「COLD WAR」の衝撃。

最近、日々の時間に余裕を作れるようになったこともあって、移動の機中以外の環境で映画を見る、という贅沢を久しぶりに楽しんでいる。
そして、そんな中、前評判に釣られて観にいった「COLD WAR あの歌、2つの心」がまた凄い映画だった。

style.nikkei.com

自分が最初にこの映画の存在を知ったのは、↑の日経エンタメ面の記事だったのだけど、この批評欄で星4つ以上なら、まず外れはない。
そして、カンヌで監督賞、国際的に高い評価を得て、日本封切後も、おおむねどのレビューサイトでもたくさん星が付いている、となれば、まぁ期待を裏切られることはあるまい、というところではあったのだが・・・
(以下、少々ネタバレあり。)


多くの方々が絶賛しているモノクロ画面の一つ一つのカットの美しさは、ホントにそのとおりなので、改めてコメントすることはしない*1

また、これも随所で絶賛されているとおり、どのシーンでも歌と音楽がとにかく効いている

ピアノを弾く芸術家(男)と歌唱舞踊に生きる女性を中心に物語が回っていくので、当然と言えば当然なのだが、冗長なセリフも、登場人物の置かれている状況の説明もほとんどない中で、伸びやかな民族音楽ラフマニノフの調べに始まって、体制翼賛歌から陽気なジャズ、そして退廃的な香りが漂うジャズアレンジのバラードまで、時代背景や「東西」の世情も取り入れつつ、登場人物の生き方・心情をほぼ「音」だけで表現した、というのは、実に見事だった。

Cold War (Original Motion Picture Soundtrack)

Cold War (Original Motion Picture Soundtrack)

「COLD WAR」という分かりやすいタイトルに加え、公式サイトをはじめとする事前告知や各種評論でも、「東」と「西」に分かれての「引き裂かれた15年の恋」という部分が強調されているせいか、見る前は”すれ違い”系のストーリーを想像していたのだが、実際に観てみると、物理的には、思いのほか「重なっている」場面は多いな、という印象だった*2

逆に言えば、映画の中盤以降でフォーカスされるのは「男女間の心のすれ違い」の方。

そして、その過程で「ジャズ&ソウルミュージック」が重要なファクターとして度々出てくることもあって、観ている最中に自分が連想したのは、あの「LA LA LAND」だった*3のだが、この映画のストーリーを最後まで見届けて感じたのは、「LA LA LAND」は何だかんだいって”ハッピーエンド”だったな、ということで、それくらいこの作品のポーランド人の男女の愛の過程は壮絶なものだった。そして、だからこそ幕が下りた後まで頭の中に張り付くような強烈なインパクトが残ったのだろうな、と思っている*4

まぁ、パリまで来て、既に新しい恋人までいるのに、「やっぱり運命の人はこの人だ」と昔の女性を追いかけ続け、最後は自分の生活を犠牲にしてまで自滅的な行為に走る主人公の男の姿は、男性視点で見ると(程度の差こそあれ)「あるある」だなぁ・・・と思うのだけれど、不思議なことに映画館の中には女性客の方が多かった。

だから、あのストーリーが果たしてどこまで観客の多数派の心を掴めたのか、は、ちょっと疑問だったりもするのだけど、映像と音楽だけでも十分鑑賞に値するし、タイプ的にいつまで待っても決して地上波で放映されることはない、そして、家のテレビやパソコンの画面で視聴するよりは、大きなスクリーンと高性能のスピーカーで鑑賞する方が数段良さが分かる、という点では、老若男女問わず映画館に足を運ぶのがやっぱり正解なわけで、少しでも多くの方に足を運んでいただいて、「余韻」という言葉でまとめるには鮮烈すぎる後味の悪さを存分に味わっていただければ、と思うところである。

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*1:個人的には、1949年から時代が下っていくにつれ、同じモノクロでも現代的な雰囲気になっていく中で、最後に”陰影”へと反転するところの強烈さに何とも言えない気分になった。

*2:この点に関しては、東西冷戦下の欧州を外から眺めていた日本人の中にある一種の”固定観念”が影響したのかもしれない。1950年代のベルリンが壁なしで行き来できたことくらいはさすがに知っていたが、ザグレブ(旧ユーゴスラビア)なら東からでも西からでも行けるとか、そうなんだ…という感じではあった。

*3:そんなこと考えたのは自分くらいかな、と思ったのだが、他にもいらっしゃったようでちょっと安心した・・・。感想としては真逆、という印象もあるけど、そこは人それぞれだと思うので。(『COLD WAR あの歌、2つの心』ポーランドにもあったラ・ラ・ランドチェ・ブンブンのティーマ)。

*4:ストレートに言うと、恋愛絡みで気分が落ち込んでいる時に鑑賞することはお勧めできないタイプの作品、ということになる。

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