美しすぎる終幕。

日本が敗退した後も、まだまだ続いていたラグビーW杯。

いかに消耗が激しいスポーツとはいえ、準々決勝から決勝まで丸々2週間も大会日程を費やす、というのは贅沢すぎるイベントだな、と個人的には思うし、一部を除けば世の中の空気もだいぶ落ち着いてきたところで閉幕、という雰囲気ではあるのだが、それでも、最後に勝ち名乗りを挙げた南アフリカ代表が、真の勝者に値するだけの強さと風格を見せてくれたおかげで、実に引き締まったいい大会になったのではないかと思う。

4年前からより一層精度を増したポラード選手のキックは決勝戦でも変わらない冴えを見せていたし、スクラムの重量感も、ラインアウトでの狡猾さにも全く変わりはなかった。

ゲームプランニングもこれまで以上に完璧で、後半途中までの窮屈なPG合戦でリードを保ちつつ、相手に疲れが見えてきた終盤に差し掛かってから、最大の武器である両翼の快速WTB、マピンピ選手、コルビ選手を走らせ、相手の戦意をそぐに十分なトライ&ゴールで試合を決める。

試合が始まるまでは、”あのニュージーランドを倒した”イングランドの勢いが相手を凌駕する展開もあると思っていたし、策士・エディ・ジョーンズHCがどんな作戦を仕掛けてくるのか、というところにもっぱら関心があったのだけれど、始まってみれば、正面から力勝負を挑んだ南アフリカがいいところを全部出して勝った、という結果で、よくこのチーム相手に日本があそこまで戦えたなぁ・・・と思うくらいスプリングボクスは強かった。

そして、一夜明けた今日の朝刊に載ったのが以下の記事。

「ベンチに下がった主将のフランカー・コリシは、勝利を確信したかのように試合終了前から静かに涙を流していた。初の黒人主将としてチームを率い、手にした南アフリカ3度目の優勝カップを感慨深げに高々と持ち上げる。「これまで味わったことのない境地。今までの人生でベストの経験だ」
「チームは人種の融合が進む一方、母国では問題がまだ色濃く残る。「様々な背景があっても協力すれば目標を達成できる。国のために勝って誇りに思う」と喜びをにじませていた。」(日本経済新聞2019年11月3日付朝刊・第27面)(強調筆者、以下同じ)

思えば、南アフリカのW杯初優勝は、自国開催の1995年。

時のマンデラ大統領が、支持層の批判を受けつつも、ホスト国の指導者として「白人のスポーツ」だったラグビーの自国代表に声援と称賛を送る姿こそ、かの国の歴史が動いた一つの象徴だった。

あれから四半世紀。極東の地で、同国代表初の黒人主将の下で迎えた3度目の優勝。

ヨハネスブルクは未だに渡航先としては世界で最も危険な部類に入る、とされているし*1、日頃、かの国に関して日本に伝わってくるニュースも、「政情不安定、賄賂も横行」といった芳しくないものばかりなのだが、それでも時代はちょっとずつ前に動いている。

フィールド上で歓喜に沸く彼らの姿を見て、そう感じることができたのは、実に幸福なことだったと思うのである。

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*1:自分はまだ行ったことがないから、あくまで伝聞の域を出ないのだけど・・・。

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