昨日「4週間以内に」という報道に接した時は、「何を悠長なことを・・・!」という思いが頭をよぎったのだが、いざ動き出したら一晩で決着。実に早かった。
「安倍晋三首相は24日夜、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で協議し、夏の東京五輪・パラリンピックを1年程度延期することで合意した。遅くても2021年夏までに開催すると確認した。新型コロナウイルス感染の収束が見通せず、選手らの準備期間なども踏まえて判断した。」(日本経済新聞電子版2020年3月24日21時13分配信、強調筆者、以下同じ)*1
これは実にグッジョブ!で、商業的に成功するあてもないままズルズルと「予定どおり開催」に持ち込まれたり、結論を先延ばしされていたりしていたら、確実に苦境に陥ったであろういくつかの会社が、当面の間「専守防衛」に徹することができるようになったということは非常に大きいし、完全な「中止」ではなく2021年に向けた開催の可能性が残ったことで、(ここ数か月さえしのぎ切れば)国内経済を再浮揚させるきっかけが生まれた、という意味でも、的確な判断ではないかと思う。
もちろん、今は(相対的には緩やかなスピードとはいえ)素人目にはどう見ても状況は悪化の一途を辿っていて*2、来月、三大首都圏で都市としての機能が発揮されているかどうかも個人的には怪しいと思っているので、ここから先の一年が、これまで誰も経験したことのなかったような険しいものになる可能性も否定できないのだが、オリンピック125年の歴史の中で、いまだかつてどの国も都市も経験したことのなかったイレギュラーな事態を乗り越えて開催にこぎつけることができるなら、それは「東京」に、そして「日本」に刻まれる新しいブランドになるわけで、ある意味、こんなにおいしい話はない。
そして、昨日のエントリー*3でも触れたとおり、「非常時」だからこそ、これまで批判されていた様々なしがらみを少し解きほぐして、新しい方向性を模索していくことだってできるはずだ*4、と自分は思っているので*5、今は、結果的に「1年延ばしてよかった」と言えるような祭典になることを心の底から願うばかりである*6。
ひと時の狂い咲き相場、というなかれ。
で、市場の方に目を移すと、今日は投機マネーの買戻しに加え、当面の悪材料出尽くしで挽回を狙う個人投資家が参入したのか、「根拠なき熱狂」ともいうべき上昇相場になり、日本を皮切りに中国から欧州まで、そしてこの時間には米国まで上昇一辺倒の展開になっている。
もちろん、今日も下方修正を出す会社、特損計上を公表する会社が多々ある状況で、決していい材料がたくさん出てきている、という状況ではなく*7、相場に関しては、いつ金の流れが逆流して、二番底、三番底で地獄を見ても不思議ではない状況ではある。
ただ、最近出始めた一部の「悲観論者」がいうほど、今起きていることの経済的な影響が後々まで尾を引くとは自分は思っていない*8。
むしろ、今の状況は、F1レースが終盤に差し掛かってレースの勝敗が見えかけたところで、突如予期せざる大クラッシュが起きてセーフティカーが投入されたような状況で(一部のチームは強制ピットイン・・・)、エンジン性能の相対的劣化やピット戦術のまずさゆえに、優勝争いから引き離されかけていたチームにとっては、レース再開後の一瞬の攻防を制することで、息を吹き返すチャンスともいえる。
「グローバル化」こそが経済発展のキモだ、と信じていた人々にとっては、今は悲観的になるしかない状況だろうし、打撃を受けている業種の中に目に付きやすい華やかな産業が多い*9ということもあって、何かとマイナスのイメージが刷り込まれやすいのは確かだが、こんな状況下でもたくましく稼いでいる事業者はいるし、むしろ「この状況こそ商機」と捉えて、食い込もうと意気込んでいる事業者だっているわけで、そういったところに目を向け、限りあるヒト・モノ・カネの資源を向かわせていくことができれば、今年の10-12月期くらいから一気に反転攻勢、という展開も、決して非現実的なものではないと自分は思っている*10。
今日一番のリリース
さて、そうはいっても、今日一番の注目は、個別企業の業績よりも何よりも、東京証券取引所が出した以下のリリース*11だったのではないかと思われる。
「さて、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、法務省から、「定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお、会社法は、株式会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項)、事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。」と示されております。」
「仮に3月期決算の上場会社が今期事業年度終了後3か月以内に定時株主総会を開催できないこととなり、配当金その他の権利の基準日を事業年度末日から変更することとなった場合、3月30日以降変更後の権利付最終日において当該銘柄を保有していない場合は、配当その他の権利が付与されないこととなります。」
「投資者の皆様におかれましては、上場会社の定時株主総会の開催日程等によっては、そうした事象が生じる可能性がある旨を御留意いただきますようお願い申し上げます。」(強調筆者、脚注略)
確かに、気が付けば3月期決算会社の配当取りのタイミングが間近に迫っている時期。
手慣れた投資家なら、一日にして一銘柄数十万は平気で吹っ飛ぶこの時期に、「配当目当て」で資金を投入するような愚かなことは避けるだろうが、それでも、年度末を挟んで相場の上昇基調が続くようなら、損益と配当の両方ををにらんだ投資戦略を考えたくなるところではある。
だが、そんな感覚が染みついた素人たちに冷や水を浴びせ、現実に立ち返らせてくれたのがこのリリースなわけで・・・。
今までなら「何が起きようと、予定されていた基準日を変更してまで定時総会の時期をずらすなんてありえない」というのが常識。
でも、随所で”サバイバルゲーム”のような光景が続出している3月総会の流れはおそらく6月まで続く可能性が高いし、そもそも、今の状況がより長期化するリスクを考えると、3月末時点の帳簿上の配当原資だけを見て配当を決めたくない、という感覚に襲われる会社が出てきても全く不思議ではない*12。
それゆえ(結果的に杞憂に終わる可能性は十分自覚しつつも)、この先1か月くらいは、「基準日を信じるな!」という東証の警句を忘れずに過ごさねばな、と思った次第である。
*1:東京五輪、21年夏に延期 首相がIOC会長と合意 :日本経済新聞
*2:24日中に判明した感染者の数字も、これまででは最高レベルに達していて、週が変わる頃には100人/日を超えるペースになることは避けられないように思われる。
*3:今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月23日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~
*4:最近の開催国の中で、唯一といって良いほど「反対運動」を社会的に盛り上げきれなかった日本で、こういうイレギュラーな事態が起きたのは何とも皮肉なことというほかないのだが・・・。
*5:もちろん、今の騒動が収束して、米国、欧州が「平時」に戻ってしまった瞬間に、あらゆる柔軟な思考を巡らす機運は失われ、これまでどおりIOCが既得権益の「壁」として立ちはだかることになってしまうのは目に見えているのだが、それまでの間は、ホスト国としてのアイデアを打ち込めるチャンスは十分にあるのではないかと思っている。
*6:1年「程度」というバッファーをフルに生かして、全国の桜がまだ散り切らないくらいの季節に開催時期を移すことができるなら、なお言うことはない。
*7:特に、前回発表予想を大幅に下方修正して赤字転落見込みを公表したKNT-CT ホールディングス㈱の数字のインパクトは大きかったし(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200323482497.pdf)、それをそのまま引き取ってさらに増幅させた印象のある親会社近鉄グループホールディングス㈱の下方修正(営業収益550億円下方修正、各利益も200億円台のマイナス着地を予測)(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200228471431.pdf)も状況の深刻さをうかがわせるには十分すぎるものではあった。もちろん大手旅行代理店に関していえば、ここ最近はOTAに食われ、ドル箱だった韓国ツアーも不振で「コロナ」がなくても決して芳しい状況ではなかったのであるが・・・。
*8:もちろん、この後の状況がどこまで悪化するかにもよるわけで、生産年齢人口の何分の一かが失われるような事態になれば、より深刻な事態になることもありうるが。
*9:サービス分野でいえば、空運、陸運、旅行、飲食、宿泊、高額品小売、イベント主催等々、製造業でいえば自動車や大型機械&その関連産業など。もっとも、前者に関していえば、これまでも注目度に比べれば経済に与えるインパクトは大きくなかったし、後者に関していえば、リーマンショックの頃と比べると、今や日本の産業の中での製造業のインパクトは決して大きくない、ということにも留意する必要があると思っている。
*10:そもそも、景気なんて相対的な「山」と「谷」の関係で、良い悪いが決まってくるものだから、1-3月期から4-6月期までの落ち込みが大きければ大きいほど、その後のリバウンドも大きくなる(ように錯覚する)わけで、その意味でも来年春くらいの「五輪開催」というのは、面白い選択肢ではないかな、と思うところ。
*11:2020年3月期末の配当その他の権利落ちについて | 日本取引所グループ
*12:急に「総会を延期せよ、基準日を設定し直せ」と言われるとかなり大変なことになるが、最初から「6月にはやらない」と腹を括ってしまえば、それはそれでオペレーションとしては充分回る気はする。