馬主冥利。

中央競馬のカレンダーも、「2歳GⅠ」の時期に突入してくると、いよいよ今年も終わりだなぁ、という雰囲気になってくる。

そして、この日は、様々な場面で「馬主」の存在感が目立った。

まず中山競馬場、メインのカペラステークスで圧倒的な強さを見せて2連覇を飾ったコパノキッキング。
鞍上はもちろん、今年のフェブラリーステークスからコンビを組み続けた藤田菜七子騎手で、これで見事に堂々の中央重賞初勝利を飾った。

4連勝で臨みながら、外を回して5着に敗れたフェブラリーSを皮切りに、東京スプリントクラスターカップと、必勝を期したはずのレースを落とし、東京盃こそ勝利を収めたものの、JBCスプリントではあと一歩のところで伏兵ブルドッグボスに屈する・・・。

単勝馬券で勝負していた人の中には、「鞍上が別の騎手だったら・・・」と思った人も決して少なくなかっただろうが、それでも藤田騎手一点指名を変え続けなかった小林祥晃オーナーの思いは、今年最後のダートスプリント重賞で見事に実を結ぶことになった。

こだわりを持つ個人馬主の英断がもたらした、「日本人女性初」の偉業。

そこまでお膳立てしなくても・・・という声は当然聞こえてきそうだが、藤田騎手は今年既に42勝でリーディング26位。
今や横山典弘騎手と並ぶポジションにまでのし上がってきているわけで、「指名」を受けても何ら不思議ではないポジションにいる、ということも、書き留めておかなければならないだろう*1

黄、赤一本輪の勝負服とともにようやく手に入れた勲章が、この先より新たな地平を切り開く一歩になるのだとすれば、小林オーナーの漢気も後々まで語り継がれるのだろうな、と思うのである。

一方、海を渡った香港マイルでのアドマイヤマーズの走りも見事だった。

中心部では「80万人デモ」の発生も伝えられる中、日本馬が華々しく3勝を飾ったのが今年の香港国際競走だったのだが、中でも、同レース2連覇中で1番人気を背負ったビューティージェネレーションやマイルCSを勝ったばかりのインディチャンプを差し置いて、5番人気から優勝を遂げたアドマイヤマーズのインパクトは相当強かったわけで・・・。

今でもまだ名義としては残っている故・近藤利一オーナーの話は先日のエントリーでも書いたばかりなので、繰り返さないけど*2、レース後の友道康夫調教師のコメントが実に泣かせるものだったので、引用しておくことにしたい。

近藤オーナーが香港のために仕立てたスーツを、今日は私が着て臨みました。馬の具合は本当に良く、道中もジョッキーと事前に立てた作戦どおりでした。ゴールするまで必死に応援しました。3歳馬でこのレースを勝った馬はいないとのことなので、すごく嬉しいです。世界のマイル王を目指してこれからも頑張ります。日本に帰ってから近藤オーナーに良い報告ができます」(強調筆者)
[【香港マイルレース後コメント】アドマイヤマーズ友道康夫調教師ら | 競馬ニュース - netkeiba.com

「死しても馬が名を遺した」というと大げさかもしれないが、富士S惨敗の後に、オーナーの死を挟んで見事に復活を遂げたこの馬の底力と、それをさらにドラマ仕立てにした調教師の”粋”に心から感銘を受けたのは確かである。

そして最後に、阪神メインの阪神ジュベナイルフィリーズ

逃げたまま後続に影を踏ませず、5馬身差でタイトルを手に入れたレシステンシアの強さは圧巻だったが、馬主はクラブ法人
今日のエントリーの文脈では何の関係もなさそうに思えるのだが・・・。


この馬の当歳時の募集価格はわずか65,000円/一口。

一口30万円のクリソプレーズの子(ヴァ―ダイト。マリアライトクリソライトという傑出した兄姉がいた(今ではクリソベリルというさらに超級の兄も活躍している)こともこの価格の背景にはある)を筆頭に、20万円台、10万円台の馬がずらっと並ぶこのクラブにおいて、この値段は破格の安さといっても過言ではない。

そんな馬が、世代最初のGⅠ馬になってしまう、という不思議さと、それを見抜いた一口所有会員の慧眼ぶりといったら・・・*3

確率論でいっても、「良い厩舎で大事に育ててもらえる可能性」でいっても、華々しい栄光を身近に感じたければ高額馬に投資するのが早道、という事実を否定することはできないのだが、そんな中で時々起こる”変異”こそが競馬の面白さだし、それをわが物にすることができたなら、「馬主冥利」に尽きるだろうなぁ、と、ため息をつきながら眺めていた週末。

残りあと2.5週、という状況ではあるが、あとほんのちょっとの運が巡ってくることを信じて、天に祈りを捧げることにしたい。

*1:小林オーナーの藤田騎手の起用は目立つが、勝利数としての貢献はこの日の重賞勝利を含めて僅か4勝に過ぎず、残り38勝分の信頼は、彼女自身が他のところから勝ち取ってきたものだ、ということも、忘れてはならない。

*2:名物オーナー逝去の報が思い出させてくれたこと。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照

*3:それに引き換え、同じクラブでより高額の馬たちを複数所有しながら、現時点でまだ1勝しか挙げられていない自分のふがいなさといったら・・・。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html