それでも自分は「出版」に期待する~「ブックガイド2020」に接しての雑感

何だかんだといつものように年末を慌ただしく過ごしてしまったこともあり、目を通すのが延び延びになってしまったBusiness Law Journal年末恒例の「ブックガイド」特集。

Business Law Journal 2020年 02 月号 [雑誌]

Business Law Journal 2020年 02 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
  • 発売日: 2019/12/21
  • メディア: 雑誌

この企画の意義については、改めて自分が力説するまでもないだろうが、とにかく創刊以来10年以上にわたって同じ企画を続けてきた、というだけでも(法務関係書籍の移り変わりを経時的に追っかける、という点で)価値はあると思っているし、毎年1つ、2つは、紹介された書籍以上に、それを紹介した書き手の方のファンになってしまう、というような胸を突くコメントが載っているのも、掛値なしに凄いと思うゆえんだったりする*1

ちなみに、今年の「弁護士・法務担当者・研究者が薦める理由」の各論稿の中での自分の一押しは、照井勝弁護士の「著作権実務を深く、広く、遠く学ぶために」*2で、法律書からそれ以外の分野まで、紹介されている書籍のバランスが絶妙だし、それぞれの理由付けも含めて実に味わい深いなぁ、と思う*3

また、化学メーカーの法務部マネージャーの方が匿名で書かれた「法務担当者に求められる能力開発と視野の拡大」*4の最後で『総会屋とバブル』(尾島正洋)を紹介するにあたって添えられていたコメントにも、個人的には感じ入るところが多かった。

「なぜ薄給のサラリーマンが株主総会というイベントに文字通り命を懸けなければならないのか。今の時代からみると、理解に苦しむところがありますが、遠い昔とはいえない1990年代までの実話ということに恐怖を感じます。」
株主総会シナリオをはじめとする運営マニュアルは、このような時代を経て蓄積されたノウハウの塊であり、その重みを改めて感じざるを得ません。ただ、あまりにも重過ぎて、時代に合わせて柔軟に変えることも容易に許されなくなってしまったというのは、後継の世代にとって大きな足かせです。」(54頁、強調筆者)

ということで、今年もそれぞれの方が書かれている論稿に目を通すだけで得られるものは多いと思うのだが、その一方で、「紹介されている書籍」それ自体に目を向けると、「これだけは何としても・・・」というパンチの利いた書籍は少ないのかな?と思わせられるのも事実だろう。

もちろん、法改正に対応した解説書等、その時々のニーズに合わせた書籍に関しては、様々な分野で紹介する声が寄せられているし、そういった評判を合わせ読めば、大体これを入手しておけばよいのかな・・・というものもチラホラ取り上げられているのだが、そういうものを超えてより長いレンジで役立てることができそうな書籍、これまでにない着眼点やコンセプトを打ち出した書籍、というのは、今年に関してはあまり出てきていなかったように思われる。

あえて”小出し”で記すなら、かつての「法務担当者のための・・・」シリーズだったり、「セオリー」、「技法」、「教科書」のシリーズだったり、最近では「考え方」だったり、年に一冊、二冊は「これだ!」と膝を打ちたくなるような名著が世に送り出されていたものだったのだが・・・。


もちろん、そう感じる原因は自分自身にもあるのかもしれないな、と思うところはある。

特に、自分がちょっと掘り下げて、こだわって取り組んできた分野であればあるほど、見る目は厳しくなっていくから、書店で目を引くようなちょっと凝った題号が付されていたり、ちょっと洒落た装丁になっていたりしても、中の構成と、ここがキモだろうと思っている箇所の記述を見て、首をひねって買うのを思いとどまる、というケースは10年前、20年前に比べれば明らかに増えたのは確か*5

また、最近ではWeb上で、タイムリーに良質なコンテンツを提供してくださる専門家もかなり増えてきているので、仕事に関係しそうなネタはその時々で追いかけて整理してしまえば事足りる、ということも増えてきていて、その代わりに活字で触れるのは、土地勘の乏しい分野のものだったり、実務には直結しない気分転換のコンテンツだったり、という「棲み分け」もまぁまぁ加速している。

ただ、「本当にクオリティの高い法務系の書籍は、読み手を選ばない」ということは、これまでのいくつかの名著が十分に証明してきたことでもあるわけで、そこはやっぱり自分の”感度”だけで片づける話ではないのかな、と。


これだけ多様な情報が世にあふれている中で、わざわざ時間とコストをかけて「書籍」とか「雑誌」という形をとって情報を世に送り出すことの意味が、年々希薄になっていることは否定できないし、公刊される書籍の点数は決して減っているようには思えないのに、それらが陳列される書店のスペースは(そして書店そのものが)、年々減る一方で、ますます一冊一冊の本に目が届きにくくなっている、という現実もある。

だから、もう「新しい何か」はあきらめて、定番の基本書と、定評のある実務書の改訂版だけを追いかけていく方が賢いのかもしれないが、それでもまだ、自分は「法務」という仕事のエッセンスを世の中に伝えるために「書籍」というツールが生きる可能性はあると信じている。そして、これまで企業や各組織で、当たり前のように承継されてきたことが承継されにくくなっている今だからこそ、かえって高まっているニーズもあるような気がするだけに、「2020年」という年が再び新しい法務書籍文化の始まりの年となることを、信じてやまないのである*6

*1:さしづめ、「法務業界版『私の本棚』」とでも呼ぶべきだろうか。そもそも「書評」は、誰でも共通してアクセスできる素材を元にその人なりの受け止め方・解釈を示すものだけに、オープンなテーマで書かれた論稿以上に、その人の個性とか、それぞれの読み手との距離の遠近がくっきりと浮き彫りになるものであるようなような気がする。

*2:Business Law Journal2020年2月号64頁以下。

*3:自分はまだ読んでいない書籍ではあるのだが、『剽窃論』などは紹介の文章を読むだけで手に取りたくなる。

剽窃論

剽窃論

*4:Business Law Journal2020年2月号52頁以下。

*5:自分個人としての購買力自体は当時より明らかに増しているはずなのだが・・・。

*6:以上、自身へのプレッシャーも込めて。とはいえ、最初の一文字を書きだすところからし難行苦行、悪戦苦闘、という状況なので、どうなることやら・・・。

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