不合理なルールに縛られるな、という話。

先週の「緊急事態宣言」から1週間経ち、首都圏では、いわゆる「テレワーク」によるオペレーションが所定になった会社もかなり増えたのではないかと思う。

早いところでは3月中から、動きが鈍かった会社でも4月に入ってからはさすがに、ということで、それまでの「仕事は会社に行ってするもの」という固定観念がガラリと変わってきた状況でもあるのだが、それとともに、「在宅だとやっぱり不便」とか「生産性が落ちる」という声から、「ストレスが・・・」的な声まで、ネガティブな声もちらほら聞こえてくるようになってきた。

自分は、「PC1台持ち歩くだけで、いつでもどこでも仕事ができる」という生活をこの1年謳歌してきた人間だから、一般的な仕事の仕方として「固定したオフィスに縛られるのが良いか、それとも自分のスペースで仕事ができるのが良いか?」と問われれば、当然後者に決まってるじゃないか!、という答えしか出てこない。

とはいえ、会社時代の経験に照らして考えると、「テレワーク万歳!!」とは言い切れないところも当然あるな、と思うわけで。

まず、何よりも一番大きいのは、「ハード面の問題」だろう。

「会社から仕事用に支給されているのが持ち歩けないデスクトップPCで、それ以外のPCから社内のシステムにアクセスすることも不可能。よって、「在宅」と言われても手元に何も仕事を進めるための武器がない。」

というのが、「在宅」と言われて一番困る典型的なパターンで、ここ数週間、相談を受けてきた中でも、意外とそういう会社はまだ多かったんだな、というのが素朴な実感だったりする。

また、

・自宅に持ち帰れるPCはあるのだけど、自宅の通信環境が脆弱で仕事がはかどらない。
・社内システムに接続しようとしても回線が重くてなかなかつながらず、ストレスになる。
・社内システムが過剰なセキュリティ重視志向で設計されてしまっているので、社内から接続するときに比べてあまりに手間がかかる。

といった問題も当然出てくる*1

そもそも、多くの会社では、こんなに大規模に、現場以外の社員が「原則全員」テレワークに移行するような事態を想定してリモート接続のシステム設計をしていないはずで、原則と例外が逆転してしまった結果、ハード面での不都合が随所に出てくるのは避けられないところだろう。

さすがにこの「例外的事態」が、数日、数週間のレベルから「数か月」レベルに拡大していきそうな状況になって、それに合わせた対応を急ピッチで進めている会社は多いので、来月になればだいぶ状況は改善されるのでは?と期待したいところではあるのだが、「やむなく出勤」している人々が一定数残っている背景には、そういう事情もある、ということだけは、ちゃんと心に留めておく必要があると思っている*2


仮に「ハード」面の問題はクリアできていても、次に来るのは「代替オフィスの環境」面の問題。

単に部屋が狭い、とか、仕事用の机がない、という話であれば、工夫次第でどうにでもなるところはあるのだが、小さいお子さんがいる家庭で、しかも夫婦二人とも在宅で「仕事」をしなければいけない、という状況だと、そりゃあまぁ誰がどう見ても一日8時間仕事に専念し続けるのはキツイでしょう、という話になる。

数日前の日経紙には、「2歳女児を育てる埼玉県ふじみ野市の女性会社員(37)」のコメントとして、

「「子供をそばにおいての在宅勤務だと成果は半分ぐらいになる」と悩む。昼休みが45分と決まっているのも頭が痛い。昼ご飯を用意し、食べさせ、片付けるのに1時間は欲しいが「規定以上に休むと、チャットツールで離席が分かってしまうので気まずい」」
「「成果は半分」だから半休扱いにしてもらおうか。昼休みの15分延長が可能か。上司に相談もできるが「人事が対応してくれるかは心もとなく、自分が頑張ればいいと思ってしまう」と漏らす。」
日本経済新聞電子版2020年4月14日 23:00配信)

ここは、そもそもの話として、「今のような状況で求められる『成果』なるものが、平時と同様のボリュームのものなのか」という素朴な疑問があったりもするのだが*3、それをさておくとしても、個人的には、今のような状況になろうがなるまいが、ホワイトカラー、特に法務部門で仕事をしているようなブレインワーカーにとっては、「8時間ずっと仕事し続けないと仕事したことにならない」仕事なんて存在しない、と思っているので*4、そこはルールを柔軟にすることで対応できる部分はいくらでもあるはず。

ところが、そんなところで出てくるのが最後の一番厚い壁・・・


筆者自身、会社員時代に一番腹を立てていたこと、そして、今でもそんなに変わってないんだろうな、と思うのが、「テレワークを必要以上にやりづらいものにする社内ルール」の存在だった。

ざっと挙げると、

・執務場所は「自宅」でなければならない。
・ネット接続する際は、会社支給のルーターを使わなければならない。
・業務時間は通常の勤務時間に合わせなければならない(早朝とか深夜にシフトさせて昼間を「休憩」に充てる、というのはNG)。
・勤務の開始・終了時だけでなく、休憩に入る時も上司に連絡しなければならない。
・業務資料の紙での持ち出しはNGで、全て業務用PC端末上で仕事を処理しなければならない。 
・「在宅」を申請した日は、終日「在宅」で仕事をしなければならず、途中から会社に出勤した場合は在宅で仕事をしていた時間が「休暇」扱いになる。

等々、挙げていけばキリがない。

さすがに執務場所の制約に関しては、試行段階で猛烈にクレームをした結果、実質どこでもよい、ということに緩和されたし*5、それ以外のルールに関しては、「そんなもん、いちいち守ってられるか!」と意図的に無視していたのがかつての自分だったのだが、几帳面にルールを守ろうとする人であればあるほどそのルールに首を絞められ、しかも、曲がりなりにも「ルール」として存在するものがある以上、「そこまでしなくても良いのでは?」と正面から言いづらいところがまた厄介なところであった。

もしかしたら、今この手の話で悩んでいるのは、昨日今日「在宅勤務」を導入したところより、前々から”先進的”にリモートワークに取り組んでいた会社の方なのかな、と思うところはあって、「平時」に作ったルールの存在が非常時の柔軟な対応を妨げる、という”日本企業あるある”状態に陥っている会社は、決して少なくないのだろうけど・・・(特に人事部門がルール作りを仕切っている場合はなおさら・・・)。


誤解を恐れずに言えば、

「あらゆるルールは、柔軟に解釈され、状況に応じて乗り越えられるべきものである。」

というのが、この件に限らず、今直面しているあらゆる問題に対処するためのカギになる考え方だと自分は思っている。

もちろん、乗り越えた先に達成される「目的」が、当初設定されたルールの「目的」に反するものであってはいけないが、逆に言えば、当初の目的に反しない限りは、ありとあらゆる合理的な選択肢を追求していくことは認められるべきだし、その可能性を排除してしまったら乗り越えられる危機も乗り越えられなくなる。

そして、煽るわけではないのだけれど、「今、窮屈なルールを守ることによって得られるメリットよりも、ルールを逸脱することで得られるメリットの方が多いことが分かっているのに、愚直にルールを守り続けることしかせずに不自由を訴えているのだとしたら、それはただの言い訳に過ぎない」ということも、強調しておきたい。


客観的に見れば、「仕事のこなし方、進め方を自分の頭で考えて、直面した問題への答えを見つけ出し、今何をすべきか判断できる」という能力を一通り備えた方々(要するに、自力で仕事を進めることができる方々)にとって、固定的な「職場」やそこでの面倒なあれこれに縛られず、自分の裁量で仕事を進めることができる環境こそがベストだ、ということに疑問を挟む余地はない*6

だからこそ、そんな環境を不可逆的に残していくために、最適のルールを自ら作っていくつもりで挑んでいければな、と思うのである*7

*1:筆者自身、会社にいた頃はこの辺のあれこれに悩まされてきたのだが、その”解消策”は後ほど。

*2:進んだ環境で仕事をしていると、どうしても「そうではない環境が今でも残っている」ということを忘れがちになってしまうので。自省も込めて。

*3:こればっかりは、コメントされている方がどういう仕事をしている人なのかにもよるので、何ともいえないところはあるが・・・。

*4:会社にいた時に24時間ほとんど仕事に費やしていたヤツが何を言うか!という突っ込みはあるだろうが、職場にいる時間の「不効率」にいちいち付き合わずに淡々と自分の仕事に徹していれば、仕事に費やす時間は3分の1くらいで済むだろうね、というのは当時から思っていたことなので、特に「自分の仕事」に専念できる立場の人とか、プレイヤーとマネージャーの兼務で日頃苦労していた方は、これぞ千載一遇の好機だ、というくらいの心持ちで今を過ごせていただければ、と思っている。

*5:もっともその「緩和」は、今の状況の下ではあまり意味がないものになってしまったのだが、それでも自宅に仕事ができるだけの物理的なスペースも心理的な居場所もない、という人々にとっては、「自宅外」の選択肢があるかどうかの違いは大きい。

*6:少々キツイ言い方にはなるが、(家庭の状況云々という事情がある場合は別として)「ちゃんとしたオフィスで仕事をしないと成果を出せない」と言っている人の多くは、そのオフィスでもロクロク仕事はできてない(仕事しているような気分になっているだけ)のだろうな、ということは想像に難くないところである。

*7:これは、まさにこの種の制度を享受している側だけでなく、この種の制度設計づくりを助言、支援する側にとっても求められる感覚であり、そして、単にセキュリティが確保されればよい、とか、単に労働時間が管理できれば良い、という発想だけで仕組みを作るべきでもないと思うので。

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