「2019年JRA賞」の大波乱が示唆する新時代の幕開け。

いつも年が変わって早々に発表される競馬界の風物詩「JRA賞」。

騎手、調教師部門は、昨年の全開催が終了した時点の成績で有無を言わさず決まるのだが*1、記者投票の結果を見るまで分からないのが、「馬」の部門。

そして今年は蓋を開けてみたら、昨年までとは大きく傾向が変わる結果となった。

年度代表馬、最優秀4歳牝馬 リスグラシュー

昨年(アーモンドアイ)に続く牝馬の受賞。宝塚記念有馬記念の両グランプリレースを制した上に、海外でも豪州コックスプレート制覇をはじめ健闘を続けていたから、この受賞は決して「意外」とまでは言えない。

ただ、過去の年度代表馬が、(GⅠタイトルはともかく)少なくとも3つ、4つは国内重賞のタイトルを持って受賞するケースが多かったことを考えると、国内重賞のタイトルが前記GⅠ2レースだけ、しかも春先の金鯱賞では2着に入って善戦、と評価されていた馬がここでタイトルをとったというのは、何だか不思議な気もする*2

そして、2008年、牝馬として約10年ぶりにウォッカがこのタイトルを受賞して以来、牝馬が「12年間で7度」と牡馬を圧倒している状況にはいろいろ考えさせられるところもある。

一方、ホントにびっくりな結果となったのが以下の部門である。

最優秀2歳牡馬 コントレイル

これまでこの部門はほぼ100%、朝日杯FS馬が受賞していたのだが、ホープフルSのGⅠ昇格3年目にして、遂に定番の公式が崩れた*3レイデオロ、サートゥルナーリアと、クラシック馬も相次いで輩出できるレースになったことが記者の固定観念を打ち崩す結果になった可能性もあるが、次点のサリオス陣営としては脱力感が半端ないだろうな、と思う*4

最優秀3歳牡馬 サートゥルナーリア

このタイトルも、基本的にはダービー馬、あるいは古馬GⅠを制覇した馬、というのがそれまでの定式だったのだが、今年は混戦の末、皐月賞一冠にとどまったサートゥルナーリアが受賞*5

最後に有馬記念で2着に食い込んだとはいえ、香港マイルを制して年間GⅠ2勝のアドマイヤマーズとの比較で、この馬が受賞に値するのかどうか、というのは疑義も残るところだろう。
アドマイヤマーズの場合、国内での負け方があまり良くなかった、という問題はあったし、昨年の最優秀2歳牡馬のタイトルを、僅差でサートゥルナーリアから奪っていたことが今回逆効果になった可能性もあるが、やはりここは「意外」というフレーズが付いてくることは避けられないような気がする。

最優秀3歳牝馬 グランアレグリア

この部門も桜花賞一冠の馬がオークス馬に競り勝って受賞。

確かに桜花賞での勝ち方は圧倒的だったし、年末に阪神カップを勝った勢いも買われたのかもしれないが、三冠レースへの出走はその一度だけ。シーズンの間、休んでいた時期も長かっただけに、”不思議”という感覚はどうしても残る。

最優秀4歳以上牡馬 ウインブライト

もしかすると、今年一番のサプライズはこの馬かもしれない。

何といっても、国内のGⅠ勝利が一つもない馬で、勝った国内重賞は中山金杯中山記念というマイナーなものだけ。その代わりに香港でGⅠ2勝しているから、海外遠征して結果が出せなかった他の馬に比べると受賞に一歩近かった、ということなのかもしれないが、春秋のマイルGⅠ制覇という偉業を成し遂げたにもかかわらず次点となってしまったインディチャンプ陣営としてはいろいろ言いたいこともあるだろう。


・・・ということで、昨年までとはガラリと傾向が異なる結果となった。

雑に総括するならば、これまでのような「このタイトルをとれば部門賞受賞」というしがらみがなくなり、さらに「海外タイトル」の重みがかなりのレベルで重視されるようになったのが今回の結果ともいえる。だとしたら、これこそが、これからJRAと競馬関係者が目指すべき方向を示すもの、といえるような気もしている。

思えば、「牝馬3冠」の価値が素直に評価され、3歳牝馬ジェンティルドンナ年度代表馬に輝いた2012年は、それまで長年下降の一途を辿っていたJRAの売上が15年ぶりにプラスに転じた、という点で、ある種のターニングポイントとなった年でもあった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

その後、JRAの売上は、それまでの低迷が嘘のように年々増加を続け、2019年まで8年連続で前年比プラスという上昇カーブを描いている*6

だから、自分は、今回の結果も、さらにもう一段上のレベルに向けた起爆剤になることを願ってやまないのである。

*1:2019年は最多勝利、最多賞金の2部門でクリストフ・ルメール騎手が受賞、川田騎手も最高勝率部門で一矢報いて気を吐いた。最優秀障害、最多勝利新人騎手部門から、安田隆行中内田充正矢作芳人の3調教師が仲良くタイトルを分け合った調教師部門まで栗東勢が全てのタイトルを独占した、という極端な”西高東低”となってしまったが、新人からベテランまで、今の東西の勢いの差を考えるとやむを得ない気はする。

*2:最近では、2014年にドバイと有馬記念のタイトルだけで年度代表馬に輝いたジェンティルドンナのケースなどもあったが、彼女には「牝馬三冠」で一度年度代表馬をとっていた、という”格”もあったから、それと比べてもちょっと雰囲気は異なっている。

*3:朝日杯FS勝ち馬のサリオスは77票を獲得したもののコントレイルの197票の前には歯が立たず・・・。

*4:デビュー2戦目で重賞制覇、3戦目で無傷のGⅠ勝利を飾ったコントレイルが逸材であることは間違いないが、サリオスもほぼ同じような過程で無傷の3連勝、GⅠ制覇を成し遂げているから、こんなに差を付けられる馬ではないはず。こうなったら直接対決で来年決着を付けてくれることを願うほかない。

*5:サートゥルナーリアは僅か124票、僅差でアドマイヤマーズが107票で続き、次にダート古馬混合GⅠを制覇したのクリソベリル24票、ダービー馬・ロジャーバローズ15票、菊花賞馬・ワールドプレミア3票、該当馬なし1票、と続いた。

*6:さらにその余波は地方競馬にまで波及し、一度は絶滅寸前と思われたローカル競馬も息を吹き返しつつある。

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