そこにあるのは、「本当に必要なことをピンポイントで訴えかけられない切なさ」かもしれない。

「緊急事態宣言」後、初めての週末。

ニュースでは、やれどこが閑散としていて、やれどこの人出が多かった等々の話題も出ていたが、多少のレベルの違いはあれど「人の数が減っている」ことに違いはない

中には「ずっと家にこもって一歩も外に出ないことが正義だ!」と思っている人もいるのかもしれないが、「ロックアウト」が喧伝されている海外の主要都市だって、今そこにいる人に話を聞けば、ちゃんと皆買い物くらいには出かけている。

自給自足で三食足るような大草原の小さな家ならともかく、都会の狭い家に住んでいる一般人は、召使いでも雇わない限り一歩も外に出ないで衣食住全部まかなうのは無理。そして、宅配便の配達員やウーバーイーツの配達員は「召使い」ではないのだから*1、外に出ること自体を非難するような風潮は、ホント勘弁してもらいたいものだと思う。

で、そんな時に、最近、かなり露出が増えてきた北大の西浦博教授のインタビュー記事*2とか、NHKスペシャルでのコメントに接し、専門家の知見を普遍的な「政策」に置き換えることの難しさを感じざるをえなかった。

ここで改めて説明するまでもないが、西浦教授のご主張の核になっているのは接触8割削減」である。

彼らが使っている理論上のモデルだったり、計算式が正しいかどうかを検証するような術を、自分が持ち合わせているはずもないのだが、感染症対策として、他人との接触を極力減らす、というのがもっとも有効な方法だ、というのは素人にも十分にわかる話。

そして、それを「三密」環境の問題だとか、いわゆる「夜の街」の問題といった、初期の感染判明者の感染経路等を地道に追いかけた結果辿り着いた推論と組み合わせれば、本来はそれだけで適切な対策になるはずだ*3

前記インタビュー記事の中でも、

ハイリスクのところの人の出入りを止めると、相当効果があると思います。」(強調筆者、以下同じ)

と一連の対策が「環境」に着目したアプローチから来ていることを強調された上で、

自粛というのは、接触を削減してもらうことだというのが、正確に伝わらないといけません。」
できることもあるということを理解してもらった上で、避けるべきところは上手に避けてほしい。屋内で複数の人が集まるような接触を控えてもらうと、二次感染は起きずに済むのです。」

と、本当の趣旨が接触回避」であることを明確に説明されている。

にもかかわらず、今、世の中で広く喧伝されているのは、「外出自粛」に(ある種無差別的な)「営業自粛」だったりするわけで・・・(ため息)。

もちろん、スーパーやコンビニ、一部のレストラン、カフェ等、まだ辛うじて営業できているところはあるものの、他の同業種の店が早々と閉めてしまった影響で利用客が流れたり、「営業時間の短縮」という逆効果施策の影響もあって、よほど時間帯を見定めていかないとかえってリスクを増しかねないような状況になってしまっているから、遅かれ早かれ「全面閉鎖」となる悪夢も頭をよぎる*4

その一方で、西浦教授が「踏み込めない」と匙を投げられている「夜の街」だとか、「居酒屋」の類の店が全面的に閉鎖されるにはまだまだ至っていない。

普通の居酒屋はともかく、「夜の街」に関しては、絡め手も含めてやろうと思えばできることはあるはずだし、ハイリスクと分かっているならまずそこから潰すのが最善手のはずなのだが、行政もその辺がどうも及び腰。

結果的に、広く網を掛け過ぎて、世の中の”鬱”感情を増してしまっているように思えてならない。


また、自分自身の経験でいえば、個々人のレベルで「接触」を減らすのも、そこまで難しいことではない、と思っている。

何よりも企業勤めをしている人間が平日狭いオフィスに一日中いるのをやめる*5だけで、他人と接触している時間帯を7割くらいは減らせる*6

それに加えて、電車に乗る時は極力密度の薄い空間に行く*7とか、人混みを避けて裏通りを歩く、といった工夫を積み重ねればあっという間に「8割」だ。

自分の場合、最近は、「家庭内での同時罹患のリスクを減らす」というのを名目に、休日でも食事や買い物を各人別々に片付けることが多くなっていて、さすがにやり過ぎかな、と思う時もあるが、いずれにしても、西浦教授が指摘されるように、生活の質をそこまで極端に落とさなくても、一人ひとりの工夫次第でどうにでもできるだろう、というのが、率直な思いだったりする。

それなのに、政策のベクトルは、必ずしもそういったピンポイントでのリスク回避の方向に向かっていない。

この週末も、飲食店を団体で使っているグループを見かけたし、そこまで極端ではなくても、カフェでもスーパーでも、複数人でおしゃべりしながら連れ歩いている人々はそれなりにいた。

外出の理屈としては「不要不急」ではないのかもしれないし、仮に「不要不急」だったとしても、週末に外に出ること自体を悪いと言うつもりはない。

ただ、大勢でつるんでワチャワチャするのが今やるべきことかと言えば、それは違うだろう*8

これが、行政サイドのミスコミュニケーションに起因するものなのか、それとも、幼い頃から「集団行動圧力」に晒されてきた世の中においては、「個」で行動する、というリスク回避行動を取ることを求めること自体ハードルが高すぎるのか(それでも「ずっと家にこもらせる」よりは、よっぽどハードルが低い話だと思うのだが・・・)、ようわからんところではあるのだが、とにかくやれるだけやってみる、という観点でいえば、「不要不急の外出自粛」といったフレーズで呼びかけるよりも、

「大人2名以上での同一行動は禁止」

と呼びかけた方が、よほどインパクトも効果もあるような気がする。


前記のインタビューや、Nスぺに登場された先生方の思いには反するかもしれないが、語弊を恐れずに言えば、

「今は感染拡大を止めるのが一番。『経済』に目配りするのはその後でいい。」

というのが今の自分の思い*9

ただ、一方で、

「ささやかな日常の『生活』まで壊してしまったら、何のための対策だか分からない。」

ということも声を大にして言いたいわけで、だからこそ、政策を発信する人々には、専門家の知見をピンポイントで実現するために知恵を絞ってほしいと思っているし、何よりも、「受ける側」が、これ以上変な方向に行かないように先回りしてできることをやらないといけない。

まだまだ長い「コロナ下」の日々は続きそうだけど、夏の太陽が照り付ける頃には、ビールが飲める場所ももうちょっと増えてくれることを願って、専門家の叡智とともに、賢く乗り切らなくては、と思っている。

*1:医療機関の崩壊を防ぐのも大事だが、物流網に過大な負荷をかけて崩壊させない、ということも同じくらい大事なことなわけで、自分の足で買いに行けるものは買いに行く、というのが全ての基本だと思っている。

*2:「このままでは8割減できない」 「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース

*3:もちろん、これが「検査数を増やせない」という絶対的制約の下、限られた判明例から追った結果の推論に過ぎない、ということは前提となっているようで、インタビュー記事の行間からも、その辺のもどかしさが伝わってくるところはある。

*4:スーパーにしてもコンビニ、ドラッグストアにしても、現時点では「コロナ前」よりも売り上げがはるかに上がっている状況だけに、体力的に店を開け続けることはできる(しかも営業時間の短縮によってコストも浮く)だろうが、結果的に従業員への感染リスクが増加すれば、それはそれで営業継続にはネガティブに働いてしまうわけで、結局、自治体が要請する、しないにかかわらず、今後「自主休業」を決断する可能性もないとは言えない。

*5:「完全在宅勤務」となると、会社によってはハードルが高いところもあるだろうが、一日のうち出社する時間を1~2時間に区切って時間差で出社して仕事を片付ける、という業務の回し方をするだけでも「2メートル以内の接触」はかなり減らせる。そもそもホワイトカラーの仕事の価値は「在社時間」で決まるものではないのだから、「8時間」もオフィスにいないと仕事したことにならない、という発想自体が前時代的で失当だと自分は思っている。

*6:決して正確に測ったわけではないが、自分がフリーになって少し落ち着いた頃の他人との接触機会は、それ以前と比べて「9割」くらいは減っていた気がする。それでも仕事には全く支障はなかったし、それまで以上に恵まれた生活ができる、ということに気付いた時、それまで何十年も無駄なところにエネルギーを使っていたことをちょっと後悔したのだった。

*7:少なくとも今の都内の電車の乗車率なら、席に座ることを考えなければ、周囲と十分距離を取ることは可能である。

*8:本来なら、飲食店がもっと毅然と「グループ客入店禁止」、「個食のみOK」を打ち出すべきところだと思うし、それが徹底できるなら、こんなに多くの事業者が「休業」する必要もないと思うのだけど(そして自分の食事の選択肢ももう少し増えるのだけど)、職場で昼飯を食べに行くにもつるまないと気が済まない一般的日本人に、そういう切り替えを求めるのはハードルが高すぎるのだろうか・・・。

*9:そもそも、今、我々から見えやすい業種、事業者がいろいろ苦しい状況に追い込まれているからといって、それですべてダメになる、というほど「経済」ってものは単純なものではないと思っている。もちろん、一部の業種であっても不況が長引けば、やがて金融システムや資本市場全体に影響を及ぼす可能性がないとはいえないが(逆に金融システムのダメージが実体経済にまで及んでしまったのが「リーマン・ショック」だったわけで、今回は12年前とは全く逆の構図だといえる)、今足元では、一部の業種が失った部分を他の業種が補っている、という側面もあったりするわけで、今月に入って市場も落ち着きを取り戻しつつあるのを見ると、「経済への打撃」を殊更に主張する言説はかなり眉唾だな、と思うところはある。もちろん、文字通り「食っていけなくなった」事業主個人の生活を守らないといけない、というのは別の話として存在するわけだが、「補償」を大盤振る舞いしてまで「事業」そのものを守らないといけないのか?と言えば、そこには多くの疑問が残るところである。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html