それ、できなかったんだ!?という不可思議

ここ数年、“猫も杓子もビッグデータ”という時代になっていて、日経紙なんかでも必ずどこかにそれ絡みの小ネタが出ていたりするのだが、この記事にはさすがに驚いた。

「政府はビッグデータの利活用を促進するため関連法を一括改正する。弁理士法を改正して、ビッグデータに関する契約やデータ保護の助言などを新たな弁理士の業務として追加する。データの不正利用防止策を強化するための不正競争防止法改正案などと合わせて通常国会に提出する。弁理士法の改正は、合わせて法案提出する不競法改正案でデータの不正な取得や、不正利用を新たに違反行為に追加することに対応した措置だ。改正案では、データの保護策の策定やデータ売買・利用許諾に関する交渉、データ利用を巡る企業間の争いの解決などを新たな弁理士の業務として追加する。不競法改正で企業のビッグデータが新たに保護対象とされることに対応する。これらの業務は企業内の秘密のデータを扱うため、技術や契約に詳しく、法律で厳しい守秘義務が課される弁理士が適任と判断した。」(日本経済新聞2018年1月29日付朝刊・第3面、強調筆者)

今、弁理士の業務(補佐人、訴訟代理人業務を除く)について定めている弁理士法第4条では、「業務」が以下のように規定されている。

第4条 弁理士は、他人の求めに応じ、特許、実用新案、意匠若しくは商標又は国際出願、意匠に係る国際登録出願若しくは商標に係る国際登録出願に関する特許庁における手続及び特許、実用新案、意匠又は商標に関する行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)の規定による審査請求又は裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理並びにこれらの手続に係る事項に関する鑑定その他の事務を行うことを業とする。
2 弁理士は、前項に規定する業務のほか、他人の求めに応じ、次に掲げる事務を行うことを業とすることができる。
一 関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第六十九条の三第一項及び第六十九条の十二第一項に規定する認定手続に関する税関長に対する手続並びに同法第六十九条の四第一項及び第六十九条の十三第一項の規定による申立て並びに当該申立てをした者及び当該申立てに係る貨物を輸出し、又は輸入しようとする者が行う当該申立てに関する税関長又は財務大臣に対する手続についての代理
二 特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは特定不正競争に関する事件又は著作物(著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二条第一項第一号に規定する著作物をいう。以下同じ。)に関する権利に関する事件の裁判外紛争解決手続裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。以下この号において同じ。)であって、これらの事件の裁判外紛争解決手続の業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として経済産業大臣が指定するものが行うものについての代理
三 前二号に掲げる事務についての相談
3 弁理士は、前二項に規定する業務のほか、弁理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、次に掲げる事務を行うことを業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは著作物に関する権利若しくは技術上の秘密の売買契約、通常実施権の許諾に関する契約その他の契約の締結の代理若しくは媒介を行い、又はこれらに関する相談に応ずること。
二 外国の行政官庁又はこれに準ずる機関に対する特許、実用新案、意匠又は商標に関する権利に関する手続(日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有する者が行うものに限る。)に関する資料の作成その他の事務を行うこと。
三 発明、考案、意匠若しくは商標(これらに関する権利に関する手続であって既に特許庁に係属しているものに係るものを除く。)、回路配置(既に経済産業大臣に対して提出された回路配置利用権の設定登録の申請に係るものを除く。)又は事業活動に有用な技術上の情報(既に秘密として管理されているものを除く。)の保護に関する相談に応ずること。

このように、「知財」のスコープに含まれる法令上の手続きや相談に関しては、くまなく規定する、というのが今の弁理士法のスタイルで、特に平成26年改正で、それまで弁理士が当然に行っていた「事前相談」まで明記したことで、その傾向は一層強まっている。

今回も不正競争防止法をわざわざ改正してデータ絡みの話を入れる以上*1、それに合わせて規定する、ということなんだろうけど・・・

こういう記事が出てしまうと、あたかも「今は弁理士であっても、助言すらできない」という誤解を招きかねないのではないのかな、と。
ビッグデータに関する契約とかデータ保護の助言なんて、今でも(その分野に知見がある)弁理士なら普通にやっている話なわけで、今回の法改正もいわば確認的な規定の追加に過ぎないのに、こういう記事の書かれ方をしてしまうと、今既に取り組んでいる一部の先生方に対してはちょっと気の毒に思えてならないのである*2

*1:この不正競争防止法改正自体にも、いろいろ突っ込みどころはあるのだけど・・・。

*2:紛争解決の代理までやる、ということになるとまた別の問題が出てくるので、それを明記する、というのは分からんでもないのだが、そのレベルの仕事になってくると、普通の会社なら弁理士ではなく弁護士に依頼するだろうから、これもわざわざ規定する意味は乏しいような気がする。やはり、契約とか紛争解決の話になってくると、業として行えるかどうか、という以前の問題として、解決の道筋を示すためのセンスに歴然とした差があることは否めないので。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html