性差を超えた”本物”の凄さ。

早いもので、いわゆる「夏競馬」もそろそろ終幕を迎える季節になってきた。

かつては秋に差し掛かる頃まで引っ張っていた札幌開催も、今は8月とともに終わってしまうのだが*1、そこは商売上手なJRA札幌記念を格上げして事実上「凱旋門賞のステップレース」にする(そして多くのGⅠ馬を出走させる)流れを作る等、いろいろと営業施策は打っている。

そして、4年前から札幌を舞台に始まった「ワールドオールスタージョッキーズ」(WASJ)も、まさにその一環の目玉施策だといえるだろう。

それまでジャパンカップが終わった後くらいの冬の寒い時期に大レースの裏でひっそりと行われていた海外招待企画を、他に大きいレースがない夏場、気候に恵まれた札幌で行う、というのは実に良いアイデアで、今回で5回目、すっかり定着した感がある。

今年に関しては、参加する騎手の中に、東西勝利数1位、2位の騎手(戸崎、三浦、川田、C・ルメールという順当な顔ぶれ)や浜中俊騎手(今年のダービージョッキー)、武豊騎手(文句なしの功労者)といったメンバーに加えて、藤田菜七子騎手が加わったこと*2、さらに、海外招待騎手の中にもリサ・オールプレス騎手(ニュージーランド)、ミカエル・ミシェル騎手(フランス)という2名の女性騎手が含まれていたことから、「興行的人選だろう」と揶揄する声も結構飛び交っていた。

リサ・オールプレス騎手に関しては、実績もあるし、何といっても2018/2019シーズンの当地でのリーディングジョッキーなのだから、選出されていても全く違和感はないのだが、全国リーディングでいえばまだ30番手くらいの藤田騎手はもちろん、フランスのミシェル騎手も、一部のメディアでは昨年から注目されていたものの*3、現時点で当地でトップを争っている騎手というわけでは決してない。

レース前の報道でも、ビジュアル面がやたら強調されていたり*4、と、”飾り花”的な雰囲気は漂っていた。

だが、土曜日、蓋を開けてみたらどうだ。
第1戦の札幌10Rで、昇級戦の3歳牝馬、ウォーターエデン(7番人気)に騎乗してきっちり掲示板確保。
続く第2戦の11R では、前走惨敗で人気を落としていた牡6歳・ドゥーカ(12番人気)を積極的に先行させ、前残りの展開の中、後続の追撃をかわして4着に粘り込み。

そして圧巻は、日曜日の第3戦、札幌10Rでのパフォーマンスだった。

3番人気の牡4歳、スワーヴアラミス(3番人気)をまくり気味に押し上げ、4コーナーで先頭に立ってそのまま2馬身突き放す快勝。

この馬は芝で長い距離を走った前走こそ大きく負けていたものの、元々ダートの中距離では馬券圏内を外したことがなかったような馬だったから、このレースに限ってはクジ運にも恵まれたのは間違いないところだと思うのだが、1000万下に昇級してから2着、3着とずぶさを見せていた馬を巧みに操って「勝たせた」腕はお見事の一言。

この時点でポイントでも首位に立ち、一気にシリーズの主役に躍り出た。

残念ながら、最終戦の札幌12Rで彼女が騎乗した馬は、1年以上掲示板から遠ざかっていたエニグマバリアートという牡7歳馬で、人気も断トツの最低人気(14番人気)。
ちょっと気の毒だった印象もあったが、それでも、スローと見るや中盤からまくって先団に付け、勝負しようとする気構えは最後まで捨てていなかったし、総合ポイントでも香港のティータン騎手と並ぶ堂々の3位タイ(海外招待選手ではトップ)。

この種の「初めて乗る馬で順位に応じてポイントが付く」レースの場合、強い馬でしっかり勝つことの重要性もさることながら、弱い馬でも「着順を拾う」ことが大切になってくるわけで、一貫して積極的なレースを見せた彼女の戦術は、実に理想的だったように思う。

今回が初来日、ということもあってか、彼女がこの2日間に騎乗したレースは、WASJの4つのレースだけ。

他の海外招待騎手たちが、別のレースにも数多く騎乗していたことを考えると、もう少し彼女のレースを見たかった気もするが、この実力があれば、いずれ向こうの一流馬とともに来日したり、短期免許を取って日本に来るなり、といった機会も出てくるのではないかと思う。

そして、今回のような舞台になると、さすがにまだまだかな、という印象が強くなってしまう藤田騎手にしても*5、平場のレースでは、減量特典を生かしてきっちり結果を出せる形ができてきているように見えるので、いつか「主催者推薦」ではなく、堂々と「上位騎手」としてこの手の舞台に出てきてほしいところだし、そうなってこそ、ミシェル騎手が一足先に”性差を超越する可能性”を示してくれた今年のシリーズの意義も増すはず、と思わずにはいられない。

*1:そして、3歳の未勝利馬が出走できる機会も、各ローカル開催の閉幕とともに失われることになる。

*2:JRAの公式ホームページには選出理由として「本年6月にウィメンジョッキーズワールドカップに優勝し、日本人女性騎手として初めてシャーガーカップに招待。JRA女性騎手の最多勝記録を更新中。」という説明が書かれているが・・・。

*3:https://uma-jin.net/pc/column/columnDetail.do?charaId=61&pcId=101419参照。

*4:美し過ぎる女性騎手ミカエル・ミシェル来日「好きなジョッキーはユタカ・タケ」 | 競馬ニュース - netkeiba.comなど参照。

*5:お世辞にも騎乗馬に恵まれたとは言えなかったけど、マイハートビート(牡4)が回ってきた第2戦だけは、きっちりポイントをとって欲しかったな、と思わずにはいられない。馬券も買ってたし・・・。

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