返り咲く勇気。

以前、このブログで書いた4月の日産の臨時株主総会実況のエントリー*1に関連して、大杉謙一先生が「決して株主総会は死んでいないのだ。」という名言を残されたのはまだ記憶に新しいところだが*2、再びそれを地で行くような劇的な”逆転劇”が生まれた。

もちろん、今日の時点ではほとんどの読者がご存じであろう、LIXILグループ株主総会の話である。

LIXILグループは25日夜、都内で記者会見を開き、瀬戸欣哉氏の最高経営責任者(CEO)への復帰を発表した。同日の株主総会では株主側が提案した取締役候補8人全員の選任が可決され、全取締役14人の過半数を確保した。会社側が提案した候補のうち2人は否決される異例の事態となった。経営トップの混乱をめぐり約8カ月間続いた問題が収束する。」(日本経済新聞2019年6月26日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

翌日の朝刊では、「LIXIL瀬戸氏、薄氷のCEO復帰」という見出しとともに、以下のとおり、賛成比率が50%台にとどまっていることが紹介されている。

LIXILグループが25日に開いた株主総会で、取締役に再任され最高経営責任者(CEO)に復帰した瀬戸欣哉氏に対する賛成比率が53.7%だったことが分かった。取締役選任には投票した株主の過半数の賛成票を得ることが必要で、これをわずかに上回った。瀬戸氏ら株主側が提案していたほかの候補者の賛成比率も軒並み5割強と薄氷の可決だった。」(日本経済新聞2019年6月27日付朝刊・第16面)

だが、それでも勝ちは勝ち*3
会社側が提案した取締役のうち2名が50%の賛成票を得られなかった(逆に瀬戸氏側が推した候補は全員信任された)ことで、取締役会メンバーの過半数を制し*4、取締役会でも波乱なくCEOに選任された、というのだから、文句なしの復活劇だと言えるだろう。

自分が、このブログでこのテーマに触れたのは2か月以上前のことだったが*5、あの頃は、経緯も含めていろんな意味で興味深い話だな、と思いつつ、最後は会社側が押し切るだろうな、という思いを漠然と抱いていた。

総会直前になって、議決権行使助言会社が形式的基準を重視して、会社側に有利な意見を出した時にもなおさらそう感じた*6
それが、蓋を開けてみたらひっくり返るのだから、世の中ってわからないものだ。

自分は実に気弱な人間なので、今回の瀬戸氏のようなシチュエーション(会社側が述べていた解任理由を争い、逆に現経営陣の経営方針やガバナンスを批判しているような状況)に立たされると、「復帰を果たした後に結果が伴わなかったらどうしよう?」ということがどうしても頭をよぎってしまうし、それゆえに戦う上での温度感も、どうしても下がってしまうところはある。

だから、いかに海外ファンドやINAX創業家一族といった援軍がバックにいたとしても(そして直前まで「取締役」という立場で経営に関与していた、という点での優位性はあったとしても)、正面から株主総会で戦いを挑んで「復帰」を勝ち取る、という瀬戸氏のプロ経営者としての胆力と勇気には、ただただ感嘆の声を上げるしかないのであるが・・・。


瀬戸氏は、雑誌の取材に対し、自らの経営者としての信念を貫くために会社と戦っている、という趣旨の話をされている。

「なぜ私が今回、個人としてここまで会社と戦っているのか。それはこれまで、LIXILグループで働く皆さんに、「Do The Right Thing(正しいことをしよう)」と言ってきたのに、今回の問題を見過ごしたら、言ってきたことがウソになるからだ。」
「経営は、全ての選択肢の中から一番いいものを選んで初めて、それなりの結果が出る。日本的な忖度の問題は、選択肢を限定する制約条件を作ってしまうことだ。特に、経営の一線から離れた昔の実力者が権力を握っている場合は、今の現場を知らないから良い結果を出せる蓋然性が少ない。」
「失敗しても自分で立て直せるのならいいが、取り巻きの人間が忖度して「うまくいっています」と報告する状況では、軌道修正が遅れる。実際、ペルマスティリーザの場合もそうだった。」
日経ビジネスWeb「LIXIL 潮田氏 vs 瀬戸氏 確執の源流」より)*7

これは本当にそのとおりで、創業家の実力者がいる会社だろうがそうでなかろうが、今の時代の企業にとっては、瀬戸氏が言うところの「日本的な忖度」文化に浸って良いことなど何一つない、と自分も思う。

ここまで言って、復帰した後、自分の判断で結果が出なければ、今度は責任を一身に背負って退くしかないし、今回の一件もあったことの反動を考えると、その際の風圧は通常の「引責辞任」時の比ではないだろう。

それでも、信念を貫くために、チャンスある限り戦いを挑むのが企業経営の「プロ」なのだとしたら、弱気になっている場合ではない。
そして、ポストの大きさ、小ささとか、「復帰」までにどれだけの時間を要するのか、といった問題はともかくとして、歪んでいく組織、液状化していく組織をいつか自分の手で正したい、という志だけはいつまでも持ち続けていたい、と思うのである。

「法務」は、企業経営の「核」となるべき機能だし、法務のマネジメントを担う者は、まさに経営のプロフェッショナルでなければならないのだから。

*1:日産自動車臨時株主総会に出席して~「カルロス・ゴーン時代」の終焉とその先にあるもの。 - 企業法務戦士の雑感

*2:https://twitter.com/osugi1967/status/1115767314073284609

*3:しかも、信任された14名のうち、賛成比率の順番としては6番目に位置するのだから、「薄氷」というのはちょっと失礼かもしれない。

*4:仮に全員が50%以上の賛成を得ていたとしても、キャスティングボートを握っていた共通候補の鬼丸かおる氏、鈴木輝夫氏が瀬戸氏側に付いた可能性は高いので、結果は同じだったかもしれないが、株主の意思がより明確に示された、という点では今回のような形の方が良かったのだろう。信任されなかった当事者の方々にとっては、気の毒以外の何物でもない話ではあるのだが。

*5:地位を追われた者と、追った者と、その間にある執念と。 - 企業法務戦士の雑感

*6:このエピソードは「社外取締役」というものの意義を、改めて考えさせるものになったように思う。

*7:リンクは、https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00133/?P=5&mds

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