月の区切り、かつ、ついでに年度まで変わった昨日は、それまでだいぶ落ち着いてきていた23区内の人出がまた逆戻りしてしまったようで、日中はどこに行っても人の多さばかりが目についた。
もちろん、月末から月初(そして多くの会社では年度末から年度初)という一番ややこしいタイミングゆえ、どうしても「紙」で大量に出てくる請求書やら伝票の処理やらで、やむなく出社した人もいたとは思うけど、年度初めの社長の訓示だとか、新入社員の受け入れだとか、といった、今この状況下においてはどうでもいいことで駆り出された人も少なくなかったはず*1。
「持病がなければ大丈夫」、「若い人は重症化しない」、「子供は感染しても平気」等々、これまで”常識”のように言われていたことが、ことごとく覆されるような事例も出てくる中で、つい1,2週間前に比べれば、より多くの人が危機感を共有できるような状況になってきているとは思う。
ただ、それでも、どこかで、「一日くらいは」とか、「この行事だけは」「この会議だけは」みたいな平時の発想から抜け出せない人たちは、それなりにいるわけで、いくら何週間も在宅でしのいだところで、「一日の隙」が、全てをぶち壊してしまうのだよ・・・ということは、良識ある人々の手で改めて広く知らしめられて欲しいな、と思うのである*2。
そして、日が変わって、再びガクンと人が減ったにもかかわらず、あえて狭い空間でマスクを外してぺちゃくちゃ会社のグチで盛り上がっている中年サラリーマン集団とか*3、ファーストフード店を団体で訪れて茶飲み話をしている高齢の団体客とかが、姿を消したとき、ようやく「ピークアウト」の夢を見ることもできるのではないか、と思っているところである。
新型コロナウイルスの感染拡大下における「株主総会運営に係るQ&A」
さて、招集通知送付から当日まで、日々イレギュラーなオペレーションを強いられることとなった怒涛の3月総会が山を超えたのは、まだつい先日のこと。
中には、前年、当日出席で2,424名もの株主が議決権を行使していた会社が、今年は約20分の1の144名で総会を終えたという例もあり*4、今年の状況がいかに極限だったか、ということも良く分かる。
そんな中、本日、経済産業省と法務省の連名で以下のようなQ&Aが公表された。
中身を見ると、役所がオフィシャルに出したQ&Aとは思えないほど踏み込んだ記述になっている。
何といっても冒頭から繰り広げられるのが、
「Q1.株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能ですか。」(強調筆者、以下同じ)
(A)可能です。
感染拡大防止策の一環として、出席を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。
なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。
という問答。
さらに、様々な議論も出ていた「会場に入場する株主の人数を制限する」ことの是非についても、
「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えます。」
ときっぱり言い切っている。
「非常時」の落とし子とはいえ、これぞ「株主総会2020」。
当ブログでもグチがてらにいろいろと申し上げてはきたが*5、こんなに早くオフィシャルな動きが出てくるとは正直思わなかったわけで*6、関係者のご尽力には敬意を表するしかない。
幸か不幸か、最近チラホラと出てくるようになった「4月総会」の会社の招集通知を見ると、会場は前年までと変わらず「大きなハコ」を使っているところが多いし、招集通知上の「注意書き」も比較的おとなしめの記載に留まっている。
これらの会社の総会担当者たちが3月総会会社のあれこれをキャッチしていなかったわけではないだろうから、どうしてこうなってしまったのかは分からないのだが*7、このままいくと再び、総会当日に向けてイレギュラーな対応を強いられる会社は少なからず出てくるだろう*8。
そして、それに続く5月総会、6月総会ともなってくると、もうこれは最初から「全てを非常時モードにする」という覚悟がないと乗り切れないんじゃないか、とすら思う。
だが、だからこそ、今、このタイミングで踏み込んだ見解が示されたことの意味は大きいし、理論上のリスクを机上で想定してあれこれ悩む手間が省ける、という点で、担当者にとっては非常に心強い資料になるのではなかろうか。
そもそも総会以前に、決算が締まらず、事業報告に書き込む数字も決められず・・・という悪夢との戦いが待ち受けている会社もいくつかは出てきてしまう可能性もあるし、6月の話を今からしていると、現世最強の鬼、coronavirusに笑われてしまうかもしれないが、それでも、一つでも多くの会社が、猛烈な逆風下の「株主総会2020」を無事乗り切り、そして、「ポスト2020」ともいうべき、会社と株主との新しい関係の築き方を考えるきっかけを得られることを、自分は願ってやまないのである。
*1:各自治体も、保健所も、各地域の医療機関も、不眠不休で何とか感染拡大を食い止めようと必死で対応している中で、中央省庁が堂々と人を集めて「入省式」を行っている、というのはどうなのかなぁ・・・と、思わざるをえなかった。平時には「儀式」にもそれなりの意味があるのかもしれないが、今やるべきことと、そうでないことはやっぱりきちんと切り分けないと、事態はどんどん悪くなっていってしまう気がする。
*2:ここ数日公表されている感染例の中にも、三連休の間の”気晴らし”の会食等が原因と推察されるような事例は結構あった。3月中旬から在宅勤務に入っていたような会社ですら、だ。
*3:諸般の事情により、本年4月1日以降、特定の嗜好品をたしなもうと思ったら、極めて狭く、決して換気も良いとはいえない空間に強制的に押し込められざるを得なくなっているのだが、そういう場所に限って、「三密」を自ら作り出そうとする輩がより多かったりもする。
*4:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200331487423.pdf参照。しかも、最終的に書面投票や電子議決権行使の人数を合計すると、昨年よりも議決権行使株主数自体は増えている。
*5:直近の記事としては、災い転じて福となるか? ~厳戒体制下の「株主総会2020」が気付かせてくれたもの。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~。
*6:「Q5.新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能ですか。」という問いに対して、「株主総会後の交流会等を中止すること」という答えまで入れてしまっているのは正直余事記載(交流会はあくまで”余興”に過ぎず、本来、株主総会の有効性等に何ら影響するものではないのだから・・・)だと思うが、3月総会で起きたことをひたすら取り込んで後々まで残す、という意味ではこれもまた、意義のある記載といえるのかもしれない。
*7:ちょうど招集通知作成に向けた佳境の時期が、世の中に”緩み”ムードが出てきた時期に重なってしまったことが原因なのかもしれないが、「リスクを減らす」ための強い意思がもう少し前面に出てきても良かったかな、というのが率直な思いである。
*8:しかも、3月総会の時に増して、関係者の在宅勤務率は上がり、事務局の社員や壇上の役員が罹患する可能性も高まっているわけだから、「万が一」のリスクもより高まっているのは間違いない。