“第四次産業革命”の断末魔のような法改正

不正競争防止法改正案が閣議決定された、というニュースが飛び込んできた。
経済産業省のページに飛ぶと、早速、いつものように新旧対照条文まで載っている。
http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001.html

相変わらず、特許法の一部改正とか、弁理士法の一部改正とか、はたまたJIS法の改正(昨今の情勢を踏まえた罰金額の大幅引き上げ等)とか、いろいろ盛りだくさんの法案なのだが、正直、全体的に小粒感は否めない。

本丸の不競法改正に関して言えば、ホームページには、

・ID・パスワード等により管理しつつ相手方を限定して提供するデータを不正に取得、使用又は提供する行為を、新たに不正競争行為に位置づけ、これに対する差止請求権や損害賠償の特則等の民事上の救済措置を設けます。
・いわゆる「プロテクト破り」と呼ばれる不正競争行為の対象を、プロテクトを破る機器の提供だけでなく、サービスの提供等に拡大します。

といった記載がある。

そして、今回の改正法で不競法2条1項11号以下に、「限定提供データ」の不正利用に対する規制がふんだんに盛り込まれることになったのだが・・・。

改正法に定義された「限定提供データ」という言葉に自分は違和感をどうしても隠せなくて、特に2条7項にある定義などを読むと、なおさらそう思う。

「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。」(強調筆者)

「相当量蓄積」って何じゃい。「技術上又は営業上の情報」って全部じゃないかい・・・。
といった突っ込みは当然予測されるわけで、それでも審議会の議論を経て、立法することが決まった以上は、腹を据えて向き合わないといけないのだろうけど・・・。

個人的には、今回の改正って、特許でもブランドでもデザインでも世界の競争に勝てず、長年成長を支えてきた虎の子のノウハウさえもはや守るものが枯渇しつつあるこの国で、最後の“資源”を無理くり生み出そうとするもののようにしか思えず、それも、データ活用のプラットフォームを海外勢に占められつつある現状においては、かえって逆効果でしかないような気がするわけで、「第4次産業革命」の辻褄合わせの施策にしては、どうにもおかしなところに行ってしまったな、という感想しか出てこない。

理論的な観点からすれば、今回新設された定義を緩く解すれば解するほど「本来、情報は自由に利用できるもの」という原則との間で緊張関係を生じさせることになるし、逆に実務的には、定義を厳格に解すれば解するほど、この規定が意味のないものになってしまう*1

そして何より、「大事なのはデータそのものではなく、それをどう分析して使うか、その結果をどう見せるかだ」というビジネスの基本が、この妙ちくりんな規定が入ることによって歪んでしまわないか、ということが気になって仕方ない*2

多くの実務家にとっては、当面、現在の不正競争防止法2条1項13号以下の号番号が大きくズレる、ということ以上の影響を感じることはないだろうけど*3、じわじわと変な影響が広がっていかないように、あとは実務の知恵で上手くワークさせるしかないのだろうな、と思っているところである。

*1:「相当量蓄積され」た状態になって初めて保護され、それまでの過程が一切保護されないのだとしたら、保護の抜け道はいくらでもできてしまう、ということになりそうである。

*2:もちろん、こういう規制が入ることによって、新たな「ビジネス」が生まれる余地は出てくるのだけど(弁理士法改正案参照)、それは本来今回の改正が目指すべきところではないはずだ。

*3:最近、枝番で突っ込むパターンに慣れていたこともあって、これだけ番号がずれる経験をするのはかえって新鮮なのだが、ドメイン名(13号→19号)、原産地等誤認(14号→20号)、虚偽告知(15号→21号)等々の番号が全て大きく動くことになる。元々平成27年改正で1号分ずれていたところに重ねて、だから、昔の判決一つ読むにも注意が必要だと思っている。

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