「リクナビDMPフォロー」問題への御沙汰に思うこと。

株式会社リクルートキャリアが提供する「リクナビDMPフォロー」サービスが、個人情報保護法との関係で長らく話題になっていたが、ようやくオフィシャルな”沙汰”が出た。

「就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が就活生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測を顧客企業に販売していた問題で、政府の個人情報保護委員会は26日、リクルートキャリアに是正を求める勧告を出したと発表した。情報の管理がずさんで、修正する体制がなかったと判断。個人情報を扱う企業に適切な体制整備を求めた。」(日本経済新聞2019年8月27日付朝刊・第1面)

個人情報保護委員会のプレスはこちら。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/190826_houdou.pdf

一見すると、予定調和的な結論のようにも見えてしまうのだが、勧告の根拠に、法20条(「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない」〉という抽象的な規定を持ってきたところは、正直、苦し紛れな処分、という印象を受けるし、逆に、一部の第三者提供に対して法23条1項違反を認定しながら、処分が「勧告」のレベルに留まっている、というのも中途半端かな、という気がする。

正直、この件に関するプレスリリースや関連報道をどれだけ眺めても、リクルート側からどういう形でデータが提供されたのか、とか、提供されることによって、(単なる可能性のレベルではなく)現実に対象となった学生の利益が害される可能性がどれほどあったのか、ということは、ほとんど伝わってこなかった。

そして、この手の話題に関し、実際のサービスの中身に接したわけでもない”有識者”気取りの連中が、勝手な憶測(ほぼ妄想)をがなり立て小さな話を大きくすることで、過去に風評被害を被った当事者としては、今報道されているレベルの話だけで、今回の件について論評することは極力避けられるべきだと思っている。

ただ、今回、個人情報保護委員会の勧告を受けて出されたリクルートキャリアのプレスリリース*1のうち、以下の点については、まぁそういうこともあるよね、と思っているし、ここで示された「改善策」も含めて興味深いところ。

事象④ 専門的知見の活用にむけたスタッフ間の連携不足
データ利活用など、新しい潮流の法的解釈やサービス提供におけるあらたなリスク分析を必要とするテーマにおいて、事業会社である当社の法務部門と親会社である株式会社リクルートの法務部門との間で、十分な連携が不足した状態でした。その状態で、主に当社主導で同サービスの検討がなされた結果、法的な整理が十分にできていない状態で、サービスのリリースに至りました。
対応策④ リクルート全体でのスタッフ機能の統合と強化
法務部門の強化のために、株式会社リクルートおよびその配下企業全体での法務組織の統合を行ってまいります。2019年10月より、当社の法務部門組織長を株式会社リクルート法務部署に兼務させ、法務機能統合の検討を開始いたします。リクルートグループ横断で法務に統合すべき機能と事業に残す機能を決定し、2020年4月を目途に法務機能の統合を行う予定です。加えて、法務メンバーが検討する内容が属人的にならないよう、検討内容の見える化なども実施してまいります。
また、株式会社リクルートの法務部署においては、2019年10月よりデータマネジメント専属の組織が設置され、当社におけるデータ利活用についても当該組織と連携して検討してまいります。
(強調筆者、以下同じ。)

最初に本件が報道された後のリクルート側の対応の混乱ぶりを見ていると、「法的な整理が十分にできていない状態」だった、というのは、その通りだったのかな、という気はするのだけど、もし「法務機能」が一元化されていたとしたら、リクルートは今回のようなサービス提供をしなかったのか? そして、今回のようなサービスそのものを止める、ということが法務のジャッジとして正しいことなのか?ということは、しっかり考えた方が良いのではないか、と思うところである*2

まぁ、筆者自身は、いくらデータをかき集めて「ビッグ」にしたところで、そこからビジネスに直結するような何かを引き出すのは今の技術では難しいと思っているし*3、そもそもどれだけ技術が進歩して、”過去”のデータを分析できるようになったところで、そこから未来をダイレクトに予測することはできない、と思っているので、今となってはどちらに転ぼうがそうあたりはないのだけれど、「感情的な感覚論」が先走りがちなのがこの世界の常だけに、ことが歪んだ方向に進まないように、今後も見守っていければ、と思っているところである。

*1:『リクナビDMPフォロー』に係る当社に対する勧告等について | プレスリリース | リクルートキャリア - Recruit Career参照。

*2:おそらく法務が万全の体制で絡んでいれば、「第三者提供に関する同意」の漏れは防げただろうし、個人情報保護委員会の照会におろおろすることはなかったと思うのだけれど、このDMP提供自体を事前に止めたか?と言えば何とも言えないところはあるし、そもそも止められるべき性質のものだったのかどうかも、ここまでの間、世の中でエビデンスに基づいた議論は全くなされていない、というのが自分の印象である。

*3:昨今の状況は、いわゆる「データ活用系の業界」の人々が”ビッグデータビジネス”に対する過度な期待感をあおった結果、”個人情報最優先主義”の人々の反発を食らい、法規制やらSNS世論の反発やらで身動きが取れなくなっている、という面があるような気がしていて、その意味で「どっちもどっち」というのが正しい理解なのかな、と思うところ(これは今はやりの「AI」等にも共通する話である)。

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