日本時間では土曜日の早朝、現地時間では7月19日夜、サッカーの「2019 Africa Cup of Nations」(アフリカ選手権)の決勝戦が行われた。
どこの大陸でも行われているこの種の大会だが、ずっと日本に住んでいるとアジアカップ以外に目を向けるのは、メディアがもてはやす「UEFA欧州選手権(ユーロ)」くらい。今年に関しては、日本代表が招待されたこともあって、南米選手権(コパ・アメリカ)にも少し注目が集まったようだが、それと平行して(しかも参加国が多いため、それよりもずっと長い期間)行われていたアフリカ大陸の大会に目を向けていた日本在住者はほとんどいなかったのではないだろうか。
自分も、たまたま現地を訪れた時にこの大会が開幕し、訪問先で開幕戦からテレビ観戦できる、というめぐり合わせがなければ、たぶん全く関心を抱かないまま1か月を過ごしていたはず。
だが、この偶然は、思いのほか幸運だった。
まず一番のラッキーは、W杯でも日本代表との親善試合でもおそらくお目にかかれないようなマイナー国の代表の試合ぶりが見られたこと。
この大会の本戦に出場できるのは、予選を勝ち抜いた24チーム(CAFの加盟チームは56チーム)だけなのだが、元々W杯には「5か国」しか出られない大陸だけに、大陸レベルの大会となると見慣れないユニフォームのチームがたくさん出てくることになる。
自分が現地に滞在していた間に試合を見たチームの中にも、開幕戦で地元エジプトと激突したジンバブエに始まり、ウガンダ、ブルンジ、ギニア、マダガスカル、ナミビア、タンザニアと、W杯出場経験がない国が次々登場・・・。
ジンバブエに関しては、ARIPO(アフリカ広域知的財産機関)の本部が置かれていたり、時々国際会議で出かけていく人がいたりした関係で、地理的なところも含めて知ってはいたし、サッカーの世界でも、2010年の南アフリカ大会前に急遽当時の日本代表の練習試合の相手になり、サムライブルーを”覚醒”させた*1、というエピソードがあったことをかろうじて思い出すことができるくらいの記憶はあったのだが、それ以外の国に関しては、「そもそもどこにあるんだっけ?」というレベル。
それを対戦カードに合わせて、地理・歴史から代表チームの過去の戦績まで、いろいろと調べながら見ているものだから、そのうち、何となく愛着がわいてくる。
そしてまた、彼らが結構いい感じで善戦するのだ。
アフリカの人々に共通する性格なのか、それとも、高温の中、長期間戦うということで有力チームほど力を温存する傾向があったからなのか、は分からないけど、FIFAランキングでも過去の戦績でも圧倒的に差があるはずの相手チームがもたつくのを横目に、少なくともスコア上は互角の戦いを演じる*2。
特にエキサイティングだったのは、これまでW杯はおろかこの大会にすら出場したことがなかったマダガスカルが、初戦互角以上の戦いでギニア*3に引き分け、それで勢いに乗ったのか、次のブルンジ戦で勝利、さらにグループリーグ最終戦でナイジェリアまで倒す、という快進撃を遂げたことで、結局、準々決勝でチュニジアに完敗したものの、初出場でベスト8、という素晴らしい結果を残した。
ヨーロッパ域内のリーグや中東のリーグで活躍している選手が多い強豪国*4とは異なり、自国の政治情勢が不安定で、普段はどういう環境でサッカーをしているのか(プロリーグがあるのかどうか)もよく分からない選手たちが、一世一代の舞台で必死に体を投げ出して戦っている姿を見ると、大陸や人種を超えていろいろと感じるところも多かった。
また、続く幸運は、「アフリカのチーム同士の対戦」が見られたこと。
大陸選手権なのだから当然のことなのだが、これがW杯のような全世界レベルの舞台だと、(欧州と南米を除けば)同一大陸のチーム同士で対戦する、という機会はまずないし、アフリカとなると日本で大陸予選の様子が報じられることもまずないので、これはとても新鮮な経験だった。特にサブサハラのチーム同士の対戦は・・・*5。
日本代表が国際大会でアフリカ大陸代表のチームと対戦する時は、決まって相手の「身体能力の高さ」とか「独特のリズム感」とかが強調されるのだが、これが大陸内の戦いとなると、大体ベースの身体能力は同じで、スピードやリズムも共通した者同士の戦いになるわけだから、見ている側としては、何とも不思議な感覚に襲われる。
欧州大陸の最先端のモダンフットボールに比べると、攻守ともにお世辞にもレベルが高いとはいえない*6し、南米のチームほど飛びぬけたテクニックが披露されるわけでもないのだが、逆に言えば、Jリーグが始まった頃の「相手の良さを消さない」打ち合い型のサッカー(とはいえ、「エムボマ選手が11人」いるようなものなので、当時のJリーグに比べるとレベルは数段高い)を久々に見られたような気がして、懐かしい気分になったところはある*7。
そして、最後に、現地にいて良かったな、と思ったのは、かの地の人々のサッカーに対する「熱」を肌身で感じられたこと。
元々、自分が大会期間中に訪れた国は、どこも、街中のちょっとしたカフェやレストラン、ホテルのバー等々でサッカー中継が流れているような環境だったのだが、大陸選手権が始まって以降は常にそれ一色。そして、自国の代表チームの試合となれば、カフェでも空港のラウンジでも、皆テレビの前に殺到し、アプリでタクシーを捕まえようと思ってもなかなか捕まらない・・・。
日本に限らず、欧州でも、街中の普通の環境で、代表チームの試合にそこまで熱を入れて応援している姿、というのをあまり見たことがなかっただけに、これまた実に新鮮で、うらやましい経験だった。
もちろん、開催国エジプトのスタジアムの熱狂(開幕戦でテレビ画面に映ったスタンドは、エジプト代表のチームカラーの「赤一色」だった)に比べれば、まだまだ大したことはなかったのだろうし*8、逆に、治安悪化で日本では渡航自粛要請も出ているような国で自国の代表に声援を送れるような環境がどれだけあったのか、と考えると、複雑な気持ちにはなるのだが、政情が安定していて「中流階級」と言ってよさそうな人々が社会を構成できている国であれば至るところで「熱」を享受できる、というだけでも、やっぱり違うな・・・と。
繰り返しになるが、大陸選手権に出ている各チーム、各試合のレベルが抜群に高い、というわけでは全くなく、もし、日本代表が招待参加するようなことがあれば、グループリーグは間違いなく突破できるだろうし、組み合わせ次第ではトーナメントで上位に行くことも不可能ではないだろう*9。
アルジェリアとセネガルの間で行われた決勝戦も、「オウンゴールに近い形で幸運な先制点を奪ったアルジェリアがセネガルの猛攻に耐え抜いて虎の子の一点を守り切る」という展開で、決して派手なものではない。
ただ、決勝戦前のセネガル国内のSNSの盛り上がりだとか、試合に勝ったアルジェリアの選手たちの喜び具合などを見ていると、アジアカップよりはワングレード上の大会に見えてしまうのも確かなわけで、そこに違いがあるとしたら、社会に根付いたサッカー文化の差異なのかな、と思わずにはいられなかった。
他にも、この大会にかかわるあれこれを見ているだけで、アフリカ大陸へのフランス共和国のかかわりの深さが透けてみえる*10等、いろいろと貴重な発見はあったが、やっぱり、サッカーが世界をつなぐ”共通語”だ、ということを再確認できたのが一番の収穫。
次に体験するとしたら、カリブの島でCONCACAF Gold Cupに出ている代表チームを一緒に応援するとか*11、あるいは各国のプロリーグに目を移して、最近躍進著しい(?)Indian Super Leagueを現地のスタジアムで観戦するとかかな、と思っているところだが、いつかは、すごくマイナーなサブサハラの国で開催されるAfrica Cup of Nationsをちゃんと現地のスタジアムで観戦する、という野望も胸に暖めつつ*12、世界中の蹴球にかける情熱を、追いかけていきたいと思っている。
*1:というか、ベスト16まで勝ち進んだ「あのメンバー」の起用はこのジンバブエ戦で固まった、とされている。
*2:開幕戦からして、圧倒的な地の利があったはずのエジプトは結局1点しか取れなかったし、翌日のナイジェリア・ブルンジ戦では、最後までどちらに転ぶか分からないような試合だった(結局ナイジェリアが1-0で勝利したが)。
*3:W杯本選の出場経験こそないものの、大陸選手権では過去に何度もベスト8までは進んでいるチーム。
*4:特に北部のモロッコやチュニジアには欧州生まれ、欧州育ちの選手も多く、A代表で初めてルーツを持つ「母国」のユニフォームを着た、という選手も多い。
*5:一方のチームがモロッコ、アルジェリア、チュニジアといった北部のチームの場合は、「欧州代表対アフリカ代表」的な試合になるので、展開も含めて何となく見慣れた感はあったのだけど、サブサハラのチーム同士の対戦、となった瞬間に、テレビ越しでも聞こえてくる応援席のブブゼラの音色と合わせて、雰囲気はガラッと変わった。
*6:典型的なのは「守備の甘さ」で、流れに乗って攻め込まれたときはもちろん、コーナーキックやフリーキックの場面でも簡単に相手の得点源となる選手をフリーにしてしまって失点、というパターンは度々あった。
*7:ここ数年、欧州で定着している「寄せの早さ」とか「自由なスペースを与えない戦術」は、それはそれで面白い(スペースを消されかけたところで、僅かな隙間を天才的なプレイヤーが切り裂く、という醍醐味もあるので)のだが、ドリブルにしてもパスにしても、相手にやりたいことをやらせた上で、最後の最後で体を張って止める(どちらかと言えばミスで自滅するパターンの方が多かった気もするけど)、というのも見ている側としてはスリリングで面白いものである。
*8:もっとも、モハメド・サラーという世界的大スターを擁しながら開幕戦は大苦戦。決勝トーナメントでも南アフリカ相手にまさかの1回戦敗退で、懐かしのアギーレ監督が一瞬で解任の憂き目にあってしまったので、本来なら今回の開催地になるはずだったカメルーンを恨んだ関係者も多かったかもしれない。
*9:当然、アフリカ大陸内での開催、ということで、コンディション的には決して恵まれているとはいえないから、大会が進めば進むほど、極東から来たチームにはツライ展開になっていくだろうが・・・・。
*10:放映していたメディアがフランス系のメディアだったのは、自分が滞在したのが仏語圏だったからかな、と最初思っていたのだが、You Tubeに流れていた映像も圧倒的に仏語版のものが多かったし、大会のスポンサーもTOTAL。そもそもベスト4に入ったチームのうち3チームはフランスの旧植民地だった国の代表である。
*11:大会自体の開催地はいつも米国本土なので、わざわざスタジアムに足を運ぶ気にはなれないのだが・・・。
*12:ちなみに、アフリカ選手権は今大会も含めて4大会連続で当初予定の開催地を変更。次回も当初予定されていたコートジボワールに代わり、本来2019年の開催国となるはずだったカメルーンがホスト国になる予定である。Draw for 2021 Africa Cup of Nations released | Total Africa Cup of Nations Egypt 2019 | CAFOnline.com参照。2019大会が終わる前に2021大会の予選の組み分け抽選をするのだから、どれだけこの大陸の人たちは国対抗のサッカーが好きなんだよ・・・と思ってしまう。