そんなに大きくは取り上げられていなかったものの、「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」という長ったらしい名前の法律の成立を受けて、感度の高い各企業の担当者が戦々恐々としていたのは、もう5年くらい前のことになる。
現実には、当時想定していたとおり*1、この集団訴訟の類型に馴染む事件、というのはなかなか登場してこなかったし、その後の消費者契約法改正の議論の中でも何度か取り上げられたように、適格消費者団体自身の財政状況や業務執行能力がなかなか覚束なかったこともあって、制度はまだ日の目を見ていなかったのだが、意外なところから「第1号」案件が出てきそうな気配になっている。
「東京医科大が女子受験生らを合格しにくくする入試不正をしていた問題で、特定適格消費者団体であるNPO法人「消費者機構日本」(東京)は11日、消費者裁判手続き特例法に基づき、近く同大に受験料の返還を求めて東京地裁に提訴する方針を固めた。特例法は悪質商法などで被害に遭った消費者に代わり、国が認めた特定適格消費者団体が損害賠償を請求できるとした。2016年10月に施行され、同法人が提訴すれば初めてのケースとなる。」(日本経済新聞2018年12月12日付朝刊・第41面、強調筆者)
このテーマに関しては、そもそも入試において「完全に公平な選考を行う」ということが、受験生・大学間の契約内容になっているのか?(誰を合格させるかは、本来、募集する大学の裁量で決められるべきものではないのか?)*2、という問題もあって、そう簡単に特定適格消費者団体側の請求が認められることにはならないだろう、という気はしている。
ただ、これで“一番風呂”を免れることができる、ということになれば、どの企業もほっと安堵するのは間違いない。
そして、振り返れば、消費者契約法の違約金条項の規制に俄然注目が集まったのも、立法に関与した方々が適用場面として想定していなかった、とされる「大学」での「学納金返還」に係る最高裁判決がきっかけ、であった。
消費者訴訟に関して、節目節目でなぜか主役の座に躍り出る「大学」が、今回どこまで争う方針を立てるのか、現時点では想像もつかないが、今回は無関係で済みそうな当事者としては、この際、集団訴訟制度の合憲性(笑)から徹底的に争ってもらって、また歴史に残る判例を作り上げていただきたいものだ、と思わずにはいられないのである。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140114/1389715313参照。
*2:もちろん、人種、性別による差別的取扱い等、大学側の裁量が公序良俗に反するレベルのもの、と評価されれば別だが、その場合でも不利を受けた受験生との関係で個別的な主張立証が必要な面もあるように思われ、本当にこの“集団訴訟”のスキームに馴染むのか、という点では疑問なしとはしない。