今年も、新司法試験の合格発表のニュースが報じられた。
2006年の第1回から数えて14回目。
最初の頃はワイドショーで取り上げられるくらいの大イベント。新聞でも発表を報じるニュースは社会面を二面跨ぐくらいのスペースを占拠していたのだが、「新」司法試験という言葉はもはや死語になって久しく、新聞での取り上げられ方も年々小さくなっていく。
もっとも、法科大学院ができる前の「司法試験」の合格発表のニュースなんて隅っこにひっそり載るくらいだったはずだから、本来はこれくらいの扱いでよいはずで*1、一資格試験の話題が社会的関心事になってしまうこと自体が元々”異常”な事態だった、というべきだろう。
アーカイブ的に残しておく意味合いも込めて、今年も淡々と数字を挙げるならば、
出願者数 4,930名(前年比 881名減)
受験者数 4,466名(前年比 772名減)
合格者数 1,502名(前年比 23名減)
本当に首の皮一枚、という感じで守られたのが「合格者1500人」というラインで、その結果、今年の合格率は30.5%。
合格率が30%を超えたのは、おそらく11年ぶりくらいの出来事ではないかと思うのだが、当時(2008年)の受験者は6,261名。
受験予定者ベースで比較すると今年より3,000人近く多い人々がこの試験を目指していたことになるから、改めて強調するまでもなくシュリンクぶりは歴然としている。
日経新聞は、
「政府目標の「年1500人以上」は上回ったが、法科大学院の志願者数も低迷し、「法曹離れ」はなお深刻だ。」(日本経済新聞2019年9月11日付朝刊・第34面、強調筆者)
と嘆いていて、実際その通りだと思うのだが、本当に深刻なのは、「法科大学院志願者数」の減少以上に、「予備試験受験者」が増えていないこと。
今年も予備試験ルートからは合格者315名を輩出しているのだが*2、肝心の「今年の予備試験受験者数」の方は増えてこそいるものの前年比644名増に留まっており、新司法試験受験者の減少分すら補えていない*3。
そして、今年の予備試験ルートの合格者は、30歳以上の比率が非常に高い(約35.9%)という点に特徴がある*4。
これは、制度の元々の趣旨に近づいたという意味では喜ばしいことなのだが、今年の20~24歳レンジの予備試験ルート合格者数(率)の減少は、この層の予備試験組の「受験者数そのものの減少」に起因している話でもあるから、「20~24歳世代の人々が、そもそも司法試験そのものに興味を失ってしまったのではないか?」と考えると手放しで喜ぶわけにもいかなくなる。
いつの時代も「流行」の先頭を行っていた世代が「最短ルート」で法曹界を目指すことすら回避するようになってしまったのだとしたら、一体この先、この業界どうなるのか・・・と不安に思う方が正しい感覚だし、この部分はしっかり検証していく必要があるのではないだろうか?
自分は、「これからの世の中で役に立てる仕事」の優先順位を考えた時に、「法曹」というチョイスが”最優先”に来るとは思っていないし、元々の異常なまでの(旧)司法試験ブームとか、法科大学院ブームをもたらしたきっかけが、未曽有の就職難(新卒を大量採用していたかつての「一流企業」が軒並み採用抑制に走った)と、エリート層の価値観崩壊(特に国家1種法律職の魅力が失われたことが大きい)だったことを考えると、ここ数年の傾向を見ながら「これでいいんじゃないのかな?」と思っていたところはある。
20代の貴重な時間を、決して有意義とはいえない「机上での法律の勉強」なんかに費やすのは正直もったいないし、日系でも外資でも、事業会社でもコンサルでも、老舗企業でもスタートアップでも何でもいいから、少しでも早い時期から「実務の現場」で汗を流す方がよほどいい経験が積めて、その先で生かせる「財産」も築ける。
だからこそ、いろいろと経験を積んだ人が「法曹」の世界に転じたい、とか、キャリアに「法曹」資格を加えたい、と思った時に、少しでも低い参入障壁でチャレンジできる*5試験にすることが、「法曹」を支える裾野を広げ、「法曹」の質を長きにわたって保つための最善かつ唯一の策だと自分は思っているわけで・・・。
毎年同じことを書き続けることに、正直虚しさを感じないわけではないのだけれど、せめてこの試験が20回目を迎える頃くらいまでには、本当の意味で「原点回帰」してくれていることを、今は心の底から願っている。
*1:今でもまだ過剰に話題になっている、という気がしなくもない。
*2:385名の受験者中315名合格なので、合格率81.8%。さすがである。
*3:法科大学院進学者の全員が司法試験を受けるわけではない、ということを考えると、母集団である法科大学院志願者数減少数との比較では、もっとギャップがある、ということになりそうである。
*4:昨年は27.7%に留まっていたし、年々20~24歳のレンジの合格者が増えている、という印象を持っていたのだが、今年は意外な結果となった。
*5:試験自体の難易度を下げろ、とは言わないから、せめて働いている人間が気軽にチャレンジできる試験であってほしい、と自分は散々言い続けているし、それはいまだに変わらない。