狂騒の末の「行政指導」は、この先何をもたらすのか?

先月来、随所に話題を振り撒き続け、既に個人情報保護委員会の勧告・指導も出されていた「リクナビDMPフォロー」問題に関し*1、今度は件の会社のコア事業を所管する厚生労働省(東京労働局)から、痛烈な行政指導が出た。

「就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が「内定辞退率」の予測を顧客企業に販売していた問題で、厚生労働省は6日、同事業が職業安定法違反に当たるとして、是正を求める行政指導をした就活生の弱い立場を重視して個人情報保護委員会よりも違法行為の対象を広く認定し、就活サイトの運営業者に警鐘を鳴らした。」(日本経済新聞2019年9月7日付朝刊・第5面、強調筆者、以下同じ。)

あくまで行政「指導」とはいえ、”一期一会”の関係では済まない所管省庁からのアクションは、行政委員会の「処分」以上に当事者には重い話。
リクルートキャリアもこれを受けて早速リリースを出し*2、全面的に恭順の意を示している。

この件に関しては、「事実認定」を行った規制庁の側からは、必要最小限の情報開示しかされておらず、オフィシャルなまとまった事実関係の説明は、リクルートキャリアの8月26日付リリースに「参考」として付記された「『リクナビDMPフォロー』に関する事実情報」での記載*3くらいしかない。

そのため、未だに各メディアやSNSでは未だに様々な憶測が乱れ飛んでいる状況だし、自分も公表されていること以上に確たる情報を持っている、ということではないのだが、一連の問題に対する当事者の対応と、世の中の反応、更には当局のアクション、といったものを追ってみていくと、これからも様々な分野で*4何度も繰り返されることになりそうな「不幸な構図」が透けて見えるだけに、自分自身”憶測”で書かないといけない部分があることもあらかじめお断りした上で、今、憂いていることを少し書き残しておくことにしたい*5

足りなかった「正直さ」と、それが残した禍根

まずは、”やらかした”と指弾されているリクルートキャリアの対応について。

個人情報保護委員会に指摘された「プライバシーポリシー改訂の際の事務手続きの不備」や、その結果としての「同意取得漏れ」は明確な法令違反であって弁解の余地はないし、「プライバシーポリシーの記載内容が不明確だった」という点に関しても、後々突っ込まれる可能性があることは当然予測できる話だから、もう少し何とかできたんじゃないか?という批判を受けるのもやむを得ないところだろう。

そもそも、外からの「見られ方」を考えた時、本年3月の「リクナビ2020」本サイトオープン&辞退率スコアの「特定個人との紐付け提供」の開始、というのは、いわばルビコン川を渡る」に等しい一大事なわけで*6、(当然、リクルートキャリア側でも適法性を担保するためのスキーム検討は前々から行っていたのだろうが)そのタイミングで「事務手続きの不備」という初歩的な部分で隙を見せてしまったのは残念というほかない。

ただ、自分がより憂いているのは、リクルートキャリアが、肝心の「提供したサービス」の中身、特に「質」の問題について、説明を躊躇しているように思われる点である。

同社は、8月26日付リリースに先立ち、8月1日の「当社サービスに関する、一部の報道につきまして」というリリース*7の中でも、提供していたサービスの趣旨や理念等について説明をしているのだが、そこでは「試験的な運用を積み重ねてきました」とか、「学生の能力を推し量るものではありません。」といった説明はあるものの、

「『応募行動についての予測モデル』を『リクナビ上での行動ログ』と照合することによって得られたスコア値が、どの程度信頼に足るものだったのか?」

という点については、何ら言及されていない。

で、ここからは推測なのだが、自分は今のAIの技術レベルで「予測」できる人の行動パターンにはまだまだ限界があると思っていて、特に「就職活動」のような「非日常的」かつイレギュラーな要素が多々存在する*8行動まで「モデル」ベースで完全に予測しきるのは、おそらく無理だろうと考えている。

だから、リクルートキャリアが「いかなる時期であっても提供された情報を合否の判定に活用しないことにご同意いただいた企業にのみ、本サービスをご提供してきました。」というスタンスを取っていたのも、「辞退するかどうかと本人の能力は関係ない」という建前論以上に、現時点において「開発段階のサービスが弾き出したスコア」から何かを判断するのは無理がある、という限界を自認していたからではないか、というのが自分の見立てで、それなら最初に騒ぎが生じた時点で、「学生にとっては、企業とのコミュニケーションを取る機会を増やすことができます。」的な”前向き”な話だけではなく、「あくまでまだ試験段階ですから、実害はありません。」という説明を洗いざらいしてしまった方が良かったのではないか(そして、それは今からでも遅くないのでは?)と思わずにはいられない。

リクルートキャリアとしては、現にサービスを有償で提供していた*9以上、「あまり意味のないスコアでした」と堂々と言うわけにはいかない、という事情はあったのだろうが、8月1日当時の「サービス提供を一時休止させていただくことを決めました。」というフレーズを見てしまうと、「将来、サービスを本格展開する夢もまだ捨てきれていなかったんじゃないかな・・・?」(だから、自社のサービスの「質」に疑義を抱かせるようなこともあえて言わなかったのかな?)という疑念も湧いてくるところ。

本件サービスやその使われ方について、様々な憶測が乱れ飛び、一部就活生やその関係者から強い抗議や悲鳴の声が上がったことで*10個人情報保護委員会に加えて、厚生労働省まで(さらには公正取引委員会まで・・・?)より厳しい姿勢を示さざるを得なくなった、というのが今回の構図で、「本人の同意があっても、内定辞退率などを合否決定前に提供することは認められない」(前記日経紙記事)という注意まで出てしまった以上、おそらく就職絡みのサイトで今回のような試みをすることは(「同意に基づく実験」ですら)二度とできないだろう。

それでよい、という価値観が世の趨勢ならそれで結構なのだが*11、もし、今回のサービスの予測精度を極めて高いレベルにまで持っていくことができるのだとしたらリクルートキャリアが8月1日のリリースで掲げていた”前向き”な建前も生きてくるはずだし*12、万が一、採用企業側がその建前を踏み越えてしまった場合でもそれによって得をする人は必ず出てくるわけで、角度を変えて、「本当にその会社に何が何でも入社したくて、実際に「辞退可能性が低い」行動パターンを取っている人が採用場面で有利になる」という見方で話をすれば、ネガティブなイメージをひっくり返す人が出てきても決して不思議ではない。

それだけに、ここまで将来の可能性を「根絶やし」にしてしまったリクルートキャリア側の一連の対応には残念な思いが残るし、一方で、本当に8月1日のリリースで掲げたような”前向き”なコンセプトをもって開発を行っていたのであれば、「沈黙・・・その後一方的謝罪」という展開ではなく、どこかで自分たちの「筋」を示してほしかったな、と思わずにはいられないのである*13

サービスに飛びついた事業者の残念なところ。

ここまで「指導」を受けた事業者側の話を長々と書いてしまったが、問題のサービス自体、「貰い手」がいるから成り立つわけで、未だ全容が明らかになっていない「貰い手」側の残念な部分にも少し言及しておかなければならない。

法的な側面からの問題点は、現在でもまだ関係当局が検討を続けているようだし、それぞれの会社で応募者に対して個別に行っていた対応に照らして、リクルート側への情報提供の当否等が吟味されることになるのだろうから、現時点では触れずにおく。

むしろ、今気になっているのは、リクルートキャリアが8月1日のリリースの中で言及していた、

「学生の納得度を高めるためには企業と学生の相互理解を深めることが重要であるにも関わらず、年々企業の採用難易度が上がっており、7割以上の企業人事にとって「採用に係るマンパワー」が最大の課題となっています。また、メールや電話による内定者フォローを強化している企業も増えつつある一方で、過去5年で「学生による辞退率」は大きく増加しているのが現状です。」

という状況と、その打開策として「辞退率予測」に飛びついた各採用側事業者の思考回路である。

冷静に、かつ取り交わされたであろう契約上の利用条件に則って「あくまで実験サンプル」と割り切って活用した会社がほとんどだと信じたいところではあるのだが、もしかしたら「藁にもすがる思い」で、リクルートの提供するサービスに飛び乗った会社もあったかもしれない。

そして、もしそういう会社が現に存在したのだとしたら、(AI予測に過大に期待する、というリテラシーの欠如もさることながら)あまりに情けない採用部門だなぁ・・・と。

確かに、今の就活市場は、空前の「売り手」市場だと言われているし、学生側の気風の変化ゆえか「簡単に辞退されてしまう」と悩む採用サイドの声も耳にすることが多くなっているのは事実だが、本来新卒採用というのは「自分たちが採りたい人を採る」というのが絶対的なミッションで、採用に関わる現場のスタッフも、採用責任者も、「仮に学生が他の業界、他の会社に関心を持っていたとしても、自分たちの尺度で判断して『入社してほしい』と思ったら、何が何でも入社させる」という執念でやっていたものだった。

かつて常道だった大学の上下関係を駆使した「囲い込み」作戦はとうの昔に廃れてしまっているし、ちょっと「圧迫」するだけで騒ぎになってしまう今の世の中では、何かと対応もスマートになりがちだから、どうしても「本人に触る前にデータで・・・」という発想に向かってしまうのかもしれないが、「採用」「入社」の最後の決め手になるのが人と人との生身のコミュニケーションだ、という点には今も昔も、洋の東西問わず変わりはないはず。

「そんなことは百も承知で、あくまで採用戦略、内々定後のフォロー戦術を考える上での「補助的」なツールとして提供を受けた情報を活用しただけだ」という反論は予測されるところではあるのだが、それなら、既に名前が挙がってしまっている各社には、個人情報の取扱いに関する法的な対応の当否に関して一定の結論が出た段階で、ちゃんとその辺も含めて語っていただきたいな、と思わずにはいられない。

あと、「マンパワー」がかかるといっても、今行われているのはほとんどが「就活シーズン」だけの対応に過ぎないわけで、そんなにコストをかけなくても、もう少し長い期間学生をフォローし続けることで、双方がハッピーになる採用をすることもできるはずなので、未だ精度が低い(と思われる)「データ解析」に頼る前に、やるべきことをやったら?というのが、自分の思いである。

「民意忖度」行政への疑義

最後に、行政側の一連の対応についても触れないわけにはいかない。


8月26日付の個人情報保護委員会の勧告・指導(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/190826_houdou.pdf)に関しては、法20条違反認定の基準等に関して多少の疑問は残るものの、「勧告」と「指導」でレベル感を分けたことや、「平成31年3月以前」の提供については触れていないこと等、あくまで個人情報保護法の規定に事実を当てはめ法の枠内で対応する姿勢を見せている、という点では、あるべき姿が貫かれていると言えるのではないかと思う。

一方、厚生労働省(東京労働局)の対応に関しては、そもそも「行政指導」というインフォーマルな形式が取られており、報道を見ても、所管庁の事実認定や指導事項の背景にある指示の細かいニュアンスが今一つ分からない(というか報道がどこまで正確なのか、という問題もある)ため、評価が難しいところもあるのだが、記事の内容を前提にコメントするならば、

厚労省は、18年3月以降の全期間を行政指導の対象とした。匿名のデータでも、販売先の企業が自ら持つ就活生の情報と照らし合わせれば個人名を特定できたと判断したためだ。」(前記日経紙記事)

というくだりは、「リクルートキャリアに対する指導」としては広きに失するし*14

同意があっても辞退率の販売自体が職安法に違反するとした。主な就活サイトがリクナビなど数種類に限られ、就活生が外部提供を断るのは難しかったからという。」(前記日経紙記事)

とまで言ってしまうと、「同意」を重要なファクターとして位置付ける個人情報保護法の建付け自体が崩れてしまう。

そもそも、厚生労働省が「指導」の根拠としている職業安定法に関する指針*15にも、

第四 一(四)
「個人情報の保管又は使用は、収集目的の範囲に限られること。ただし、他の保管若しくは使用の目的を示して本人の同意を得た場合又は他の法律に定めのある場合はこの限りでないこと。」

と、「本人の同意」を当否のメルクマークと認める記述は存在している。

この指針が法の「上乗せ」的な規律を課しているのは、センシティブ情報の取得や、未成年者からの個人情報取得にかかる場面で、それ自体はごく真っ当な考え方だと思われるが、今回のケースでリクルートキャリアが取得・提供した情報は「サイト閲覧履歴」のレベルの話に過ぎず、これらの明示的な「上乗せ」基準に抵触するような行為はなかったはず。

そして、その場合、指針が一般原則として定めている

個人情報の保護に関する法律の遵守等
「一及び二に定めるもののほか、職業紹介事業者等は、個人情報の保護に関する法律第二条第五項に規定する個人情報取扱事業者(以下「個人情報取扱事業者」という。)に該当する場合には、同法第四章第一節に規定する義務を遵守しなければならないこと。」

に立ち返ることになるのだから、個人情報保護委員会の判断を超えて「独自」の判断を下すのは、本来好ましいことではなかった*16

プライバシーポリシーへの「一括同意」の形がとられている限り、ユーザーである就活生の側で「同意しない」というアクションが事実上取れない、という指摘はその通りだし、これだけ多くの悲鳴が飛び交っている以上、社会的弱者の味方を標榜する厚労省として見過ごすわけにはいかなかった、というのは理解できるのだが、提供された情報の精度や実際の使われ方に関する検証がなされていない状況で「本人の同意があっても、内定辞退率などを合否決定前に提供することは認められない」とまで言ってしまうのはさすがに勇み足というべきではないだろうか。

どうせ「忖度」するなら、官邸ではなく「民意」の方に目を向けるのが行政庁のあるべき姿なのは確かだが、あまりに「忖度」し過ぎると、既存の法令・指針の上に形成されている各ステークホルダーの予測可能性や行政への信頼がかえって失われることになってしまわないか? というのが、ここでの自分の問題意識である*17


ちなみに、自分が就職活動をやっていた頃は、就職戦線が大体ヤマを越えたかどうか、というタイミングで、「応募はがきが閉じ込まれた”電話帳”(のような分厚い冊子)」を配っていた各募集情報等提供事業者から電話があって「モニター調査」への協力を求められ、どの会社を受けてどの会社を辞退した、とか、辞退したタイミングとかを事細かく聞かれた記憶があるし、素直に協力するとそれなりの額の図書券くらいはもらえて、いい思いができた。

時代が流れ、技術が進歩したことで、募集情報等提供事業者側でも、そこまで手をかけずに大量のデータを取れるようになったし、しかも、採用選考進行中の段階で取得した情報に基づくサービスを「欲しい会社」に提供できるようになってしまったから、さすがにそれは行きすぎ、とブレーキをかけるのは一つの政策的判断だと思うのだが、今も昔も「メリットがあるなら協力することはやぶさかではない」という層は一定数いるはずで、今回の行政指導を機に、(より積極的な)「同意」を根拠にそういう層にリーチする道まで閉ざされてしまうのだとしたら、ちょっと残念だな、という気はする*18

繰り返しになるが、自分は、「いつのまにか情報が抜かれて、他人の評価に使われる」というデータ活用スキームには極めて否定的だし、「AIによる予測」に関しても、現状では過度の信頼を寄せるに値しない、と思っている。

ただ、同時に、「自分の情報を使われること」をネガティブに評価するかポジティブに評価するかは、人それぞれが判断すればよい、とも思うわけで、いかにSNS上に否定的な声があふれていたとしても、「使ってくれていいよ」という少数派*19の存在は忘れられるべきではない*20

おそらく、今回の一連の行政委員会・行政庁の対応を踏まえ(事業者を批判しつつ、「企業にとって個人情報をどこまで活用していいのかという線引き」も同時に気にしている日経紙的なマインドの下で)望まれるのは、「ユーザーの『評価』につながる『解析目的での個人情報収集』」に関して、プライバシーポリシーに混ぜ込むだけでなく、「別枠」で「明確な同意」を取る、という運用がじわじわと広がっていくこととか、個々のユーザーの特定、評価を目的としないプラットフォーム上の行動履歴の外部提供に関しても、利用目的明示+取得同意というパターンで対応する場面が増えること*21なのだろうが、現実には、本件の一連の「処分」の強すぎるインパクトゆえに、そういった対応を取る以前にデータ活用に二の足を踏んでしまう企業が再び続出する可能性も高いわけで、「ビッグデータ活用による各種サービスの向上」に期待する人たちにとってはストレスがたまる世の中になってしまうのは間違いないだけに、どこかのタイミングで行政庁自身が”鎮火”することも考えてほしいな、と思った次第である*22

*1:当時のエントリーは、「リクナビDMPフォロー」問題への御沙汰に思うこと。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:『リクナビDMPフォロー』に係る当社に対する東京労働局による指導について | プレスリリース | リクルートキャリア - Recruit Career参照。

*3:『リクナビDMPフォロー』に係る当社に対する勧告等について | プレスリリース | リクルートキャリア - Recruit Careerの末尾に付記されている。

*4:さすがに「就活サイト」の世界で同じことが繰り返されるとは自分も思わないが、AIへの過剰信仰がまだ収まっていない現状を踏まえれば、別の分野で似たような話が出てくる可能性は、決して否定できないと思っている。

*5:前回のエントリーでも書いたとおり、事実が明確になっていない状況であれこれ言及するのは本来好ましいことではないと思っているのだが、”憶測”による論評は、依然として(しかもメディアレベルにまで広がって)続いているようだし、今回の行政庁の措置の中でも、元々出ていた以上の事実が明らかになることはなかった(そして今後もいつ出てくるか、出てくるのかどうかすら分からない)ので、このタイミングで一言残しておくことにする。

*6:今回厚生労働省は「2019年3月」の前後にかかわらずまとめて「指導」の対象としており、その当否については後述のとおり議論されるべきところもあるが、いずれにしても、「自社内で個人を紐づける」というスキーム変更が「重大事」であることに変わりはない。

*7:当社サービスに関する、一部の報道につきまして | プレスリリース | リクルートキャリア - Recruit Career参照。

*8:自分の意思だけではなく、様々な”外野”の影響も受けるし、ちょっとした風評や、面接日時のラップといった「時の運」で行動パターンが変わる可能性もある。

*9:純粋に対象企業からの業務委託費の支払い、という形だったのか、それに一定のフィーを載せていたのかは公表資料からは分からないが・・・。

*10:確かに今公表されている情報のレベルだと、「当事者」としては最悪の事態を想定したクレームをせざるを得ないところもあるから、様々な声が出るのも当然理解はできる。

*11:自分も、同意クリックをしていようがいまいが、自動収集された断片的な情報だけで人の「格付け」、「ラベル張り」をするようなサービスを世に出すのは極力やめてほしいと思っている側の人間なので、今回のサービスが駄目になってイノベーションが・・・などと言うつもりは毛頭ない。

*12:行こうか辞退しようかと決めかねている学生にとっても、(最終的に入社するかどうかにかかわらず)フォロー過程で美味しい物を食べさせてもらえる、というメリットは当然ある。

*13:もっとも、昨今の大企業の「危機管理のテキスト」に従うなら、ここは「何も言わずにお詫び」というのが正解ということになってしまうし、明確な「違法行為」まで指摘されてしまった本件ではなおさら、というところでもある。それがいいことなのかどうか、という点については言いたいことは山ほどあるのだが、自分が「中の人」だったとしても、8月以降の対応に関しては、今回当事会社が行った以上のことをするのは難しかっただろうな、というのが率直なところである。

*14:そもそも「個人情報」の定義自体にかかわる話なのだから、いくら「行政指導」だからといっても、そこは謙抑性が発揮されるべきではなかったか。

*15:正式名称は「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等 提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針」とやたら長い・・・。 https://www.mhlw.go.jp/content/000498874.pdf

*16:しかも、リクルートキャリアが「職業紹介事業者等」に該当する、という技巧的な構成をした上で、評価に左右される余地が多い指針第四の二(二)(「求職者等の秘密に該当する個人情報を知り得た場合」に「当該個人情報が正当な理由なく他人に知られることのないよう、厳重な管理」を行うとする規定)を引っ張り出して「指導」を行ったのだとしたら、いくら何でも・・・という気はする。

*17:この点に関しては、最近の公正取引委員会の動きを見ていても思うことで、あちらはまず「指針」から変えよう、という話なので、予測可能性という点ではまだマシなのだが、「個人情報の利用を嫌悪する声」だけが「民意」ではない、ということも忘れてほしくない視点だと自分は思っている。

*18:もっとも、特定の機能の登録に付随して「謝礼」等を支払うスキームにすると景表法の問題なども出てきそうだし、「閲覧履歴の提供を認めてくれたらより高度なサービスが受けられるようにする」等の対応だと結局今回の件と同様に「事実上同意を強制される」という指摘を受ける恐れもあるので、どちらにしてもややこしいことになってしまいそうである。また、そもそもこの手の行動解析は、「(調査対象者が)無意識のうちに」なされるからこそ有意なデータが取れる、という面もあって、「意識して応じた」人たちばかりが対象になってしまったら、あまり意味がないような気もする。

*19:「見られている」という意識の下で、「見られたい姿」に応じた行動パターンが取れる人にとっては、今回のようなサービスは採用側を”騙す”絶好のチャンスでもある。世の中には、「適性検査」で矛盾なく回答して、採用側が求める人物像に自分を仕立てあげられる人も少なからずいるわけで、アナログからデジタルの世界に変わっても、この辺はまだまだ生身の人間の方一枚も二枚も上、である。

*20:自分も、「他人の評価に使われる」ようなデータ解析は勘弁願いたいと思っているが、自分自身にフィードバックされるタイプのデータ解析技術はどんどん進化してほしいと思っているし、自分自身がそのメリットを享受できるのであれば、そのデータ(ただし匿名化or統計処理された形であることは絶対条件)が第三者に転々流通したとしても、そこに抵抗を抱くことはない。

*21:これは欧州のePrivacy規則への対応、という観点からも今後対応が迫られる話なので、Cookieを使った解析を継続するのであれば、いかなるWebサイトもこういう方向に舵を切ることは避けられないはずである。

*22:いつもなら、いい意味でも悪い意味でも、こういう場面で必ず経済産業省が何かをやってくれたものだが、今回は果たしてどうなるか・・・。厚労省が第二段階の処分なり指導なりのタイミングで、「ここまでなら」というのを示せば、また流れは変わるのだろうけど、それに期待するのはなかなか難しいようにも思うところである。

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