公取委の「注意」報道をめぐるモヤモヤ感。

水曜日の夜くらいから飛び交い始めた公正取引委員会が元SMAPメンバーの起用妨害に関してジャニーズ事務所を注意」というニュース。

元々「SMAP」をめぐっては、2016年の「屈辱会見」から「解散報道」を経て、「事務所vs三人衆(+残った一人)」のきな臭い話が、嘘かまことか分からない状況の中飛び交っていたし、事務所を離れて以降も決して派手とは言えない活動を地道に続けていた三人衆への共感は、ネット上でも思いのほか強かったから、各Webニュース媒体にしてもSNSにしても、ここぞとばかりに「ジャニーズ事務所ひどい!」という見出しやコメントであふれかえることになった*1

一方、個人的には、最近の公取委の動きに関しては???と思うところが多く、ちょうどその日の朝刊の記事にもツッコミを入れたところだったこともあって*2、一報を聞いたときに浮かんだ心に浮かんだのは、「また公取委飛ばしたのか?」「誰が何の目的でリークしたのか?」といった、モヤモヤした感想。

そして、一晩明け、みんな冷静になってきたかな?という時に、各メディアで流れてきた報道等に接し、よりモヤモヤ感は強まった。
例えば以下の記事。

公正取引委員会ジャニーズ事務所(東京・港)を注意したことが明らかになった。「退所したSMAP元メンバー3人の番組起用を妨げるような働きかけがあった場合」は独占禁止法違反につながる恐れがあるという内容だ。調査の結果、同法違反を認定するだけの証拠は得られなかったが、3人のテレビ出演が激減する現状を踏まえて警鐘を鳴らした。」
(中略)
独禁法に基づく措置は3段階ある。違反を認定した場合には再発防止を求める行政処分として排除措置命令を出す。違反の認定に至らなくても違反の恐れがあれば、取りやめを求めて「警告」を発する。ジャニーズ事務所の受けた「注意」はさらに弱い措置で「違反につながる恐れがあるケース」が対象になる。
公取委は1950~60年代にも松竹、東宝東映など大手の映画製作・配給会社6社が他社の俳優らの出演作品を自社系列の映画館で上映しないとの協定を結んだとして問題視した。協定は「スター俳優」の囲い込みが狙いだった。一部の会社が協定を脱退、他社も制限条項を削除したことなどから不問とされた。」
「今回公取委が芸能界の問題に取り組んだ背景には、2018年に公取委有識者会議が出した報告書がある。報告書は多様な働き方を踏まえてフリーランスや芸能人、スポーツ選手も独禁法の保護対象になり得るとし、「不当な取引慣行は独禁法の禁じる『優越的地位の乱用』に当たる可能性がある」と指摘した。」
(以下略)(日本経済新聞2019年7月18日付夕刊・第10面、強調筆者、以下同じ。)

この日経の記事、前日までの各社(日経紙自身も含め)のインパクトのある記事を打ち消すかのように、見出しには「独禁法違反は認められず」と入れたり、「同法違反を認定するだけの証拠は得られなかった」ということを明確に書いていたりするのだが、気になったのは「注意」の内容を、「退所したSMAP元メンバー3人の番組起用を妨げるような働きかけがあった場合」は独占禁止法違反につながる恐れがある」というものだった、と紹介しているところ。

役所とやり取りしたことのある実務者の感覚として、(処分にこそ当たらないとはいえ)処分庁が「注意」という形で外に向けて何かを出すのであれば、最低限、そのきっかけとなる事実の摘示くらいはするはずで、こんな一般論だけで「注意」ということはないだろう、というのが最初のモヤモヤポイントである。

実際、公取委のWebサイトのQ&A*3でも、

Q27 排除措置命令ではどのようなことが命じられるのですか。法的措置ではない警告や注意とはどのようなものですか。
A.排除措置命令では,例えば,価格カルテルの場合には,価格引上げ等の決定の破棄とその周知,再発防止のための対策(例えば,独占禁止法遵守のための行動指針の作成,営業担当者に対する研修)などを命じます。
 また,排除措置命令等の法的措置を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反するおそれがある行為があるときは,関係事業者等に対して「警告」を行い,その行為を取りやめること等を指示しています。
 さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが,違反につながるおそれがある行為がみられたときには,未然防止を図る観点から「注意」を行っています

と「違反につながるおそれがある行為がみられた」かどうかがポイントになる、ということが明確に書かれているし、当ブログの過去記事*4何とも微妙な公取委の「注意」 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~)で取り上げた数少ない「注意」の公表事例*5でも、被注意者が「電気料金の引き上げ要請」という具体的な行為を行っていた事実が明確に記載されている。

なので、今回も公取委ジャニーズ事務所に対して正式に「注意」をしたのだとすれば「何らかの行為」があったことは認定しているはずだし、リークを受けたのであれば、そこまで含めて聞いていても不思議ではないはずなのだが、なぜそれが記事の中で書かれていないだろうか・・・?

個人的には、それが違反とされるほどの「圧力」だったかどうか(加えて違反認定に至るまでには、後述する行為者の市場シェア等の要件もクリアする必要がある)、という点はともかくとして、ジャニーズ事務所側からテレビ局等に対して何らかのアプローチを行ったかどうか、というのは、「違反につながる恐れ」があるかどうかを判断する上でのもっとも重要な要素だと思っている。

したがって、(まさかそんなことはないと思うが)認定できたのが「三人衆のテレビ出演機会が激減した」等の情況証拠だけで、事務所からテレビ局等に何らかのアプローチを行った事実すら関係者の聞き取りからは認定できなかった、というのであれば、そもそも「注意」するのもおかしな話、ということになる。

本来なら公表されるべきではないものがリークされ、ここまで広く報じるのであれば、肝心のところをぼかさずにきちんと書くべきだろう、というのが、ここで申し上げたかったこと。

そして、もう一つのモヤモヤポイントは、上記引用記事の後半の、独禁法上の違反類型に関する説明のくだりである。

この記事に限らず、平成30年2月15日付の公正取引委員会競争政策研究センター名で出された「人材と競争政策に関する検討会報告書」*6を引き合いに出して今回の件を報じているメディアは多い。

この報告書自体は、それまで競争法の文脈ではあまり論じられていなかった「人材獲得競争」や「(個人として)働く者と発注者の間の関係」に関して、わが国の独禁法の規律をどのように及ぼすべきか、ということを網羅的に検討したもので、今後様々な場面であてはめていく際の考え方のベースとしては資料価値が高いものだと思うのだが、問題は、記事の中でのその取り上げ方で、同じ芸能界、芸能人の話だからと言って、映画製作会社間の引き抜き防止協定の話(典型的な共同行為型類型)とか、「優越的地位の乱用」といったフレーズを持ち出すのは、かなりピント外れなのではないかと思う。

また、そもそも今回問題にされているのは、一芸能事務所が単独で行った(と思われる)行為、かつ、芸能事務所が取引相手であるテレビ局間のやり取りによって、自らの事務所に所属するタレントと競争関係にある元所属タレントを排除させる行為だと思われる。

そうだとすると、そもそも上記報告書の中では論じられていない類型の行為、ということになってくる*7

もちろん、応用して考えるなら、当事者を置き換えて、「芸能事務所が、不当に、相手方(テレビ局)が競争者(脱退三人衆)と取引しないことを条件として当該相手方(テレビ局)と取引し、競争者(三人衆)の取引の機会を減少させるおそれがある」(排他条件付取引、一般指定11項)という問題だ、と整理することはできるのだが、この筋で独禁法違反を認定するためには、少なくとも排他条件を課す側が市場で一定以上のシェアを占めている、ということは前提になるだろうし、それを考えるためにどのような「市場」を画定するのか*8、ということも(本当に弊害が生じるおそれがあるのかどうか、という点とも合わせて)慎重に検討する必要がある。

おそらく各メディアは、多くの読者が「ジャニーズ事務所」に対して抱くイメージをそのまま反映した「優越的地位の濫用」というキャッチ―な(かつ、それっぽい)フレーズに飛びついたのだろうけど、そこはあまり無理をしない方が良かったんじゃないかな、と思った次第で・・・。


ということで、今回の「注意」や、それをめぐる一連の報道に対しては、かなりネガティブなトーンの記事になってしまったが、理不尽なことの多い世の中で、あの「3人」が多くの人々の支持と共感を集める理由もよく分かるし、筆者自身、人生それなりにいろいろ経験している最中だったりもするので、それまでの好き嫌いを超えて*9、「飛び出した」3人の地道な活動に日々励まされている、ということは、一応フォローとして書き残しておくことにしたい。

*1:この背景には、先週のジャニー喜多川氏の訃報の各一般メディアでの取り上げられ方が「美談一色」だったことに釈然としない感情のマグマがたまっていた、ということもあるのだろう。故人の実績は実績として存在するわけだし、何ら公式に立証されていないゴシップ的な話をわざわざ人の死に際に取り上げる必要もないだろうから、自分はあれはあれでよいと思っているのだが・・・。

*2:「独禁法」適用領域の拡大はまだまだ止まらないのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~。ちなみに、これも「ジャニーズ」同様、何ら公表資料は存在しない「リーク」記事である。

*3:https://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa.html#cmsQ27参照。

*4:おかげさまで、と言うべきか、今回の一件でこの記事へのアクセス件数が急増している・・・。

*5:元記事のリンク先は切れてしまっているので改めてリンクすると、公取委のリリースはhttps://www.jftc.go.jp/houdou/merumaga/backnumber/2012/20120626_files/12062201.pdfとなる。

*6:https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf

*7:上記報告書では22頁以降で「第6 単独行為に対する独占禁止法の適用」について分析検討されているのだが、そこに出てくるのは発注者・役務提供者間の排他・拘束条件付取引で発注者の競争事業者を排除する、というパターンや、発注者が優越的地位を濫用して役務提供者に過大な不利益を課す、といったパターンであって、今回のようなケースについては正面から論じられていないように思われる。

*8:元々芸能人の活躍の場は「テレビ」だけではないし、仮に「テレビ」に絞ったとしても、あらゆるテレビ番組出演者の中でジャニーズ事務所のタレントが占めるシェアなど、たかが知れているのではないか、という気がする。これを「ゴールデンタイム・プライムタイムのテレビ番組に出演するアイドル的な男性タレントの市場」とでも画定すれば多少は説得力が出てくるのかもしれないが、そもそもそんな狭い市場での競争を守るために公取委のリソースを使うのが適切なのか、という問題は当然出てきそうである。

*9:正直、元々SMAPがそんなに好きではなかったこともあり、2016年末の時点では「どうでもいいじゃん」という感じで、当時のエントリーにもそれが如実に現れている(https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/20161229/1483345697の最後の方)のだが、自分自身似たような目にあって「面白い人生」を歩んでしまっているものだから、今読み返すと何とも言えない気分になる・・・。