民主主義の代償とそれでもそれを追い求める人々と。

うんざりするような無限ループが延々と続いている英国。

首相が変わっていよいよEU離脱か・・・という大詰めまで来たのに、またしても「下院で離脱延期法案可決」「首相の解散権行使も阻止」ということで、にっちもさっちもいかない袋小路に陥ってしまった。

3年前に、前の前の首相が安易に国民投票に打って出たのがケチの付き始め。
前の首相が、したたかなEU官僚相手にやっとこさ合意離脱案をまとめ上げても、自国に戻ればあっさりと葬り去られ、政争の具にされて長々と時間を浪費する羽目になる。

そして、いわば一連の動きの”主犯”ともいえるボリス・ジョンソンが念願かなって首相の座について大勢決したか!と思ったらこれだ。

これがロシアだったら、離脱するにしても、撤回するにしても、プーチン大統領の鶴の一声で一瞬で決まる話だろう。

あと、もっとショッキングだったのは、かなり前から工事が始まっている高速鉄道(HS2)の開業5年延期(もしかしたら事業継続自体が危ない)という話で*1、鉄道の母国といわれた国が、高速鉄道線を一本引くだけでこんなにモタモタしている、というのも何とも信じがたいところがあって、つい10年ちょっと前に高速鉄道路線を引き始めたばかりの中国が今や四方八方に路線を張り巡らせているのと比べてしまうと、スピ―ド感の違いは歴然である*2

もちろん、クレバーな対応が必要な外交・通商協議の場面で、国内の世論や政治情勢に引っ張られて迷走する、といったこととか、高騰する整備費用ゆえ基幹インフラ整備が遅れがちになっている、ということなどは、日本とて五十歩百歩。国家の最高指導者に絶対的な権力を与えない、という仕組みの上に国が成り立っている以上、何かと時間がかかるのは避けようもない*3

そうなってくると、本当に「民主主義」って必要なの?という疑問が出てきても不思議ではないのだが・・・


かたや香港では、当局と衝突するリスクも逮捕のリスクも恐れずに長い戦いを続けている人々がいる。

そして、そんな人々の存在と苦悩に目を向ければ、どんなに意思決定がもたついても、物事一つ進めるのに厄介な手続きが多くても、既に曲がりなりにも「民主主義」が機能し、それを成り立たせるために必要な「自由」も確保されていることがいかにありがたいか、そしてそんな基盤を守り続けることが何より大事だ、と思わずにはいられないわけで・・・。

英国にしても香港にしても、今まさに「重大な局面」を迎えていることに変わりはない。
それ以外の国でも、民主主義国家であれば大なり小なり表に出ている”喧嘩”はあるだろうし、それがいつ、誤った方向に火を噴くかも分からない。

ただやっぱり、一市民としては「民主主義」が浸透した社会の方が相対的に生きやすいのは間違いないわけで、その過程でどんなに代償を払うことになったとしても「ないよりはあった方がいい」と言い聞かせ、生きていくしかないんだろうな、と思っている。

そして、今、世界中で起きている混乱、様々な矛盾と不効率をはらむプロセスの真っただ中に置かれながらも、それを乗り越えてきた人々が世の中で責任ある仕事を担うようになったとき、本当の意味で「民主主義」が根付き、その恩恵を多くの人が享受できるようになるはずだ、と思わずにはいられないのでである。

※2019年9月7日加筆修正。

*1:英高速鉄道HS2、開業5年延期も 事業継続に暗雲 (写真=ロイター) :日本経済新聞

*2:もちろん、これは施策の実現に民主的プロセスが必要かどうか、ということだけでなく、財政のスケールをはじめとする「国力」の違いに起因するところが大きいとはいえ・・・。

*3:それでも日本がスピード感をもって特定の施策を進められている実態があるのだとすれば、それは日本の根幹にある民主的統治機構の機能が十分に発揮されていないからでは?と疑わざるを得ないわけで、それはそれで問題かな、という気もするところである。

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