」による撮影等を想定されているようであるが、会場内にドローンを侵入させて撮影するような場合であれば、本人が施設外にいようが、「施設管理権」に基づくコントロールは可能だろう。また、高精度の機材を用いた施設外からの遠隔撮影も理屈の上では可能だが、そうやって撮影された映像が、鑑賞に堪えるだけの臨場感を持ったものになるほど技術が進化した時代であれば、「施設内で撮影された映像」にも更に異なる付加価値が加えられているはずで、結局のところ、公式映像が「施設管理権の及ばない環境下で撮影された映像」に市場を侵食される日が来る、という想定自体がどうにもしっくりこない。

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