またしてもオリンパス。

ここ数年、社長解任劇に始まって、不正会計事件、内部通報者報復事件、と、コーポレート・ガバナンス、あるいはリスク対応、コンプライアンス対応の観点から、「やってはいけない」事例を世の中に繰り返し提供してくれているのがオリンパス、という会社である。

中の人たちの感覚が皆歪んでいる、というわけではないのだろうが、これだけ繰り返すと(そして、そのたびに、メディアの憶測報道ベースではない、第三者委員会報告書や判決文で適示される事実を目にするたびに)、ちょっとどこか“違う”価値観で動いている会社なんじゃないか、と思わずにはいられない。

そして、またしても・・・という記事が今週、出た。

「精密機器メーカー、オリンパスがまた内部告発で揺れている。中国現地法人で不明朗支出を追及した幹部が1日付で異動した。この人事をめぐり、同僚の社員弁護士が公益通報者保護法違反のおそれを指摘するメールを社内の多数に送り、メールを禁じられた。そのため、この弁護士は会社を相手取って東京地裁に訴訟を起こした。」(朝日新聞デジタル2018年1月29日7時10分)*1

事柄の詳細については、引用元の朝日新聞のサイトに詳しく書かれているし、その後FACTAにも記事がアップされた*2

ことの発端になっている、「オリンパスの中国法人がエージェント、コンサルタントに支払った対価が賄賂に当たるかどうか」という点については、オリンパスが以前、米国、南米の医療従事者へのリベートに関してDOJと和解合意している過去*3を考慮しても、今でている情報だけでは何とも判断し難い*4

また、「独自に調査に動いた中国法人の法務本部長が異動させられた」という点についても、浜田正晴氏の一件*5と重ねあわせて、どうしても“クロ”の心証に傾きがちなのだが、これも「不当な目的あり」というためには、情報が少なすぎる。

ただ、そういった前提事実の真偽を差し置いても、「社内弁護士のメール送受信を全面的に禁止する」というのは(これも事実なのだとすれば)さすがにやり過ぎ、と言わざるを得ないし、そこまで露骨なことをやってしまうと、「そういう会社なんだ」とバイアスのかかった目で見られてしまうことは否めないわけで・・・*6

また、「弁護士職務基本規程」は、第51条で、社内弁護士に対し、「組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置を採らなければならない」という義務を課している。

「適切な措置」として、社外取締役にダイレクトでメールすることまで求められる、と言われてしまうと個人的にはちょっと困ってしまうが、とにかく何かしら問題意識を共有しなければいけない、という意識で動くこと自体は、決して批判されることではないわけで*7、そういう意味でも「メール送受信禁止」というのは、ちょっと理解しがたいところがある。

社内弁護士、という立場で在職中(?)の会社を訴えることの是非*8は議論のあるところだろうし、それ以上に、これだけ情報が外に出てしまっていることがどうなのか(朝日新聞の記事は、明らかに提訴の事実を知り、訴状の内容を見て書かれているものだと思われるが、その中には当然会社の機密事項も含まれているはずである)、という問題もある*9

だが、それ以上に、報じられているオリンパスの対応には疑問を感じるところが多いし、1月31日に公表された、紋切り型の「公式見解」*10を読むと、余計にその思いを強くする*11

先行した朝日新聞の報道に対し、かつての「オリンパス事件」の時は、真っ先に切りこんでいった日経新聞が、会社がプレスした事実を淡々と報じるにとどめている*12のが、何となく面白いコントラストになっているのだが、いずれにしてもすんなりとは終わりそうにない話だな、と個人的には思っているところである。

*1:https://www.asahi.com/articles/ASL1W46N5L1WULZU001.html

*2:https://facta.co.jp/blog/archives/20180131001372.html、元々は2年前にFACTAが取り上げた贈賄「疑惑」に端を発している話のようである。

*3:https://www.olympus.co.jp/ir/data/announcement/pdf/td160302.pdf

*4:支払った「4億円」という金額が事実だとすれば、さすがにちょっと高いな、という印象はあるが、全くやましいところのない契約でも海外のコンサル、というのは基本的に「高い」ものなので、この情報だけでは“疑惑”の域は出ないだろうと思う。

*5:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120807/1344664923http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120904/1347082801参照。

*6:今回の訴えが、仮処分申立ではなく、損害賠償請求の本訴であることを考慮すると、メール使用禁止の処分自体は既に解けているのかもしれないが。

*7:そういう動きをされるのが嫌なのであれば、社内弁護士など雇わなければよい、というだけの話である。弁護士でなくても、それ以上の能力を持つ優秀な法務担当者は世の中に多数いるのだから。

*8:これ自体は自分も全く否定するものではないし、同じ立場に置かれたら、そんなに躊躇せずに同様の行動は起こすと思う(もちろん、受けた不利益の程度感にもよるけど)。究極の場面では、会社の事情ではなく自らの職業的正義感、倫理観の下で動かないといけないのが、「弁護士」として仕事をやる上での“さだめ”ではないかと思っている。

*9:もちろん、前提となる社内通報手続とそれに対する会社の対応がどうだったか、ということとも関係してくる話ではあるのだが、弁護士としての守秘義務の兼ね合いで、個人的には気になるところではある(「解説 弁護士職務基本規程第3版 151頁参照)。

*10:https://www.olympus.co.jp/news/2018/contents/nr00716/nr00716_00000.pdf

*11:メールのやり取り抜きで仕事をすることなど不可能な今の時代に、「再三の注意にもかかわらず、当社の規程に反して社内メールを不適切に利用したため」という説明だけで、メール全面利用禁止を正当化することは不可能だと思う。その辺のセンスがこのリリースには決定的に欠けている。

*12:日本経済新聞2018年2月1日付朝刊・第19面。

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