突如湧いて出た「南北統一」のざわめき。

年が明けてからトントン拍子(?)で決まった感のある平昌五輪への北朝鮮選手団派遣。

国際オリンピック委員会IOC)は20日、2月9日に開幕する平昌冬季五輪への北朝鮮の参加をめぐり、韓国とのアイスホッケー女子の南北合同チームの結成や、開会式での「統一旗」を掲げた合同入場行進を正式に承認した。北朝鮮はスキー、アイスホッケー、スケートの3競技で22人選手を派遣する。」(日本経済新聞2018年1月21日付朝刊・第5面)

日本では、当然顔をしかめる人の方が多いのだろうし、個人的にも、こんな政治的判断を五輪の場に持ち込むのはいかがなものかな、と思うところはあるのだけど、記事を読めば分かる通り、最終的にこれを承認したのはIOCで、バッハ会長が、

「会談後の記者会見で「五輪の精神は敬意や理解だ。平昌冬季五輪が朝鮮半島の明るい未来の扉となることを願う」と述べ、五輪を通じた南北融和への期待感を表明した。」(同上)

ということになってしまった以上、文大統領の政治姿勢がどうのこうの、と言っても詮なきことである*1

もっとも、興味深いのは、韓国の国内でも、今回の判断に対する反発が強い、という報道が出ていること。

「SBSテレビの世論調査によると、南北合同チームの結成に否定的な意見が72%を占めた。20〜30代の若者では82%に上る。韓国政府が北朝鮮代表団の滞在費を支援する案に「反対」との回答も「賛成」を10ポイント近く上回った。」(同上)

元々日本以上に揺れやすい世論を持っている国で、かつ、地元での五輪開催、ということになれば、会期が進んでいくうちに“融合”ムードに傾く可能性もないとは言えないのだが、開会式の際に統一旗が歓声で迎えられるのか、それともブーイングを浴びることになるのかは、全く予断を許さない状況だと言えるだろう。

そして、肝心の競技への影響については、あまり注目されていないようでちょっと気の毒なのだが、鳴り物入りで結成された「五輪初の南北合同チーム」は、女子アイスホッケーのチーム、ということで、「スマイルジャパン」こと日本女子代表チームとは14日、グループリーグ最終戦で対戦する予定になっている。

日経紙もスポーツ面で、それを前提に、記者の怒りのコメントとともに、山中武司監督のコメントまで紹介するフォローぶり。

「五輪まで1カ月もない時期に、合わせて35人もいる大所帯の新生チームはどうやって練習し、作戦を分かち合うのか。選手不在の決定に、あきれるばかりだ。」
「日本の山中監督の17日のコメントが的を射ている。「韓国の監督を思うと、この時期に選手を変更されるのは正直同情するところもある」。試合でベンチ入りする22人のうち、最低3人は北朝鮮選手にする。世界ランキングは22位(北朝鮮は25位)とメダル争いに関係のない競技力だから、政治的な決定を押しつけるのには好都合、と判断されてしまったのか。」
(日本経済新聞2018年1月21日付朝刊・第28面、強調筆者)

若手とベテランがうまくかみ合って上位に食い込むことも期待されている日本女子チームが「世界ランク22位」の韓国チームに足元を掬われるわけにはいかないし(日本のランキングは現在9位*2)、おそらく試合自体はワンサイドなものになる。

ただ、大会日程が進んで地元の観客も温まってきた中で、地元世論の変な揺れ幅と重なって、我らが代表チームが「南北融合」の格好のターゲットにされてしまわないか、という心配はどうしても残るところ。開幕戦でスウェーデンジャイアントキリングを食らわせたりして、グループリーグの戦いを有利に進められていれば、敵地のヒール役も喜んで引き受けるところだろうけど・・・。

五輪の開幕までもう3週間を切っているのだから、日本ではもちろん、韓国国内でも、日を追うごとに「場外戦」のざわめきが消えていき、肝心の大会の中身に関心が集まっていくような流れになっていくことを願ってやまない。

*1:そもそも欧州の人たちの「人道主義」とか「平和主義」といったものは、極めて政治色の強いイデオロギーなのであって、リオ五輪のRefugee Olympic Teamにしても然り、だったから、「スポーツの祭典に政治を持ち込むな」といった批判は、彼らからしてみれば「ピントがずれている」ということになるのだろう、と割り切っている。

*2:http://www.iihf.com/iihf-home/countries/japan/参照。

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