先週、世を騒がせた「小野市消しゴム事件」。
確かに「MONO」消しゴムを連想させるデザインであることは明らかなものの、ロゴに関してもデザインの配色に関しても、商標法の世界では明らかに「セーフ」な話なわけで、自分が最初にこの件に関する記事を見たときの率直な感想は、「何でこの程度のパロディが問題視されて回収という事態になってしまうのか。残念な世の中になったものだ・・・。」というものだった。
特に違和感があったのは、最初に配信された記事の中で、
「原則として見た目が酷似した模倣品の製造を許可することはない」(日本経済新聞Web 2019年11月5日11:23配信/共同)
というコメントが、「トンボ鉛筆の広報担当者」のコメントとして掲載されていたこと。
いくら似ているといっても、このデザインが使われている文脈(小野市観光協会による地域振興策)まで合わせて考えると、「模倣品」という表現を用いること自体がどうかな、と、モヤモヤした思いで眺めていた。
それから数日。
改めていろいろな記事を眺めている中で、見つけたのがANNの配信記事*1。
そして、その中で、トンボ鉛筆の見解が、
「今回のケースについて「地域振興が動機であり、模造品とは考えていない」としたうえで、「事前に許可さえ取ってくれれば問題なかった」と取材に答えています。」(強調筆者、以下同じ)
と紹介されているのを見て、ちょっと安心した。
以前、許諾を出す側で仕事をしていたこともあるから、「有料での販売はやめてほしい」という思いは凄く理解できるし、「事前に相談してくれれば、適切な落としどころを探れたのに・・・」という思いも非常によく分かる。
そうなると、「景品としての利用」までやめてしまった小野市観光協会の対応はどうだったのか?ということになるのだが、報道を見る限りだと、これは理屈の問題、というより、”委託業者が虚偽の説明を繰り返した”ことに対する一種の制裁、と理解する方が良いのかもしれない。
今回、観光協会から委託を受けていた業者が、本当に何もしないまま「許諾をとった」という「虚偽の」事実を市側に報告していたのか、それとも、トンボ鉛筆の本来の窓口ではない箇所にヌルっと確認してことを進めていたためにこうなってしまったのか、ということは正直分からないし、厳密に言えば、そもそも法的には、正式な「許諾」まで得る必要はない話でもある。
ただ、もし、観光協会が「ちゃんと正規の許諾をとってくれ」という指示をしていたにもかかわらず、それが適正に履行されていなかったのだとしたら、受託業者としては本来の責任を果たしていなかったと言わざるを得ないし、たとえその指示が(公的機関ならではの)「風評を気にした」という程度の動機に基づくものだったとしても、指示は指示。結果的に、「そんなもの使えるか!」という話になってしまうこともむべなるかな、という気はする。
実のところ、「MONO消しゴム」に関しては、あまりの有名さゆえに、あのデザインが色彩商標を取得する以前からパロディ的に使われていた事例はそれなりにあったのではないかと推察する。
「売り物」ではないが、新海誠監督のアニメ作品の中で、あのお馴染みの三色デザインの上に「MOMO」とか「NOMO」と書かれた消しゴムが小道具として出てくるシーンがあることも、「秒速5センチ」や「言の葉の庭」といった名作を繰り返し見ているファンであればよくご存じのはずだ*2。
だから、上で見てきたような経緯に照らしても、今回の観光協会の企画が「外部から」*3突っつかれて「中止」に追い込まれたことや、それが(知財的な意味での)「不適切事例」として紹介されていることについては、いろいろ思うところもあるのだが、それが今の世の中だ、とあきらめるべきなのか?
それとも、もっと社会が寛容性を発揮できるように、知的財産法の本質を世の中に広く伝えていくべきなのか?
米国のように、法廷で徹底的に争うことで「パロディ」が認められる射程を明確にしていく、というアプローチがこの分野で適切な手法だとは決して思わないのだけれど、誤った方向への「萎縮」効果が生じないようにする、ということだけは、やはり常に意識しておく必要があると思うのである。
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*1:「ONO消しゴム」似ているので…小野市PR企画中止(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
*2:あの映像のワンシーンのためにわざわざ許諾をとっているとは想像しにくいし、もし許諾をとっていれば「MOMO」ではなく、ちゃんと正規のロゴで登場させるのではないかと思う。