称えられるべき結果と、顧みられるべき伏線と。

日本代表のW杯グループH最終戦ポーランド戦での“負け逃げ”を見て、このモヤモヤした気分をどう表現しようか・・・と悩んでいる間に、あっという間に日は流れ、とうとうノックアウトステージ突入。しかも最初の試合からW杯の歴史を塗り替えるような壮絶なゲームを見せられた余韻に浸っていたこともあり後手後手に。

その間、世論は大いに盛り上がったが、何となく「決勝トーナメント進出、という結果を出したんだから西野監督の勝ち」、「一歩間違えたら大恥をかく状況でも肝を据えて作戦を遂行した西野監督はすごい!」といった論調で収束しつつある*1

サッカーのこの種の大会においては、グループリーグの最終戦で、同時に行われる他会場の結果を見ながら「リスクを冒さない」戦い方をすることは決して珍しいことではない。今大会でも、負けるとオーストラリアの結果次第で敗退の可能性も残っていたデンマークが、勝ち抜けが決まっていたフランス相手に繰り広げたゆるい試合などは、あくびが出るくらい退屈な試合だった*2し、遡れば日韓W杯の時にポルトガルの「和平提案」を一方的に打ち砕いた隣の国は、むしろ“ならず者”としてサッカーメディアのバッシングを浴びたくらいだ。

ただ、今回の日本代表の「最後の10分」が異質だったのは、「負けている状況」での選択だったこと。

先述した「取引」の多くは、試合が拮抗して、「双方が勝ち点1でいいや」と思った時に成立するものだし、ネットでネタとして拡散されていた修哲FCの“鳥かご”は勝ち越した後の「逃げ切り策」として繰り出されるものである。
そういった「勝者の策」を、「このまま試合が終われば勝ち点を積み増せない」という状況で遂行する、というケースは、自分は他の大会でもあまり見たことはないし、それこそが海外メディアが想像以上に厳しい論調になっている一因でもあると思われる。

西野監督自身も認めているように、他会場の展開が変われば“策に溺れる”結果となってしまう状況で策を遂行するのは、合理的なリスク管理の範疇を超えた“ギャンブル”でしかない*3

ましてや、最後の試合で、本田選手、香川選手をベンチに温存したまま敗退する、ということになればまさに大恥。

だからこそ、攻撃のカードを捨ててでも「ギャンブル」を遂行し、決勝トーナメント進出を勝ち取った西野監督の胆力が今称えられているわけだし、自分も「一大会おきのラウンド16進出」という日本サッカー界の歴史を絶やさなかった、という“結果”そのものを否定するつもりは全くないのだが・・・。


自分は、そもそもこんな物議を醸すような“窮余の一策”を繰り出さないといけなくなった伏線としての「先発メンバー6人替え」の方に、もっと目が向けられるべきだと思っている。

セネガル戦でピッチに投入された瞬間に勝ち越しムードを消滅させた宇佐美貴史選手は、先発で起用されてもやはり同じことだったし、コンディション不良がささやかれていた岡崎慎司選手は50分持たなかった。

決して出来は悪くなかったものの、代表ではほとんど試されたことがない攻撃的ポジションで起用され、戸惑いも感じられた酒井高徳選手、前半の動きは良かったものの後半に入って試合から消されてしまった武藤嘉紀選手。
そして、極めつけは、お馴染みのなんちゃってオーバーヘッドでチャンスを潰し、挙句の果てには自陣ゴールに「とどめ」の一発をぶち込もうとした槙野智章選手・・・。

山口蛍選手のように、個人的には最初から使って欲しかった選手まで結果を出せなかったのは残念だったが、それ以外の選手に関しては、起用した時点でこうなることは分かっていたわけで、本来勝つか引き分けがマストの試合、しかも交代枠が3人分しかない中で、あの先発メンバーはあり得ない。

それでも“西野采配”を熱狂的に支持する人たちは、「結果的には、本田選手や香川選手を万全の状態で決勝トーナメントに臨ませることができるようになったのだからいいだろう」とか、「これで今大会の代表に欠かせない選手が明確になった」とか、いろいろと褒め称えているのだけど、あんな状況で試合に出て孤軍奮闘を余儀なくされた柴崎選手のストレスとダメージは如何ばかりか、と思うし、オプションを増やせたならともかく、結果的に交代のオプションを減らしてしまったわけだから、後者の観点からも結果的には大失敗*4

岡崎選手負傷、宇佐美選手不調*5、という状況で本来のカードを2枚切っても、同点に追いつくどころか、点差を広げられないようにするのが精いっぱい、という状況だったからこその「ギャンブル」だった、ということから目をそらしてはいけない。

3日未明に行われるベルギー戦で、香川選手、本田選手が躍動してベスト8進出、なんてことになれば*6、「西野監督は日本サッカー史に残る名監督」ということになるのだろうけど、その前にまず、先発メンバーにしても、交代選手にしても、現時点でベストの選択を!というのが、今の自分の切実な願いである。

*1:元代表監督の岡田武史氏など、関係者がいち早くこの線でコメントした影響も大きかったと思われる。https://www.nikkansports.com/soccer/russia2018/news/201806300000133.html

*2:今大会中、最大の凡戦と言っても良いだろう。

*3:例えば今大会のデンマークはオーストラリアとの勝ち点差が「3」あったから、ドローで1つでも勝ち点を取れば相手の試合展開に関わらず決勝トーナメントに進むことが可能だった。そういう状況で「引き分け狙い」の緩い試合をするのはリスク管理の範疇。一方、勝ち点差が1つ、2つしかない状況で同じことをして、競り合っているチームが大差で勝ち点3を獲れば当然プランは狂う。そしてポーランド戦開始時点の日本代表の勝ち点はセネガルと全く同じ。セネガルが1点でもとれば敗退の危機を迎える状況だったのだから、そこで同点すら狙わずに試合を終わらせる、というのは、博打以外の何ものでもない。

*4:それなら、遠藤選手とか大島僚太選手を試した方がまだ先々に希望が持てたのに・・・と思わずには得られない。

*5:というか、普通にやってあれが限界・・・。

*6:個人的には、16年前のイメージとここまでのトーナメントの流れで延長戦まで戦ってドロー、そしてPK戦で奇跡的勝利、というのが良い方の一番現実的なストーリーだと思っているのだが、今のベルギーは16年前日本で戦ったチームと比べて遥かに強い。付け込む余地があるとしたら、唯一の弱点である本戦トーナメントでのチームとしての経験の乏しさとか勝負弱さだが、それは日本も同じだから、強調できる要素は少ない。

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