地位を追われた者と、追った者と、その間にある執念と。

ここのところ、やたら報道が目立つようになってきたLIXILグループの経営トップ人事をめぐる問題。
一部の海外機関投資家が声を上げ始めたのをきっかけに、最近では、現会長兼CEOの潮田洋一郎氏と、昨年秋に退任した前CEOの瀬戸欣哉氏とでどちらがCEOにふさわしいか、という話題にも発展していたのだが、遂に片方の当事者が動いた。

LIXILグループの経営トップ人事の問題を巡り、前社長兼最高経営責任者(CEO)で現取締役の瀬戸欣哉氏が5日、都内で記者会見した。6月の定時株主総会で株主として、潮田洋一郎会長兼CEOの退任を求め、瀬戸氏ら8人の取締役候補を独自に提案することを明らかにした。経営陣にいる取締役が株主提案をするのは極めて異例だ。同社の経営の混乱が深まっている。」(日本経済新聞2019年4月6日付朝刊・第2面、強調筆者)

記事の中では瀬戸氏の「プロキシーファイトではなく指名委員会への働きかけをまず優先して行っていく」という趣旨のコメントも掲載されているが、株主としての権利行使の一環で提案を行う以上、もつれた場合は当然委任状争奪戦になる可能性も十分考えられるわけで、ことが穏やかでないことは間違いない。

元々、瀬戸氏は、藤森義明社長兼CEOの後任として鳴り物入りで招聘されたプロ経営者だったから、昨年、期の途中で唐突にCEOが交代し、トステム創業家への大政奉還(?)というような事態になった時から既にざわざわする要素はあったのだが、その時は当時のLIXILの経営状況が今一つ、という背景もあったと説明されていたし、“趣味人”的な横顔とともに紹介された現CEOに対しても、決してマイナス面ばかりが強調されるようなことにはなっていなかった。

それが今や、「健全で有能な取締役会をつくることを目指す」というフレーズの下、現CEOを取締役候補者から外して、前CEOが再び返り咲くかもしれない、という展開・・・*1

自分は、LIXILグループ、というこの複雑そうな企業集団の中に足を踏み入れたことはないし、所詮、飛び交っているのは世間の風評で、新旧CEOのどちらが正義か、なんてことは到底分からないし、この点について軽々に論評することは避けたいと思っている*2

だが、LIXILグループが、本年2月下旬に、燃え上がる火の粉を押さえるために公表した「当社代表執行役の異動における一連の経緯・手続の調査・検証結果について」という報告書*3の中には、以下のようなくだりがある。

「上記電子メールの送信内容に鑑みると、潮田氏が瀬戸氏に対して CEO 等からの辞任を求めるに際して、指名委員会による決定が行われた旨及びその決定を覆すのは困難である旨の説明をしたと考えるのが自然である。」(強調筆者)
「瀬戸氏は、「自分(瀬戸氏)は潮田氏の意見対立といった個人的な事情で会社の経営を投げ出すようなことはせず、自分(瀬戸氏)が辞任を決めたのは、あくまでも潮田氏から、自分(瀬戸氏)に辞任を求めることは指名委員全員の総意であり、機関決定がなされた以上、それを覆すことはできないと言われたためである。」と述べている。また、取締役の中には、「瀬戸氏は、中期計画の途中で、自発的に CEO を退任しようなどと考える人物ではない。」と述べる者もいる。」

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5938/announcement2/48660/00.pdf

CEO交代が決まった2018年10月31日の取締役会に先立って行われた10月26日の指名委員会で、あくまで「瀬戸氏が辞任の意向を示すことが条件」とされて後任人事案が承認されていたにもかかわらず、あたかも指名委員会の決定が確定的なものであるかのように説明された、という事実。

結果的には、

「瀬戸氏による CEO 及び代表執行役から辞任する旨の意思表示を無効ならしめるほどの瑕疵がその意思決定過程に存在したとまで認めることは困難」

「本件取締役会決議に際して、出席取締役に対して十分な情報が与えられず、あるいは不正確な情報しか与えられなかったといった事情は認められず、また、出席取締役から質問がなされ、それに対する回答も行われている上、質問を遮って採決を強行したような事情は存在しない。」

と、会社側の手続きの適正さを裏付ける結論を導いている報告書の中ですら、言及されてしまっている上記事実の存在が、一連の動きに向けた瀬戸氏の「執念」の源泉になっていることは間違いないわけで、それが法的に「瑕疵」とまで評価されるかどうかにかかわらず、一度でも煮え湯を飲まされた経験を持つ者としては、やっぱりこういうのはいかんよな・・・と、どうしても思ってしまうのである。

世の中、全てフェアであれ、といったところで、それがただの幻想にすぎない、ということは重々承知しているつもりではあるのだけれど。

*1:しかも、共同提案者として旧INAX創業家出身の取締役、伊奈啓一郎氏が加わっている、ということが話をややこしくしている。

*2:こんなスケールの大きな話ではなくても、組織の中の醜い足の引っ張り合いに心身を擦り減らしていた者としてはなおさら、こういった事柄への言及は慎重でなければならない、と肝に銘じている。

*3:結果的には、これが余計に不信感を増幅されている面もあるのかもしれないが・・・。