四半世紀の蜜月が招いた気の毒な結論。

福井健策弁護士の興味深いツイート*1を拝見したこともあり、数日前にコメントした「マリカー」の知財高裁中間判決がアップされるのを今や遅しと待ち構えているのだが、残念ながらまだまだ時間がかかりそうなので、その間に見つけた別の興味深い判決をご紹介することにしたい。

本件は、デザイナーが、元取引先に対し、自分の制作したピクトグラム等の使用差し止めを求めて争った事件であり、「令和最初の『ピクトグラム』判決」とでも冠したい事例ではあるのだが、個人的には著作権侵害の成否に関する結論よりも、その前段の取引経緯と契約解釈をめぐる攻防の方に目を惹かれた、そんな事件である。

東京地判令和元年5月21日(平成29(ワ)37350)*2

反訴原告:有限会社エス・オー・ディ
反訴被告:株式会社ハードオフコーポレーション

本件の原告は、デザイン会社。新潟県新発田市に拠点を置く会社だが、代表者は「公益社団法人日本インテリアデザイナー協会の正会員で,ジャパンデザイナーズにも登録している」(4頁)ということで、調べてみると、デザイン会社らしい非常にお洒落なホームページも開設している。

一方被告は、大都会からちょっと離れたところで暮らしたことのある者にとっては、非常に馴染みのある「古物の売買及び受託販売等を目的とする株式会社」。
メルカリ等の台頭もあって近年の業績は苦戦気味だが、それでも立派な東証一部上場企業である。そして本社所在地は、これまた新潟県新発田市

両者の関係を簡単にまとめると、反訴原告は,平成4年10月以降平成29年5月31日まで、反訴被告が開店した全ての反訴被告の直営店及びフランチャイズ店(以下「既存店舗」)の開店等に当たっての店舗デザイン設計監理業務の委託を受けて既存店舗の店舗デザイン設計・監理業務を行ったほか、反訴被告のために、既存店舗等で使用するピクトグラムを制作していた。

元々、反訴被告の代表者は新潟県内でオーディオ専門店を経営していたのだが、ブックオフフランチャイジーとして「ハードオフ」の直営1号店を新潟(紫竹山店)に開業したのが平成5年2月の話。そして、反訴原告はこの1号店開設にあたってのデザインを平成4年10月頃に手掛けて以降、四半世紀近くにわたって、実に343店の「ハードオフ」と、500店を上回る「オフハウス」「モードオフ」といった系列ブランドの店舗のデザインを手掛けてきた

判決の中では、反訴被告代表者が「反訴原告を反訴被告のチームの一員として取り扱っており,反訴原告は反訴被告の主要な会議に全て出席することが求められ,それら
の出席に伴う費用を負担していた」(22頁)ことまで認定されているし、これに対して、反訴原告代表者から「アルバイトが出席するような細かな打合せまで反訴原告に出席を求めないでもらいたい」とか、「反訴被告の野球大会やマラソン大会に出席を求めないでもらいたい」といった指摘がされた(21頁)といった事実も出てくるのだが、両代表者は、同じ地元で昭和62年に勉強会を通じて知り合って以来の仲。

間違いなくそこには「蜜月」の関係があった。

それが明確に暗転したのが、平成29年5月に、反訴原告の一部社員が退社し、同年6月1日以降の反訴被告の新規店舗に関しては、退社した社員が設立した会社(株式会社アークスペース)が店舗デザイン設計監理業務を受託するようになったこと。

その前年くらいから、反訴原告と反訴被告の間で報酬の値上げ等をめぐっていろいろと紛糾はしていたようで、退社社員に設計監理業務を委託することになった背景にも反訴原告が「引き継がせたいと申し入れ」た(22頁)、という経緯があったようである。
しかし、反訴原告がそのバーターとして申し入れた「反訴原告標章と反訴原告ピクトグラムの制作料及び使用料として,新規出店する店舗数に応じて1店当たり10万円を10年間支払い,その後の支払額と支払期間については改めて協議することや,反訴原告が作成した反訴被告の店舗に関する図面,写真等のデータやそれらを作成するために必要なパソコン,ソフトウェア,机等の機器類及び物品を合計3000万円で買い取る」といった条件は、反訴被告によってあえなく却下され(22~23頁)、結果、反訴原告が平成29年12月1日,反訴被告らに対し,「反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムのデザイン料,使用料相当額の損害賠償金,従業員引き抜きの不法行為による損害賠償金などの支払を求める訴訟」新潟地方裁判所新発田支部に提起、一方、反訴被告は、著作権に基づく「差止請求権が存在しないことを求める債務不存在確認請求訴訟」東京地裁に提起する、という泥沼の展開となってしまったのである*3

本件訴訟で反訴原告が問題にしている行為は、大きく2つに分けられ、1つは「平成29年6月1日以前に反訴原告が制作した標章やピクトグラムを反訴被告がそのまま使用していること」、もう1つは、「平成29年6月1日以降に、反訴被告が新たに作成した標章やピクトグラム(反訴原告はこれらが平成29年6月1日以前に自らが制作した標章、ピクトグラムと類似していると主張している)を使用していること」である。

そこで、以下、それぞれについて、裁判所がどのような認定判断を行ったのかを見ていくことにしたい。

反訴原告・反訴被告間の契約解釈について

「反訴原告・反訴被告間の「蜜月」関係が崩れた後も、反訴原告が制作した標章やピクトグラムを反訴被告が無償で利用できるか?」という争点に関し、両当事者は極めて対照的な主張を行っている。

<反訴原告の主張>
「反訴原告と反訴被告の間には,反訴原告が反訴被告から直営店,フランチャイズ店の店舗デザイン設計監理業務の委託を止めることを停止条件として,反訴被告が反訴原告に対して標章やピクトグラムの制作料,使用料を支払う旨の合意が存在していた。この合意は,反訴原告が反訴被告から直営店及びフランチャイズ店の店舗デザイン設計監理業務の委託を受ける限り,反訴原告は反訴被告に対して上記各標章,ピクトグラムの使用を無償で許諾し,これらの制作料,使用料を請求しないという合意,反訴被告が反訴原告に直営店及びフランチャイズ店の店舗デザイン設計監理業務の委託を止めた場合には,反訴原告の反訴被告に対する上記各標章,ピクトグラムの無償使用許諾は終了し,反訴被告が反訴原告にそれらの制作料,使用料を支払うという合意を内容としている」(7頁)

<反訴被告の主張>
「反訴原告と反訴被告の間では,反訴原告が作成したロゴ及びピクトグラムの制作料及び使用料等は「店舗デザイン設計一式」などの名目の料金に含まれており,その支払がされた後は,当該ロゴ及びピクトグラムについて反訴被告が包括的に使用することを認める旨の合意がなされていた」(8頁)

本判決の中には、直営1号店の「看板・店舗デザイン料 一式」として支払われた50万円を皮切りに、各店舗の開設、改装の都度、支払われたデザイン料の金額が次々と登場してくる。

相場的にそれが高いのか?それとも安いのか?と問われると何とも言えないところはあるのだが*4、元々報酬額の決め方も含めて、原告・被告間の”信頼関係”に全てが委ねられていたのは間違いないように思われ、それゆえ、前記の反訴原告、反訴被告双方の主張のコアとなる部分に関しても、その内容が記載された書面は存在しない、という状況になっていた(23頁)。

そのため、裁判所は、さらに踏み込んで、当事者間の契約内容を「反訴原告と反訴被告の取引その他の状況」から認定することになったのだが、それによって導き出された回答が、以下のくだりである。

「反訴原告は,前記(略)のような紛争が生じるまで,反訴被告に対して一貫して反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムの使用料を請求することはなかった。また,基本的にそれらの制作料を書面で請求することはなかった。かえって,反訴原告が,ピクトグラムの制作料を書面で請求した場合には,反訴被告は,明示的にその支払を拒んだ。そして,前記(略)のとおり,そのような支払の拒絶があった後も,反訴原告は新たにピクトグラムを作成し,反訴被告に納品し使用料等の請求をすることはなかった。反訴原告は,口頭で制作料の請求をしたことがあった旨も主張するが,仮にそのような事実があったとしても,反訴原告は反訴被告に対し,前記 のとおり,長年にわたり,「デザイン料」などを多数回請求してその支払を受け,また,店舗のデザイン料についての交渉等をして反訴原告の希望に沿った値上げがされたこともあったにもかかわらず,上記のとおり,使用料を請求せず,書面による制作料の請求を基本的にしなかった。」
「これによれば,反訴原告と反訴被告間では,反訴被告は,反訴原告標章や反訴原告ピクトグラムを別途制作料や使用料を支払わずにこれらを使用し続けることができることを前提としていたとみるのが相当である。したがって,反訴原告と反訴被告間では,反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムを,別途制作料,使用料を支払わずに使用し続けることができる旨の合意があったと認めることが相当である。」(24頁)

かつては、大阪市が制作を委託したピクトグラムの「契約期間満了後」の使用権限の有無に関して、大阪地裁が(現場の実務者の視点で見ると)極めてエキサイティングな契約解釈を行った事例があったが*5、それに比べると、上記のような契約解釈の方が自分にはしっくりくる。

もちろん、デザイナー側の視点でみれば、「未来永劫包括的に利用できる」と記載された書面が存在しないにもかかわらず、反訴被告による無償での継続使用を認めるなどけしからん、という感想が出てきても不思議ではないのだが、ここは、そもそも、次の論点にも関連する本件での標章やピクトグラムの”独創性”の乏しさが、多少なりとも判断に影響したところはあったのかもしれないな、と個人的には思っているところである。

著作権侵害の成否について

さて、反訴原告・反訴被告間の契約内容を前記のように解する、となれば、あとに残るのは、反訴原告との契約打ち切り後に反訴被告が自ら制作したピクトグラム等を、反訴原告が著作権を根拠に止められるか、という論点だけ。

この点に関しては、残念ながら、最高裁HPにアップされている判決文の「別紙」が省略されているため、具体的にどのような標章、ピクトグラムが比較され、争われたかは、各自で想像するほかない。

ただ、

「反訴被告標章1と反訴原告標章1が同一性を有する部分についてみると,これらは,深緑色の長方形(横長)の中に白いアルファベット文字が配置されていること,そのアルファベット文字の書体,大きさ,文字間の間隔及び配置のバランス,全ての文字が円の構成要素とされていること,「OFF」と「USE」のアルファベット文字の上部に三つの白丸で弧を描くような装飾が施されていることなどで共通している。」
アルファベット文字について著作物性を肯定するためには,その文字自体が鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。反訴被告標章1と反訴原告標章1のアルファベット文字が反訴被告の店舗で使用等をするために様々な工夫を凝らしたものであることは反訴原告が主張するとおりであるとしても,それらの工夫による反訴被告標章1と反訴原告標章1のアルファベット文字は,いずれも「オフハウス」という名称をよりよく周知,伝達するという実用的な機能を有するものであることを離れて,それらが鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えるに至っているとは認められない。また,その余の共通点については,いずれもアイデアが共通するにとどまるというべきであり,仮にアイデアの組合せを新たな表現として評価する余地があるとしても,それらはありふれたものであるといわざるを得ないから創作性は認められない。」
「したがって,反訴原告標章1と反訴被告標章1は,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから,仮に反訴原告標章1が著作物であるとしても,反訴被告標章1を作成等する行為は反訴原告の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。」(29~30頁)

「反訴被告ピクトグラムの作成,使用等により反訴原告ピクトグラムについての反訴原告の著作権が侵害されるか否かを検討するため,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムが同一性を有する部分についてみると,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムは,いずれも,反訴被告で取り扱う商品である具体的な工業製品の外観を示した図といえるものである。そして,これらは,Tシャツの前部中央に表示された表現が異なる反訴原告ピクトグラム4-01ないし4-03及び反訴被告ピクトグラム4-01ないし4-03を除く全てについて,具体的な形状が異なる製品を選択してこれを表現したものである。したがって,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムは,基本的に,同じジャンルの製品を選択してその外観を表している点において共通するにとどまるといえるものである。また,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムにおいて,選択された製品の配置の角度,複数の製品の種類の選択,レイアウトにおいて共通するものはあるが,これらは,いずれも,アイデアであるか同種の表現を行うに当たり通常考え得るありふれた表現といえるものであり,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムが創作性のある部分において共通するとはいえない。また,反訴原告ピクトグラム4-01ないし4-03及び反訴被告ピクトグラム4-01ないし4-03におけるTシャツの形状は概ね同じであるが,これらは極めてありふれたTシャツの形状であり,その形状についての表現に創作性があるとは認められない。」
「これらを考慮すると,反訴原告ピクトグラムと反訴被告ピクトグラムは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないから,仮に反訴原告ピクトグラムの全部又はその一部が著作物であるとしても,反訴被告ピクトグラムを作成等する行為は反訴原告の複製権又は翻案権を侵害するものではない。」(30~31頁)

といった本判決の説示を読む限り、侵害を否定した結論に自分が違和感を抱くことはなかった。

反訴被告代表者に、第1号店の企画段階から店のコンセプト等を聞かされ、それを具現化するために標章(ロゴ)やピクトグラムを作ってきた反訴原告にしてみれば、いかにデザインがシンプルでも、それに込められたデザイナーとしての思いや、そこにたどり着くまでの労力は、どれだけ強調してもしきれないくらいのものが、おそらくあるのだろうと思う。

しかし、そういったものが「著作権法」の世界で法的に評価されるかどうかは、全く別の話になってくるわけで・・・。


この判決の結果だけ見れば、「著作権で保護を受けるのが難しい以上、反訴原告(デザイン会社)としては、最初に引き受けた時から、『契約』の中に、契約が終了しても対価をもらい続けられるような条件を入れておくべきだった」という総括はできるのだろうけど、自分は、後付けで「平成4年の時点でそこまでしておくべきだった」とまで言ってしまうのはどうかな、と思うし、反訴原告と反訴被告がそんなに細かい決め事までしなくても25年近くカウンターパートとしてやってこれた、というところに日本的な美しさを感じる。

そして、だからこそ、こじれた末のこの帰結が、(当不当は別として)反訴原告にとっては実に〝気の毒”だな、と思わずにはいられないのである。

*1:https://twitter.com/fukuikensaku/status/1135755523725250561

*2:民事第46部・柴田義明裁判長、 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/700/088700_hanrei.pdf

*3:後者に関しては、反訴原告(デザイン会社)から本件反訴請求が出たことにより、反訴請求の判決段階では既に取り下げられている。

*4:最初見た時は、こんなに安いの?という印象を抱いたのだが、一店舗ごとの金額はそうだったとしても、新規出店のたびに・・・ということまで考えると、また違う見方もできるかな、ということで。裁判所も「反訴原告は相当の額に及ぶ売上げを得ていたことが優に認められ,反訴原告は,反訴被告の直営店,フランチャイズ店に関するデザイン設計料に関する契約に基づき,相当の利益を享受した」(26頁)と判断し、後述する契約解釈の一つの裏付け材料として用いている。

*5:もって他山の石とせよ〜著作権利用許諾をめぐる落とし穴 - 企業法務戦士の雑感参照。