東京地検がムキになって、大成建設への捜索を繰り返していたのを見た時点で、ここまでやってくることは十分想像がついていたのだけれど、やはりこうして記事になると憤りを隠せないのがこのニュース。
「リニア中央新幹線の建設工事をめぐる入札談合事件で、東京地検特捜部は23日、大成建設と鹿島の幹部2人と、大林組、清水建設を含む4社を独占禁止法違反(不当な取引制限)罪で起訴した。談合を認めた大林組と清水建設の担当者は起訴猶予とした。事件では、高い技術力が必要な巨大事業を進めるため各社が受注調整をしていた実態が浮き彫りになった。」(日本経済新聞2018年3月24日付朝刊・第2面)
捜査のあり方、そして、ほぼ検察官の裁量の悪用と断言して良い個人に対する起訴のあり方など、訴追側の姿勢について言いたいことは山ほどあるのだけれど、それはクドイので繰り返さない。
それよりも問題なのは、「告発&起訴」に向けた動きが強まる過程で、メディアの論調が“推定有罪”に大きくシフトし、比較的冷静な論調だった日経紙ですら、受注調整の存在を前提に「原因」を探るような記事に走ってしまっている。
それだけ、公的な訴追機関の判断が与える影響は大きい、ということの証左なのだろうけど、事実以上にその法的評価が問題になってくると思われる本件のような問題で、現在の検察当局の逸脱した捜査・起訴過程を肯定するような記事を書くのは、後々の他の「経済犯罪」に関する捜査にも悪影響を及ぼす可能性があるし、事件そのものに目を移しても、「受注側の関係者が接触していたこと自体がいけない」というような論調の記事をかき立てることが、一体誰のためになるのか、ということは、もう少し冷静に考えた方が良いように思う*1。
そうはいっても、日経紙が社会面で、
「過去には旧日本道路公団など発注の鋼鉄製橋梁工事をめぐる談合事件でも法人のみ起訴された企業はあった。だが関与の度合いに応じたもので、今回のように認否で対応が分かれるのは異例。逮捕と起訴の判断を一手に担う検察は強力な権限ゆえにストーリーありきの捜査を招くと何度も指摘されてきた。刑事事件を担当するベテラン弁護士は今回のようなアメとムチを使い分けて供述を迫るかのような捜査手法を批判する。」(日本経済新聞2018年3月24日付朝刊・第39面、強調筆者)
と、起訴裁量の濫用を批判し、さらに、
「「今回のような形で司法取引を使われたら虚偽供述を招きかねない」との懸念も出ている。」(同上)
と、今、良識ある人々が一番気にしているポイントを端的に突くなど、一応問題意識をもって取り上げてくれているのは救いだったりもする。
自分は、ここから始まる公判期日での攻防で、全てがひっくり返る余地はまだ残っていると信じているのだけれど、願わくば、まだ検察側立証も、弁護人の防御活動も表に出ていないような状況で、メディアが「受注調整/談合の問題点」などを論じるような浅はかなことはしないでほしい、と思わずにはいられない。
そして、こと、いわゆる「経済犯罪」に関しては、刑事訴訟法が改正されたからといって、検察に起訴権限の濫用を安易に許すような運用にしてはいけない*2、という教訓事例として本件を受け止めるのが、正しい理解の仕方なのではないかな・・・と。
*1:高度な技術力を持つ大手企業になればなるほど、技術者を囲い込む傾向があるこの国は、高度な経験・知識を持つ技術者がフリーのコンサルタントとして受注側と発注側の間を渡り歩く欧米社会とは全く違う構造で成り立っているから、特に欧州のような情報交換禁止ルールを入れた瞬間に、大規模かつ高度な工事になればなるほどまともな入札ができなくなる、という状況に陥りかねない。そして、そこまで掘り下げて分析して初めて、ことの善悪を議論する資格がある、と自分は思っている。
*2:今の制度の下では、それは弁護人の双肩にかかっている、といっても過言ではない。嫌疑を負わされた人々の中にもさまざまな人がいる以上、そう簡単に「安易な取引をするな」とは言いづらいところではあるのだが、それでも「真相解明を重視するからこそ」の抵抗は、弁護人がどこかで示佐ないといけない、と思うところである。