3年越しで議論が続いている著作権侵害コンテンツのダウンロード違法化問題は、既に舞台が審議会から「政治」の場に移っているのだが、そんな中、自民党内でまた一つ動きがあったようである。
「自民党の知的財産戦略調査会(林芳正会長)は3日、萩生田光一文部科学相に、海賊版対策を強化する著作権法改正に関する提言を提出した。「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情」がある場合は違法なダウンロードとする対象から外すことを求めた。政府は提言を踏まえ、月内にも通常国会に改正案を提出する。」(日本経済新聞2020年2月4日付朝刊・第4面。強調筆者、以下同じ。)
この提言が、本来なら主戦場になるはずの文部科学部会ではなく、「知的財産戦略調査会」から出ている、というあたりはいろいろと興味深いところだし、そのうち出てくるであろう”内輪話”も聞いてみたい気はするところ。
そして、もっと興味深いのは、元々、「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会」において、意見を一つに集約することができていなかった「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」を入れるかどうか、という論点に関して、「折衷案」②で行く、という判断がされたことだろう。
検討会報告書*1には、以下のような条文イメージが掲載されている(13頁)。
【②「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く」】
著作権(第二十八条に規定する権利(翻案により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。)を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途(特定侵害複製以外の方法による利用の困難性の程度を含む。)並びに当該特定侵害複製の目的及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。)
報告書(12~13頁)に記されているこの案のココロは、以下のようなものであり、これ自体は筋の通った理屈であるように思える。
「今回は、違法にアップロードされたものを違法と知りながらダウンロードする行為を対象にしており、さらに軽微でも二次創作でもないものだけが対象となる。これらの要件を満たす場合には、基本的に権利者の利益を不当に害すると思うが、例外的なケースがあり得ないわけではないため、安全弁は必要。ただ、除かれるのは特別な場合であるため、「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別の事情がある場合を除く」と規定しても良いと思う。権利濫用という一般法理で除外されるべき事例はあるので、その趣旨を著作権法上も明確化しておく意味で、そのように規定することが中庸ではないか(※他の構成員から、この折衷案に賛成するとの意見あり)。」
この案は、「著作権者の利益を不当に害する(害しない)」という要件を入れるべきではない、という意見を除けば、もっとも権利者側に配慮した案といえるものだから、昨年、土壇場で法案提出が見送られた経緯等も踏まえるなら、「ネット世論を気にする自民党」にしては、いささか意外な判断のようにも思えるところだが、自分としては1月時点のエントリー(注2)でもコメントした通り、そもそもこの要件の有無が、具体的な場面での解釈を変えるほど大きなインパクトを与えるものだとは思っていなかったから、まぁどちらでも良かったのではないかな、というのが正直な感想である*2。
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
ただ、昨年からの流れで相当大きなボリュームになっているSNS上の「違法化反対」派の人々が、これで納得してくれるかどうかはまた別問題なわけで、この先どういうふうに議論が盛り上がっていくのかは気になるところである。そして、この先何が起きるか分からない今国会の会期中に、今度こそ著作権法改正案を国会提出するところまでいけるのかどうか、温かく見守りたいと思っているところである。
*1:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/shingaikontentsu/pdf/91997502_01.pdf
*2:どっちにしても、この法改正後に、「違法化」の根拠条文が現実にエンフォースメントされることなど容易には考え難いのだから・・・。