世界中で猫を売るのは楽じゃない。~サンリオEU競争法違反報道に接して

ハローキティ」といえば、説明不要の「日本史上最強キャラクター」である。

中国、韓国の有名ブランドのショップはあっても、「日本」ブランドは、小売店にしても飲食店にしても、影も形もない、という国は世界中に数多あるのだが*1、そんな国でも、トヨタの自動車とキティのグッズだけは必ず街中のどこかで見かける、といっても過言ではない*2

いい歳になっても未だにふらりと思い立って個人旅行に出る者にしてみれば、香港、台湾や東南アジアはもちろん、中央アジアとか、「絶対いないだろう」と思うような西アフリカの先端でも見慣れた猫に偶然遭遇する(正規品かどうかは関知するところではないが・・・)、というのは結構嬉しいエピソードなわけで、日本国内にいる時は決して関心を示さないキャラクターの写真を思わず取りまくってしまったりもする。

自分もかつて少し経験したことがあるのだが、「ライセンスビジネス」、特にキャラクターのライセンスビジネス、というのは契約一本でお金がもらえる簡単な商売のように見えてかなり奥が深い。

デザインにしても使用する物品にしても、元々キャラクターが備えている世界観との関係でどこまでが許容されるか、という話は必ず出てくるし、文字情報を付加するときは、その中身も含めてきちんとチェックする、というのが原則だったりする。

細かいところはある程度ライセンシーに委ねるとしても、その前提となる信頼関係の存在は当然不可欠だし、契約にも相当細かくいろんなことを書きこんでおかないと、ちょっとした紛争はすぐ湧いて出る。

国内でもそうなのだから、海外になると、当然もっとハードルは高くなるわけで、引き合いがあって渋々ライセンスに応じる場合でも、使用言語から販売地域まで事細かに制限をかけることになるし、それでもライセンシーの信用リスクだのなんだの、ということで契約に至らないケースがほとんどだったから*3、いかにそれが本業とはいえ、「キティ」の海外ライセンスをあそこまで華やかにやっている、というのはすごいものだな*4、といつも感心してみていたものだった。

だが、そんな中、今朝の朝刊に掲載された記事がある。

欧州連合EU)の欧州委員会は9日、EUの競争法に違反したとして「ハローキティ」製品などを手掛けるサンリオに620万ユーロ(約7億5千万円)の制裁金を科すと発表した。販売事業者にライセンス商品をEU内の他の国で売るのを禁じていたことが競争法違反にあたるという。」(日本経済新聞2019年7月10日付朝刊・第12面)

欧州委員会のプレスリリースはこちら。
europa.eu

この案件は既に2年前に、欧州委員会がナイキやユニバーサルスタジオとともに調査を開始した、というリリースを公表しており*5、このうち、ナイキに対しては、本年3月25日に1,250万ユーロの制裁金を課す旨のリリースも既に出されていた*6

お馴染みのVestager委員の名前でわざわざ商品名を列挙しながら以下のようにコメントされているとおり、「EU単一市場」というのは、彼女(彼)らがもっとも重視している価値の一つで、今やデジタル取引の世界にもがっつりと影響力を発揮している思想だ、というのが自分の認識。

"Today's decision confirms that traders who sell licensed products cannot be prevented from selling products in a different country. This leads to less choice and potentially higher prices for consumers and is against EU antitrust rules. Consumers, whether they are buying a Hello Kitty mug or a Chococat toy, can now take full advantage of one of the main benefits of the Single Market: the ability to shop around Europe for the best deals."(強調筆者)

それゆえ、リリースの中で列挙されている、

ライセンシーに対する直接的な地域外販売規制(a number of direct measures restricting out-of-territory sales by licensees)
(例として、clauses explicitly prohibiting these sales, obligations to refer orders for out-of-territory sales to Sanrio and limitations to the languages used on the merchandising products.)

はもちろんのこと、

ライセンシーに対する間接的な地域外販売制限遵守奨励策 (indirect way to encourage compliance with the out-of-territory restrictions)
(これらには、carrying out audits and the non-renewal of contracts if licensees did not respect the out-of-territory restrictionsも含まれる、とされている)

という点も含めて、明確にNGを突きつけてきた、というのは建前としてはよく分かる。

しかし、そうなると、前の方で書いたきめ細やかなライセンスの際の配慮はどうなるのだ・・・?ということになるわけで、いかに同じEU加盟国だからといっても、ロンドンの街中で闘牛やってるスペイン語表記のキティグッズが売られていたら何となく興醒めだし、ましてや、それがクロアチア語バージョンのグッズだったら?*7とか考えていくと、それぞれの国・地域に合わせたベストな商品を流通させてほしい、というライセンサーの思いは無に帰すことになる。

商品を選ぶのはそれぞれの国の消費者(需要者)だ、ということを考えると、少なくともリアル店舗での販売に関しては、契約上販売地域制限が付されていなくても、言語やキャラクターの使用態様等に応じた最適市場の棲み分けは当然なされるだろうし、それをライセンサーが強制するのではなくライセンシーに選択させる、というのが競争法が目指しているところなのだろうから、今回の処分も仕方ないことだと思う。

ただ、「ライセンサー」側の視点で見ると、今回のサンリオも、決してEU域内で市場を分割して価格維持等を図るために11年間上記のような契約条件を付していたわけではなく、自分たちの最大の商品である「キティ」のブランド価値を守るために事細かな条件を付していただけではないのかな、と思うだけに、約7億5000万円もの制裁金を課されてしまった、ということには、少々同情せざるを得ない*8

Brexitの例を引くまでもなく、理念の上では「一つ」、でも実際には多様な人種、民族、言語で成り立つ国・地域の集合体、というEUの現実が、こういう場面では「アウトサイダー」の事業者にややこしい問題を突き付けてくるのだけど、それも含めて学ぶべきこと、そして他山の石とすべきことは多いな、ということで。

■ 同日追記

EU競争法の解説は、プロフェッショナルな先生方にお任せするとして、自分の関心は、↓の方向に向いている。

ここでいう「戦略」のエッセンスは、インタビュー記事等にも出てくるが*9、今改めて見ると「オープンイノベーション」の走りだったな、と思うところもあり、一方で、今回EU競争当局が認定したような細かいライセンス条件はきっちり入れていた、というところに、同社のライセンス戦略の巧みさを改めて感じたところである。

*1:理由は単純で、「日本のサービス事業者がリスクを取らないから」という一言に尽きる。本当にこれだけは何とかしないといけないと思っている。

*2:他に、国によっては「ドラえもん」とか「ドラゴンボール(悟空)」に会えたりもするのだが、ほぼもれなく、という点ではやはり「キティ」がダントツである。

*3:そうでなくても浮き沈みが激しくて一瞬で在庫が積みあがる業態である上に、大体この種のグッズを販売するような会社は中小規模の会社が多いのでなおさら「とりっぱぐれ」に神経を使うことになる。

*4:そして「ミッフィーとの戦い」の中でも発揮されたように、サンリオのブランド戦略は実に巧い(巧妙なブランド戦略。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~)。数多くのキャラクターを抱える日本企業の中でも頭一つ抜け出している背景には、そういった企業文化もあるような気がする。

*5:公取委のHPにも要旨が掲載されている。https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/eu/2017eu/201708eu.html

*6:欧州委員会のリリースはEuropean Commission - PRESS RELEASES - Press release - Antitrust: Commission fines Nike €12.5 million for restricting cross-border sales of merchandising products

*7:それはそれで貴重だからよいという考え方もあるのだけど。

*8:調査協力により40%の減額を受けられた、というのがせめてもの救い、というべきか。ただ、2019年3月期決算短信によると、同社の欧州エリアでのライセンスロイヤリティは17億円程度、利益も出ていない、という状況だけに、この制裁金額は結構痛いはず。

*9:https://www.nippon.com/ja/currents/d00148/など参照。