懲りない特許庁の「意匠制度見直し」への執念。

5月末に「有識者研究会の報告書」なるものに接して、本ブログでもかなり痛烈な批判をしたつもりだったのだが*1、当事者はまだまだ本気でこの施策を進めるつもりらしい。

特許庁が2019年の通常国会への提出を目指す意匠法改正案の全容が分かった。保護期間を5年延ばして25年にするほか、保護の対象にウェブサイトのレイアウトや建築物の内外装などを加える。企業が継続して使うデザインも保護しやすくする。技術に大きな差がない商品やサービスはデザインが売れ行きを左右する傾向が強まっているため、権利保護を強める。」(日本経済新聞2018年8月17日付朝刊・第1面)

このアドバルーン記事が殊更に滑稽なのは、ちょうど今月の初めくらいに、当の特許庁自身が、「意匠制度の見直しの検討課題に対する提案募集について」という意見募集を開始し(https://www.jpo.go.jp/iken/180807_isho_seido.htm)、まさに今、意見受付期間中(期間は9月21日まで)、というステータスの中で出てきたものだからだ。

もちろん、この意見募集に際して示されている質問項目の書き方や、添付されている産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会の資料*2を見れば、事務方がこの記事に書かれているようなドラスティックな法改正を志向しているのだろうな、ということは、この種のプロセスに対する心得のある者が見ればすぐにわかる。

とはいえ、審議会の議論の終盤に差し掛かった時期ならともかく、まさに国民に向けて「意見募集を始めた」というタイミングでこういう記事を飛ばすというのは、いくら「今やわが世の春」な経産省系の役所だからといっても、決して看過できることではない。

そして、添付されている意匠制度小委員会の資料からしてもミスリードのオンパレードで、おそらく第1回の小委員会の場でも、知見のある委員の方々から相応の突っ込みがあったと思われるにもかかわらず、議事要旨を公開する前に*3パブコメにかけてしまう、という思慮のなさときたら・・・。

内容以前にプロセスがめちゃくちゃなのだから、全くお話しにならない状況である。

なお、多少なりとも実務をかじってきた者として、公表されている資料の内容に細かい突っ込みをしようと思えばキリがないくらい出てくるのだが、やはり一番指摘しないといけないのは、

・諸外国との比較で、あたかも日本では画像デザイン(現在意匠登録できない態様のもの)や建築物の外観デザイン、内装デザインといったものが全く法的保護の対象になっていないように誤解させる記載*4
他の知的財産法(特に著作権法不正競争防止法)による保護の範囲を殊更に限定的に見せようとする記載*5

といったものであろう。

特許庁が所管する意匠制度の下では登録できないものであっても、他の知的財産諸法をうまく使えば、露骨なフリーライド事例のほとんどに有効な対処をすることが可能だし、逆に自由な創作活動を制約するような過剰な権利行使を防ぐためにバランスを取る、という点でも、著作権法不正競争防止法はこれまで非常に良い働きをしてきた*6

ゆえに、行政の肥大化にブレーキをかけるのが喫緊の課題となっている今の日本で、これらの分野に関して、わざわざ余計な行政コストを発生させる「意匠権の保護対象拡大」という施策を取ることの合理性が自分には全く理解できないし、これまで著作権法不正競争防止法が(そしてこれらを解釈する裁判所が)「権利者」の権利行使を拒んで来たようなところにまで、意匠法で新たな「権利行使」の可能性を生み出そうとするのであれば、それは創作へのインセンティブ拡大、イノベーションの促進といった社会の一大目標に真っ向から挑戦することに他ならないから、なおさら合理的な説明は困難だと自分は思っている。

今は、あと一ヶ月以上も残されている意見募集期間の中で、「デザインの創作とそれをめぐる係争の実務を知る者の意見」がきちんと集まること、そして、その結果が、事務方に「このタイミングで法改正があたかも「既定路線」であるかのような記事を飛ばしたこと」を後悔させるようなものになることを、ただただ願うのみである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20180529/1527915117

*2:https://www.jpo.go.jp/iken/pdf/180807_isho_seido/01.pdf

*3:この記事を書いている現時点において、各委員の発言の詳細は公表されていない。https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/isyounew_06giji.htm参照。

*4:小委員会資料14〜18頁、24頁、25頁。

*5:同19頁、26頁。

*6:見かけ上は「権利」になっていても、実際にそれを行使するためのハードルが非常に高い諸外国に比べれば、日本の方が遥かに権利者を救済しやすい制度になっているといえるし、逆に“デザイントロール”的な動きをさせない、という点でも、日本の制度には一日の長があると思われる。