「占い」は外しても、読み外したくない時代の潮流。

新年、ということで、例年同様、元旦の朝刊の紙面は「今年の予測」を論じる記事であふれていた。
30年前は、ほとんどの人が確信していても口には出せなかった「改元」だが、今回は堂々と口に出せる、ということで「『平成』から新時代へ」というトーンの記事も多い。
ただ、あの時も1989年1月1日の時点で予測できていたのは「昭和天皇崩御」と「消費税の導入」くらいで、その後に世界を襲った大波*1や日本国内での政変*2まで予測することは到底不可能だった。

歴史は常に繰り返すもの、そして今年は今の時点で既に30年前を彷彿させるような不吉なキーワード(「改元」とか「消費税」とか・・・)が既に見えているだけに、また大きな変化、それも、保守層には決して芳しくない方向での変化が生じるような気がしているのだが、日経紙新年定番の「経営者が占う・・・」シリーズでは、どちらかといえば楽観的な予測の方が目立っている*3

この企画、昨年はどうだったか、と振り返れば、文字通り「占い」の域を出ておらず、特に株式相場の方は居並んだ経営者20名の予想は軒並み大外れ*4
昨年の元旦の時点では、足元の景気動向が堅調で悲観的になるような事情もなかったし*5、年初来高値を10月に更新して(24,448.07円)、わずか2カ月で年初来安値にまで落ち込む(12月、18,948.58円)という相場を読み切るのは不可能だから仕方ない面はある。

ただ、国内外の政治情勢を踏まえ「年後半に下落する」というトレンドを予測した経営者すらお二人(三菱地所の杉山博孝会長と日本電産永守重信社長兼会長)しかいなかった、というのは、所詮「占い」と考えてもちょっと不安は残るところ。

今年の予測を見ても、「IoT関連に高い期待」などという小見出しや「働き方改革関連銘柄に期待」といったコメントが目立つのだけれど、「AI・IoT」に関してはいろんな会社がここ1,2年で手を出したものの、既に技術的な「壁」に突き当たって“できること、できないこと”がかなりくっきりと浮き彫りになってしまっている、というのが率直な実感だし*6、「働き方改革」にしても、長期的な影響*7はともかく、短期的にはそこまで大きなインパクトを生じさせることは考えにくい。

そもそも、日本という狭い国の中でどういう政策が繰り出されようが、「米国対中国」という世界を二分する大経済戦争の前では全くといってよいほど影響力がない、という現実がある以上、無力感は漂うところではあるのだけど、間違いなく訪れるであろう10月の消費税増税とその前後に繰り出される景気対策のどちらが消費動向に影響を与えるのか*8、そして、それに付随して訪れる「決済環境の激変」*9が、個別企業の業績にどういうインパクトをもたらすのか、といったところの方に、むしろ注視する必要があるように思えてならない。

個人的には、今の“後世へのつけ回し&身の程知らず”な経済・財政政策の路線には、現政権ともども明確に終止符を打ってもらって、世界に吹き荒れる暴風をやり過ごすために、内向きといわれようがなんだろうが、日本国内ではとにかく「専守」に徹する国家運営に舵を切ってもらいたいものだと願っているのだけれど、そう簡単に政治体制を変えられないのであれば、(一人でも多くの雇用を守るために)せめて個別企業の経営だけでも、潮流を読んで、逆風を乗り切る手堅さで乗り切ってほしい、と僭越ながら願うばかりである。

なお、1年後に恥をかくことを承知で、自分の「占い」を挙げておくならば、ざっと以下のような感じだろうか。

・年明けから春先までは米中間の緊張緩和やハードBrexit回避(そもそも撤回もありうる)のムードが高まって相場的には上昇基調で推移。
・5月頃に一度調整の大波が来る(G20の動向次第では、6月にさらに下がる可能性も)。
・国内主要各社の第一四半期&通期見通しが出てくる7~8月頃(おそらく増税を見越した駆け込み需要で数字は予測より跳ねる)に再び上昇に転じる。
・消費増税を控えた9月に利益確定売りで一気に調整局面へ。
・10月以降は、実際の国内消費動向と、世界の動き次第。特に中国の建国70周年(10・1)に合わせて何が出てくるか、による。

「山」が3月~4月くらいで終わってしまうのか、それとも8月、あるいは10月以降に更なる盛り上がりが来るのか、というのは何とも言えないのだが、個人的には前半に山、後半に谷、と予測されている方々のコメントに親和性を感じている*10

そして、上値は願望も込めて25,000円台、下値は考えたくないけど、リーマン前の山(18,300円台)を割り込むことくらいまでは覚悟しておかないといけないかな、ということで、昨年以上に大きな波が来ることに半分脅えつつ、半分は期待しながら、新しい年のその他もろもろに思いを馳せることとしたい。

*1:東欧各国の「革命」からベルリンの壁崩壊、マルタ会談に至るまでの流れ。アジアでも天安門事件が起きたのはこの年である。

*2:リクルート疑惑の拡大に伴う竹下内閣総辞職に始まり、参議院選挙で自民党が大惨敗を喫したことが、その後の政界再編、非自民連立政権発足の契機となった、ということは改めて説明するまでもないだろう。

*3:日本経済新聞2019年1月1日付朝刊・第30面・第31面。

*4:金額レンジ的に一番近かったのは、唯一安値20,000円割れ(19,500円)と予測したセコムの中山泰男社長だが、その中山氏にしても、6月に最安値、その後12月に25,000円の最高値、という予測だから、これは当たったとは到底言えない。

*5:筆者自身、前年にほぼ的中させていた金川千尋信越化学工業会長の「高値28,000円」に乗っかっていたくらいだから、外した人たちを笑うのはお門違いというものだろう・・・「維新」も「革命」も、狙って起こすものじゃない。 - 企業法務戦士の雑感

*6:これらに限らず「Buzz」化したトピックに飛びつくのが危険、というのは長い歴史が証明してきたことでもある。「仮想通貨」ほどひどいことにはならないとしても、筍のように生えてきたスタートアップ企業とそれに対する大企業の投資ブームが突如として終焉を迎えるリスクは目の前に迫っているような気がする。

*7:立法者の意図に反して、人材の「二極化」と野心的な若者の国外流出という事態を招きかねないリスクをはらんでいる、ということには留意しておく必要がある。

*8:さらに言えば、ここ数年日本の消費を下支えしてきた周辺国からのインバウンド消費の増加基調が足元で揺らぎつつある中でそれを補うだけの需要を喚起できるのか。

*9:筆者は、今年末の時点でキャッシュレス決済の比率は50%近くまで爆発的に伸びる、と予測している。インターネットショッピングの普及やQRコードによるスマホ決済の普及等の前向きな要因もさることながら、現金しか使ってこなかった層の消費意欲・購買力の減少という社会的に見ればあまり芳しくない傾向の進展によって・・・。

*10:そういう意味では、今年も信越化学工業金川会長(4月に24,000円、11月に19,000円と予測)に「5000点!」(笑)。このトレンドで予測されているのは、それ以外では味の素の西井社長、大和ハウスの樋口会長くらいしかいないが、今年も「少数派」の方に分があるような気がしてならない。

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