そして、祭りは終わった。

自国開催の国際的な競技会で日本代表チームが健闘する、というのはよくあること。

記憶をたどるなら、1992年のサッカーのアジア杯(日本が初優勝)あたりが、「ホームアドバンテージ」を自分が目の当たりにした最初の機会で、翌年のU-17世界選手権ではベスト8進出。

さらに長野での冬季五輪を挟んで、忘れもしない2002年のサッカーのワールドカップでの歴史的なグループリーグ突破・・・。

そういう文脈で眺めれば、今、まさにこの国で行われているワールドカップで日本代表が勝ち進んでいたことも、決して不思議なことではないのかもしれないけれど、やっぱりその競技が「ラグビー」だった、ということに、自分はどうしても違和感を隠しきれずにいた。

一次リーグ突破どころか、「1勝」を挙げることすら長らく”悲願”とされていた代表チーム。かつてはニュージーランドに145点を奪われて粉砕されたこともある。

一番強い相手と当たる時は、ハナから勝負を捨てて控えメンバー主体で臨み、狙いを定めた相手に必勝を期すも思惑は常に空回り。

エディ・ジョーンズ監督の下での強化策が実を結び、前回のW杯で南アフリカから大金星を挙げ、余勢をかって一次リーグで3勝を挙げたのは事実。だが、得失点差を見ればマイナスで、結果的にもtier1の国々の後塵を拝し、決勝トーナメント進出を逃す。

その時々の局面では”見せ場”を作るが、終わってみれば「健闘」止まり。”頑張ったけど惜しかったね”で語られるのが日本の無難な立ち位置だと、ずっと思ってきた。

それが、アイルランドを倒し、スコットランドまで葬り去って、一次リーグ全勝。「グループ1位で決勝トーナメント進出」と来たものだから、落ち着かないのなんの・・・。

いかにホスト国だといっても、いくら今の日本代表が「勝つ」ことを絶対的な目標に鍛え上げられてきた選手たちの集団だからといっても、こんなことがあって本当に良いものなのかどうか。ここ数号のNumber誌が、本来なら表紙を飾るべき他の競技の主役たちを押しのけて”ラグビー一色(というか表紙だけ見れば福岡選手一色)”になっている(さらに今週は臨時増刊号まで出すらしい)こととも合わせ、メディアがやれベスト8だ、もしかしたらベスト4まで行けるかも!と騒げば騒ぐほど、別世界に迷い込んだような気分になる。

そして、ちょうど1か月前の開幕戦、対ロシア戦から始まった過熱ぶりは、奇しくも試合日が日本ラグビー界のレジェンド・平尾誠二氏の命日と重なる、というできすぎたストーリーの下、今日の準々決勝でまさにピークを迎えたはずだったのだが・・・。


魔法は、試合開始から5分も経たないうちにとけた。

ロシア戦の時に指摘された「国歌斉唱で気持ちが高ぶり過ぎている選手」がいたこと、そして、開始早々、田村選手が巧くないキックでチャンスをピンチに変えてしまったあたりから嫌な予感はしていたのだが、案の定、得意になったはずのスクラムで押され、軽く展開されたところであっさり先制トライを献上。

その後も得意なはずのラインアウトのボールは敵方に渡り、いくら攻め込んでも強力な守備陣の前に潰されて肝心なところでミスが出る。

前半終了時のスコアこそ、どちらに転ぶか分からない3-5。

これまでの相手同様、日本のプレッシャーに負けてミスをする選手は南アフリカにもいたし、相手のFWの選手がラフプレーで一時退場処分を受ける幸運に恵まれたこともあってボール支配率、攻撃回数は日本の方が圧倒的に多かった。とはいえ、その場にいなかった観戦者としての印象は、「これって攻めてるんじゃなくて、攻めさせられているんじゃないかなぁ・・・」(サッカーの世界でもよくある話)というもので、しかも、それまでできていた戦術ができず、ちょっとずつ歯車が狂っていたように見えたこともあって、どことなく重い雰囲気はあった。

後半が始まってからも、そんな空気は変わらず。そして、じわじわと圧力をかけて攻めてくる相手に耐えかねて自陣で反則を犯す、というお決まりのパターンから、ポラード選手得意のPGを立て続けに決められたところで、雲行きはかなり怪しくなる。

これまで今大会の日本代表を支えてきた田村、姫野といった選手たちが交代を余儀なくされ、他の戦力にも疲労の色が見え始めたところで、敵方のSH、名前*1も風体も怪しい9番・デクラーク選手の厭らしさが全開に。

日本FW陣の呼吸が乱れた隙にスクラム、モールで押しまくり、BKのラインが乱れたところを見計らってパスを散らし、前がかりになっていると察すれば絶妙なパントキックで体力を消耗させる。

そして極めつけは、怒涛のモール攻撃から自ら飛び込んで決めた後半26分のトライ。これは事実上「トドメ」に近かった。

4分後に、相手の快足WTB・マピンピ選手*2に今日2度目のトライを決められてからは、日本代表応援団の思いは「いかに一矢報いるか」だけ。なのに、南アフリカのえげつない防御の前に、戦意も体力もくじかれた日本代表はもはやなすすべなく、最後の笛が鳴ってからも攻め続けた南アフリカを前に、それ以上の失点を食い止めるので手一杯。

結局スコアは「3-26」。3トライ&ゴールにPGまで必要な得点差だが、感覚的にはそれ以上の「完敗」だった。


思えば、前日の準々決勝、日本に歓喜をプレゼントしてくれたアイルランドニュージーランドに完膚なきまでに叩きのめされたのを見た時に、今日の結果も想定すべきだったのかもしれない*3

日本代表は世界ランキングで1桁に突入し、大会中にもどんどん順位を上げていたが、ラグビーの世界でのランキング超上位国とそれ以外の国のレベル感の違いは、想像をはるかに凌駕していた。

加えて、敵方には「4年前の雪辱」という恰好の発奮材料もあった。

この日の試合での南アフリカフィフティーンの振る舞い、特にラインアウトでのえげつないボール奪取や、密集戦での球際でのスレスレのタックルを見て、ラガーマンはプレー中のフィールドでは決して「紳士」ではないのだな、ということを改めて思い知らされたわけだが*4、今思えば、一次リーグで対戦した世界の強豪国(除くロシア)は、どこも、何となく「開催国日本」をリスペクトし過ぎていたのかも・・・と感じるくらい今日の南アフリカは容赦がなかった。

大会前のテストマッチで勝ったくらいでは到底晴らせないくらいの何かを抱えていたのか、それとも、余計な打算を入れずにただ勝つことだけを考えれば必然的にそうなった、というだけなのか、いずれにしても、一切不完全燃焼感がない、気持ちが良いくらいの敗北を彼らは開催国にプレゼントしてくれたのである*5

ここで負けたとはいえ、大会が終わった時の総括は、やはり「日本躍進」というキーワードで括られることになるのだろうし、新しい歴史の扉を開いた今大会の代表チームの価値が失われることは決してないはず。

ただ、始まったばかりの日本シリーズプロ野球)の存在感すら完全に消してしまった日本人の「ラグビー熱」は、今日の試合の後半途中くらいから醒めはじめていた*6

レベルが高い大会になればなるほど試合間隔が空くのがラグビーという競技の難しいところで、準決勝は来週末、決勝となると2週間も先の話。

その頃まで飽きっぽい日本人の関心を持続させられるのかどうか、というのが、この「熱」が4年後まで持続するかどうかの一つの試金石になるような気がする。

さらに、この1カ月の間に一躍子供たちのスターになった選手たちが、この先4年間、ラグビー界を表舞台で支えていけるかどうか、というのも重要な要素。

特にこの大会で実力を十分に発揮できなかった選手*7や、徐々に調子を上げてこれからというところで大会が終わってしまった選手*8、そして何より、ここまでMVP級の活躍をしながら、最後の試合で見せ場を作れなかった選手たちが「達成感」ではなく「悔しさ」を胸に現役を続行してくれるのであれば、後で振り返った時に、母国での屈辱的な完敗にも意味があった、ということになるのだと思うのだけれど・・・。

そんなわけで、(選手本人がどういうコメントを出すかにかかわらず)今日、福岡堅樹選手のトライシーンを見られなかったことが4年後につながる、と今は信じていたいのである。

*1:マンデラさんの前の大統領も同じお名前だったと思うけど・・・。

*2:日本のディフェンスが完全に崩されていたこともあったが、やっぱり噂で聞いていた以上の次元の違う「速さ」だった。

*3:昨日の時点では、「グループ1位で抜けられてよかった」という感想の方が先に立っていたのだが・・・。

*4:かくいう日本代表の選手たちも、今日の試合に関して言えば決してお行儀のよいプレーばかりではなかったように思う。審判の笛の吹き方の問題もあったのかもしれないが、全体的に「荒れた」印象はあった。

*5:2002年のサッカーW杯の時に、後から振り返っても「こいつらには勝てただろう!」と突っ込みたくなるようなチーム(トルコ)相手に中途半端な戦術で敗北を喫したときのモヤモヤ感に比べたら、今日の試合後の清々しさは比較にならない(苦笑)。

*6:パブリックな場所で観戦していたが、元々ファン向けにサービスしている店ではなかった(たまたま店内のテレビに映っていただけ)ということもあり、最初の頃は中継に見入っていた他のお客さんのほとんどは、試合が終わる頃には自由気ままに「いつもの飲み会」を楽しんでいた。

*7:特に田村優選手は、キックの成功率からしても全く能力を出し切れなかった部類に入るんじゃないだろうか、と思わずにはいられない。一次リーグの2戦目以降、調子を取り戻していたように見えたけど、最後の最後の試合ではやっぱり露骨に不調だったし・・・。

*8:これは何といっても山中亮平選手。福岡選手との交代要員、という役回りを脱して存在感を発揮するようになっていたし、特に今日の試合はベストだったと思うだけに・・・。

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